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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

黒毛2ヶ月齢子牛の中足骨粉砕骨折のキャスト固定

2024-09-08 | 牛、ウシ、丑

2ヶ月齢の黒毛子牛が中足骨を粉砕骨折している、と午後に相談。

DRでX線撮影しながら、複数の獣医師で対応できるように、来院して治療することを提案した。

ひどい粉砕骨折だが、フルリムキャストで治癒できる可能性が大いにあるだろうと判断した。

              ー

応急処置しないまま、敷料の上に大人しく座って来院。開放骨折にならなくて幸いだった。

中足骨近位部は骨幹端まで亀裂が入っている。

粉砕部は細かい破片が多く、lag screw で再建するのは無理だ。

              ー

蹄尖にドリルで孔を開けて、ワイヤーを通し、それを牽引する。

2重にしたストッキネットを通し、飛節と球節にはエバウールシートを当てる。

5のファイバーグラスキャスト材を2本、

4を1本巻く。

蹄尖も覆われて、数週間は露出しないように。

              ー

巻き終わったらX線撮影。

角状変形もなく、骨折端(複雑だけど)の接触も悪くない。

下巻きとして綿包帯を使っていないので、キャストは中足骨に沿っていて変位を抑えていることに注意。

            ー

10頭くらいのペンで他の子牛と人工哺乳で育てられていたが、柵を跳び越して骨折していたそうだ。

            ー

子牛は立たないまま、またトラックに乗せられて帰って行った。

体重を測るのを忘れた;笑

            ー

帰ってから子牛は立ち上がるようになり、起立後のX線撮影をされたが、大きな変位はなく、キャスト固定は維持されていた。

4-6週間で骨癒合するだろうと期待している。

           ーーー

輸送のために応急処置するならEhmer sling が有効だったのではないかと思う。

Ehmer sling (demonstrated on a donated canine cadaver)

 


子牛の消化管閉塞への対応は難しい そして、「ともぐい」

2024-02-21 | 牛、ウシ、丑

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

        ー

そのあと、1歳馬の原因不明の発熱。

腹腔内におそらく膿瘍と思われる塊が見つかった。

        ー

1ヶ月齢で、腹囲膨満し治療を受けた黒毛和種子牛が死亡した、とのことで剖検依頼。

第四胃捻転だった。

すでに壊死が始まり、腸管が癒着していた。

早く開腹すれば助かったかもしれないが、そのタイミングがいつだったのかはわからない。

        ー

もう1頭、黒毛和種子牛が3日間ウンコがでない。

疝痛はないが、腹囲が大きい。

超音波検査では・・・・よくわからない。

もう開腹してみなければならないだろう。

手術台で仰臥にすると、臍の左尾側の腹腔内に塊を触る。

開腹したら・・・

癒着したフィブリンの塊だった。

剥がしていくと、第四胃に小さい穿孔が見つかった。

牛の治癒能力で、汎腹膜炎にならずに済んだのだろう。

第四胃潰瘍の穿孔か??

穿孔創を縫合して閉じ、腹腔内を洗って閉腹した。

第四胃捻転も第四胃穿孔も、人工哺乳の弊害かもしれない。

         ー

午後は、1歳馬の球節の骨片摘出の関節鏡手術。

第一指骨掌側突起の骨片骨折だった。

         ー

もう1頭。

2歳馬の繋靱帯の外科的トリミング。

種子骨付着部の結合織の塊を摘出した。

         ー

韓国済州島からの研修の先生は今日で終了。

お疲れ様でした。

済州島でのサラブレッドの生産頭数は1000頭くらいかな、とのこと。

開業獣医師の診療所で働いていて、OCDの関節鏡手術が多いそうだ。

開腹手術や競走馬の骨片骨折は、KRAの診療所が対応している、とのこと。

済州ポニーは、価格が安いので、あまり診療対象にならないそうだ。

韓牛は誰が診療しているのか、よく知らない、とのこと。

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図書館で借りて読んだ。

期待してたけど・・・・・

熊爪という明治の狩猟者。マウンテンマン。

生への執着が乏しいのではないか。

私は、生き物の命を扱う仕事をしていて、感心させられるのは

馬たちが決して自分で生きるのをあきらめたりしないことだ。

河﨑秋子さんもかつてはご自身でヒツジを飼っていたそうだが・・・・

この主人公の生を軽視していないか?

