分娩予定日を過ぎても産まれないのを「長期在胎」と呼ぶが、どれだけ過ぎればそう呼ぶのかわからない。
「獣医産科・繁殖学」(文永堂)にもその定義は書かれていない。
馬については、Williams(1940)という人が、「馬の胎子が死亡した場合には、流産よりもむしろ長期在胎が多い傾向がある」と述べているそうだ。
これは、予定日を過ぎた死産がかなりあることを言っているのかもしれないが、正しいとは思えない。
Vandeplassche(1980)は長期在胎馬21例について調べ、
「馬の長期在胎に関しては、いかなる治療も、あるいは分娩誘起処置も通常は不必要であり、これらの馬は健康で、腹部の大きさも正常である」
と結論しているそうだ。
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ときどき、分娩予定日を大きくずれ込んで、「まだ産まれないんだけど、大丈夫でしょうか・・・」と相談を受ける。
中には、「もう帝王切開してでも出して欲しい」と言ってきた人もいる。
とくに症状がないことを聞いて、「ちゃんと準備ができてから産まれるので待ってください」と言うことにしている。
牛は分娩が遅れると胎子が大きくなることがある(牛の種類や飼養条件によっても異なるようだ)が、馬の場合はその心配はしなくて良い、というか心配しても仕方がない。と思っている。
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今年も、1年と10日ほどの妊娠期間で分娩した例を聞いた。
その例は、胎盤炎があり、途中流産徴候を示したこともあったようなので、まったく正常とはいかないが、妊娠期間375日ということになる。
とくに異常がない例で、最長どのくらいの妊娠期間(分娩の遅れ)で正常なお産をした例があるのか知っておきたいところだ。
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妊娠末期に死んでしまった繁殖雌馬。
外貌から腹壁ヘルニアを起こしたのだとわかった。
このように下腹部が落ちてしまう例では、骨盤前縁に付着している腱が断裂してしまっている。
このようになるのは老齢馬か、異常に妊娠子宮が大きく重くなる胎膜水腫であることが多い。
あるいは双胎でも起こるのかもしれない。
しかし、この馬はただ胎子が異常に大きいだけで、胎膜水腫や羊水過多ではなかった。
このおんまさんの場合、高齢だったのでしょうか。
妊娠期間にも多少の個体差があるのでしょうけれど、「異常」とわかるのであれば、助けられる可能性や、予防の方法もあるのではないかと、そんなふうに考えました。
重輓馬の生産地では、腹に1年入っていてもさほど驚く人はいないようです。
厳寒期の飼養環境と栄養状態も影響していると私は思っています。
かつての診療地区で
冬季昼夜牧の馬群は妊娠期間がことごとく330日より長く
冬季舎飼の馬群はことごとく予定日より早く分娩した
という経験をしました。
人のように妊娠中、検診を受け、分娩は病院で。というようになれば助かる馬もいるのでしょうけど、現実には難しいでしょうね。
母馬の栄養不良や胎盤の異常により胎子の発育不良で分娩が遅れるということはあるようです。
それとは逆に、胎盤や胎子の異常で早く生まれてしまうのも居るので、話が複雑になりますね。