北海道獣医師会から戻ってきたその日、3ヶ月齢の黒毛和種子牛が球節を脱臼しているようだ、との電話依頼。
忙しい日で、出張から戻ってきた私が電話に出たのだった。
綿包帯を巻いて、添え木(副木)を肘から肢先まで当てて、しっかりしたテープでグルグル巻きにして連れて来るように指示した。
添え木の先は蹄尖よりも先へ出しておくと好い。
-
来院したら子牛は副木を使って上手に歩いている。
仮固定の仕方としては完璧。
そのままX線撮影したら・・・中手骨遠位成長板の離解だ。
わずかに三角の部分があるので、Salter-Harris 損傷の2型だ。
-
鎮静剤を投与して牛を寝かせる。
ドリルで蹄尖に孔を開けて針金を通し、それにロープを通して肢を引張る。
その状態でずれてしまっている成長板を整復する。
整復した獣医さんによると、はまった感覚はなかったそうだ。
X線撮影して、整復できているかどうか判断する。
子牛の横骨折だと、多少のずれがあっても骨癒合するとされているが、
成長板がずれていると、成長するための軟骨が機能できず、あるいは片側だけが骨癒合してしまい、肢が短くなったり、曲がってきたりしかねない。
完全な整復ができていたので、筒状の伸縮包帯を肢に履かせる。
キャストトップと球節と副蹄の下だけはエバウールシートで保護する。
子牛のキャスト固定では綿包帯はいらない。
キャストを巻いたら、またX線撮影してキャストの中で骨折が変位せず外固定状態も良いことを確認する。
-
基本的には蹄尖まで完全に覆う。
そのことでキャスト内で肢が動かない。
蹄が露出しているとキャスト内で肢が動き、キャスト擦れの原因になり、荷重が骨折部にかかってしまう。
下巻きとして綿包帯を巻いていないので、キャストが肢にフィットしている。
わずかに浮いて見える球節背側と副蹄遠位と副手根骨部はエバウールシートを当てているからだ。
ー
牛のキャスト固定もできればX線画像を確かめながら処置を進められる所でやるのが良いと思う。
DRなら牧場へ持って行けるし、CRのあるところへ子牛を運んでしまうのも方法だろう。
そして、獣医師が複数で処置に当たれれば治癒率は向上させられる。
結果的に巻き替えやキャスト擦れの処置に通ったりする手間を減らせるのではないだろうか。
今回の北海道産業動物獣医学会で発表があった。
北海道で年間500頭近い子牛の骨折のカルテが家畜共済で扱われている。
部位により治癒率は大きく異なる。
わが地区の治癒率は優秀だ。
//////////
滝壺をのぞけたら・・・・という水槽。
電話での指示の実践も整復も咬み合ってますよね。
一度は実際にみたり、実習したりするとこがよりより治癒には大事なのかな?と思います。
成牛は骨折の治療対象とならないことが多いかもしれませんが、子牛はあきらめずに治療してもらえるようになってきているのでしょうね。
地区全体のレベルが高いのですね。
滝つぼ!こういう展示を思いつくのはよく知っているからでしょうけど、できちゃうのがすごい。そりゃ行きたくもなるわけだ。
われわれの地域は数字に表れるほど熱心に個体診療し、その技術も高い。誇りにしようと思います。
単独で固定した治癒率と複数の獣医師で対応した場合もしくは診療所に持ち込んだ場合を比較するとそれぞれの立ち位置が明確になってくると思います。
n=500なら数年で傾向はつかめるでしょうし、あとはhig先生の所に判断任せようの体制を変えていけるでしょう。
撮影装置のある所に持って行ってでも自分で考える、という所から大学教育の延長が続くと思います。
端からこんなこと自分ではしないんだ、という取捨選択を励行していたのがかつての獣医学教育なのかもしれないですけれど、そういう恣意で現場の限界を決めることは飼養者の福音にはならないですよね。
本人は楽ですけれど。
DRが普及すれば往診先でもX線画像を確認しながら整形の処置が可能になります。
骨折を評価し、整復を評価し、キャストを評価する。
250万ほどで買えるといううわさも・・・