マウンテンマンは世捨て人ではない。

その姿に生への賞賛を描かないと、偉大な物語にならない。

 

 

 

 

 


Radial Fracture in a 2MO Japanese Black Calf

2023-12-20 | 牛、ウシ、丑

よその地区の2ヶ月齢の黒毛和種子牛が橈骨を骨折して発症翌日来院する、とのこと。

47kg、ちょっと小さめかな。

とても珍しいことなのだが、完全骨折にも関わらずほとんど変位していない。

しかし、近位方向へ螺旋状に骨折線は延び、骨端線に到っている。

どのような内固定をするか・・・・

頭側にDCP

古典的な方法だが、子牛の頭骨は頭尾方向にとても薄い。screw保持力が乏しく、固定力も創り出しにくいと思われる。手痛い失敗をしたこともある。

そして、頭-尾方向Xrayで近位部に骨折線が長く見えるのだから、頭側にプレートを置いてscrewを入れると、亀裂骨折を広げてしまう可能性がある。だから、頭側にプレート1枚は選択肢ではないだろう。

内側にDCP

牛の頭骨骨折は、骨折の形状 configuration にもよるが、内側にプレートを当てるのが良いのではないかと近頃は考えている。

頭-尾方向のXray画像で見えている近位部の亀裂を保持するためにも内-外方向のscrewが有効。

LCPあるいはダブルプレート

橈骨骨幹中央から近位への粉砕骨折でもあるので、本当に強度を創るためにはLCPを使うか、ダブルプレートするのが望ましいかもしれない。

しかし・・・

どちらにしても器材が高くつく。

現在の黒毛和種素牛の市場価格を考えると、費用がかかっても確実に治したい、というより治療費は安くおさめたいだろう。

ORIF or MIPO

Open Reduction and Internal Fixation 切開し整復し内固定するのが手術しやすいが、

変位がほとんどないので、Minimally Invasive Plate Osteosynthesis 最小侵襲プレート固定ができるだろう。

          ー

橈骨内側にminimally invasive にDCPを当てることになった。私は助手を務める。

できるだけ長いプレートを入れたい。が、8孔は無理だった。

皮下にトンネルを作って、DCPを押し込む。

子牛の橈骨は薄い。ナローDCPでもうまく乗せないとscrewが橈骨からはみ出してしまう。

DCPは1mmの隙間もなく骨に乗っているのが理想。それをMIPOでやるのはかなり難しい。

screwで固定を始めたら、外側の亀裂は少し開いた。

最近位の6.5mmキャンセラスscrewは、5mm長いものに差し替える。

子牛の骨幹端のscrewはキャンセラスの方が良いと思っている。

が、正確な操作をしないと、ドリル孔に入って行かなかったり、

対側皮質のドリル孔ではないところを押してしまったりするので注意が必要だ。

DCPが橈骨内側にぴったりと当たった。

頭側にはプレートは要らないだろうと判断した。

          ー

MIPOで手術終了することができた。

DCPをMIPOで使うのは賛否両論あるかもしれない。

しかし、子牛のプレート固定では価値があると思う。

もちろん、正確な技術が要求されるし、正しく応用できれば、だ。

           ー

手術が終わって子牛は立ち上がったが、立ち方は心もとない。

来院したときに首に巻いていたネックウォーマーやたすき掛けの伸縮包帯は、ヴェルポースリング velpeau sling を巻いていたのが取れたのだろう。

それならと、輸送のため、あるいは術後数日間おとなしくさせておくためにヴェルポーを巻いて帰すことにした。

ヴェルポースリングを巻くのはちょっとしたコツが要る。

首に巻くのではなく、胴体に巻くのだ。

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来年、1月26日、栃木県那須塩原市での全国公営競馬獣医師協会の研修では、骨折内固定をテーマに実習しますが、

テーブルの1つは子牛のプレート固定を練習していただこうと考え準備しています。

診療対象は主に牛、という大動物獣医さんも、よろしければどうごご参加ください。

お申し込みは、全国公営競馬獣医師協会まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


乳牛と肉牛の飼養戸数

2023-12-15 | 牛、ウシ、丑

日本獣医師会雑誌から紹介した「産業動物医療の現状と今後の展望」。

覚えやすいように牛の頭数を大胆に四捨五入すると、

・日本の乳牛は140万頭弱である

・その60%は北海道で飼養されている

・日本の肉牛は270万頭である

・北海道はその2割

・九州は全体の36%を占める。

・北海道は乳牛80万頭、肉牛60万頭。九州は乳牛10万頭、肉牛100万頭。

            ー

飼養戸数のことを紹介しなかったので、あらためて整理しておきたい。

乳牛の飼養戸数、これは酪農家と言って良いのかな、1万3千戸。

北海道は5,400戸で全国の40%。(頭数では60%)

肉牛の飼養戸数は、全国で3万9千戸。

北海道はその6%で2,200戸。(頭数では20%)

九州は16,900戸で全国の44%(頭数では36.4%)

            ー

九州の、肉牛100万頭、肉牛飼養戸数17,000戸(全国の44%)はすごい。

北海道は、「単独府県では・・・」なんて言っていられない。

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スズメは6年くらい生きられるが、多くは1年以上生きられないそうだ。

冬を越すのがたいへんらしい。

餌台が空になると、樹に停まってエサをくれるのを待っている。

 

 

 


