中華料理で「排骨麺」と書いてあることがある。あれは「腓骨(すねにある細い骨)」ではなく、「排」には「並ぶ」という意味があり、肋骨のことなのだそうだ。
つまり、「排骨麺(パイコーメン)」はアバラ肉入りのラーメンであることが多いようだ。
一方、腓骨は人ではより太い脛骨と並んで下腿(膝から足首まで)を作っている。
その腓骨から足根骨・中足骨に伸びている筋肉に、長腓骨筋・短腓骨筋とあり、さらに第三腓骨筋がある。
人の第三腓骨筋は腓骨の遠位部から中足骨までを結んでいて、短腓骨筋よりさらに短く、太さもたいしたことがない筋肉だ。
(右; 肉単 NTS社 より)
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しかし、馬の第三腓骨筋はけっこう臨床的に問題になることがある。
切れてしまうことがあり、この第三腓骨筋が切れると、後膝を屈曲させたまま、飛節を伸展させるという本来馬ができない後肢の動きができるようになってしまう。
(左;ルーニー先生の「馬の跛行」より)
馬の後肢は、後膝、飛節、球節と、逆方向に屈曲するのだが、長い筋肉や腱でつながっているために、別々に屈曲させたり伸展させたりできなくなっている。
そのことで、お尻や太ももまわりの強大な筋肉で後肢全体を一気に曲げたり蹴ったりできる。
(右;Adam's Lameness in Horse より)
ところが、第三腓骨筋が切れるとその統合性が一部失われてしまうのだ。
(第三というが、馬には長・短腓骨筋は無い)
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動物の解剖学は人の解剖学を基にしていて、筋肉も、起始部と終止から、馬のこの筋肉は人のあの筋肉だからと名前が決められている。
馬の三角筋は三角形ではないが、三角形をしている人の三角筋に相当する筋肉だから三角筋と呼ばれる。
ところが、馬の第三腓骨筋は人とは異なり、その起始部は大腿骨の伸筋窩と呼ばれる外側の凹み。
ここは大腿骨外側滑車の遠位あたりになる。
(本当に馬の第三腓骨筋が人の腓骨筋に相当する筋肉なのかどうか私には疑わしく思える)
当歳馬や1歳馬では、骨が柔らかいので、第三腓骨筋が切れるのではなく、大腿骨の伸筋窩が第三腓骨筋に引っ張られて捻除骨折することの方が多いように思う。
(といっても数例しか診たことがないが)
これはうっかりすると大腿骨外側滑車のOCD(離断性骨軟骨症)と間違いやすい。
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馬の第三腓骨筋は英語では peroneus tertius と書かれていることが多い。
peroneus はギリシャ語で「留め金」。
腓骨 fibula はラテン語で「留め金・ピン」の意味なのだそうだ。
だから第三腓骨筋は fibularis tertius でも構わない。
というか、腓骨を fibula と呼んでいるのだし、学名はほとんどラテン語から来ているのだから、本当は腓骨筋は fibular muscles と呼ぶべきだろう。
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頭にあったのは、
昔、となり街にあった中華料理屋のちょっと気に入っていたパイコーラーメンと、
某所でみた屋台の「排骨麺」の掛札と、
第三腓骨筋起始部骨折を診断できなかった、それぞれに少し切ない思い出だ。
「馬の後肢は・・・別々に屈曲させたり伸展させたりできなくなっている。そのことで、お尻や太ももまわりの強大な筋肉で後肢全体を一気に曲げたり蹴ったりできる。」
この一文は、牛でも言えますね。
臨床解剖学の必要性も、同様だと思いました。
馬は運動過剰で、牛は運動不足。
それによってどういう異常が出やすいかを
解剖学から解き明かす必要性を感じます。
牛も同じ機能を持っていますね。「Lameness in Cattle」などを見ると、馬に比べてまだ知見が足りないと思います。牛の運動器の名著が望まれるところですが、あまりに飼い方に左右されるので難しいのかもしれませんね。
第三腓骨筋断裂の症例があるのはさすが馬の産地ですね!
(不思議な肢の角度を一度みてみたいようにもおもいます^^;)
Reciprocal apparatusというものですね!(萌え~*^^*)
>馬の第三腓骨筋が人の腓骨筋に相当する筋肉なのかどうか私には疑わしく思える
知りませんでしたが起始部がちがうのは、なるほどそうですね?!
牛の後肢は知りませんでしたが、馬と同様の構造があるというのは、進化的に離れているのに同じということが、かえって不思議に思えます。
競走馬でもあるようですよ。肢をどこかへひっかけてしまうとかの事故のように思うので、乗馬もきっとあると思います。
人の解剖学を基にしているのは仕方ないと思いますが、起始部が違うのに腓骨筋だとするのは無理があるのではないでしょうか?ましてや、長・短腓骨筋は無くて第三腓骨筋だとする根拠はどこにあるのでしょうか?
まあ、人も、牛も、馬も、われら動物みな兄弟。というところなんでしょうね。