牛の骨折プレート固定の治癒率、成功率を上げるには

2023-11-20 | 牛、ウシ、丑

牛の骨折治療、特にプレート固定が必要な骨折の治癒率にかかわる要因と方策について考えてみたい。

             -

牛が骨折して、プレート固定が必要なら、

できるだけ早く手術した方が良い。

そのためには、農場からの診療依頼が早くされることが必要。

「この牛、きのうから立てないんだけど・・・」は、ちょっとのんびりすぎる。

骨折したあと、手術までできるだけ早く、正しく応急処置されることも大事。

橈骨骨折、脛骨骨折では、正しく副木を当てたり、キャストを巻いたりするのは難しい。

上腕骨骨折、大腿骨骨折では副木やキャストによる固定は無理。

子牛では、ベルポー包帯、ベルポースリング、Velpeau sling が有効だろう。

後肢なら、エーマー包帯、エーマースリング、Ehmer sling だ。

           -

骨折を診断し、評価するためのX線撮影もだいじ。

手術する外科医が欲しい角度で、良い画質のX線画像があれば、

手術適応を判断し、プレート固定計画を立て、準備しやすい。

           -

初期というか導入期には、難しい症例には手を出さないほうが良いかもしれない。

上腕骨骨折は、部位の中では難しいだろうし、

粉砕骨折や、

骨折部が長い骨折、

大きなピースがある骨折、

骨端に近い部位での骨折は、

難易度が高い。

体重が重い育成牛、成牛の骨折は、粉砕骨折が多く、整復が困難で、固定の強度が不足しがちだ。

「やってもダメだったじゃないか」と言われないためには、自分たちの現在の限界を知っておくこと、

症例を選びながら実績と成功体験を積んでいくことも大事かもしれない。

           -

一人で、往診先でできるのはX線撮影くらいで、そこからはチーム獣医療になる。

いつ手術できるか、術者、助手、麻酔、外回り、の人員をそろえられるか。

器具器材も滅菌して用意しなければならない。 

           -

内固定が失敗するパターンは主に3つ。

内固定の崩壊

感染

不運

これは、ペンシルヴァニア大学New Bolton Center で馬の内固定に取り組んで来られたRichardson教授の、経験から出た名言だと思う。

崩壊しない内固定を行うのは、手術する獣医外科医の経験と技量に負うところが大きい。

                                          ー

強度があるプレート固定をするためには、まず、整復が完全であることが重要。

整復を完全にすることで、骨折面は嵌まり込むように一致し、あとはずれないように固定するだけで強度が出る。

整復が不完全だと、インプラントで支えるプレート固定になりがちだ。

ピース、フラグメント、粉砕がある骨折では完全な整復が難しいこともある。

長斜骨折でも、牽引しきれないことがある。

           ー

プレート固定に、どのくらいの強度が必要かは確率論でもある。

できるだけ頑丈な内固定をすれば良いというわけではない。

そして、牛の骨折治療には経費を節約したい、という要素も付きまとう。

LCP/LHSは使いたくても、現実問題としては使いづらいだろう。

ダブルプレートが必要か?と考えても、プレート・スクリューの値段、2回に分けて抜く手間と費用を考えると、

プレート1枚でやってみよう、という判断は間違いではないかもしれない。

          ー

そして、強度のあるプレート固定のためには、ひとつひとつの手技が正確に行われていることも大切。

対側皮質にもしっかり効いていなければならないし、

DCPは正しくcontour されていなければならないし、

骨幹端には、6.5mm 海綿骨スクリューを使いたい。

必要かつ充分な強さでスクリューが締められているかどうかはX線画像ではわからない。

子牛のプレート固定で強度を創るひとつひとつの方法は、研修で紹介し、お教えしたつもり。

          -

感染してダメでした。というのは意外に牛のプレート固定では聞くことが少ない。

チャレンジしておられる獣医さんは充分注意しているのだろうし、牛は感染に強いのかもしれない。

感染したから、あるいは開放骨折だったから感染によってインプラントが緩んでダメになったのだ、

という認識がされていない、なんてことはないと思うけど・・・

          -

不運

これはあらゆる症例で付きまとう。

例えば親に蹴られて骨折する子牛も多い。

治療を機会に離乳して人工哺乳してもらえるならそのほうが安全だが、そうもいかないこともある。

その粗暴な母牛がまた蹴るかもしれない。

長い目で見れば、何が不運の要素なのか考えておくことは将来につながるのかもしれない。

逆に、やるべきことをやっても不運でダメだったら、また次回を目指せば良い。

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骨折症例は、それぞれが特異的であり、1例1例に個別のチャレンジが要求される。

Veterinary Cininics of North America, Bovine Orthopedics の中の一文だ。

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「北の国から」最初の家。

人の生活は便利になり、その分、人は不器用になり、創意工夫や手間をかけることはしなくなっている。

黒板五郎さんの生き方や暮らし方に見習うところがあるかもしれない。