日本獣医師会誌2023, 11, 484-490 に掲載されている「産業動物獣医療の現状と今後の展望」と題された論説はたいへん興味深い。
これだけ牛の獣医療の現状を整理して示した資料を見たことがなかったので非常に参考になる。
書かれたのは富山県の開業の先生のようだ。
養豚、養鶏、馬の獣医療については触れられていないので、「産業動物」としないで「牛の」とすれば良いのに、とは思う。
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乳牛は、令和5年に全国で1,356,000 頭、そのうち北海道は842,700頭で、62.1%を占めている。
東北が95,800頭で全国の7.1%、北陸(新潟・富山・石川・福井)が11,800頭で0.9%、関東・東山(茨城・栃木・群馬・東京、神奈川・山梨・長野)が168,000頭で12.4%、東海が45,300頭で3.3%、近畿が23,300頭で1.7%、中国が46,700頭で3.4%、四国が16,100頭で1.2%、九州が102,100頭で7.5%、沖縄が3,900頭で0.3%。
以前、私も日本の牛はどこに居る?という記事を書いた。
それから10年近く経っているが、日本の乳牛の6割以上が北海道に居るのは変わっていない。
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肉牛は、全国で2,687,000頭、そのうち北海道は566,400頭で、21.1%を占めている。
東北が338,500頭で全国の12.6%、北陸が21,100頭で0.8%、関東・東山が286,900頭で10.7%、東海が128,100頭で4.8%、近畿が93,900頭で3.5%、中国が131,800頭で4.9%、四国が61,300頭で2.3%、九州が977,400頭で36.4%、沖縄は81,000頭で3.0%。
北海道で「大動物臨床獣医師」をやっていると、「牛」とはホルスタインのことだと思いがち。
それは、北海道には84万頭も乳牛が居て、日本の乳牛の6割以上を占めているから。
しかし、全国では乳牛は135万頭で、肉牛は268万頭。肉牛の方が倍近い。
診療の対象になるか?頭数と診療件数が比例するかは別にすれば、全国では「牛」とはまず肉牛なのだろう。
(ただし、種類はわからない。ホルスタイン雄やF1は肉牛扱いされているのだろうし、黒毛和種以外の肉用種も居る)
そして、九州おそるべし。全国の肉牛の36%を占め、97万頭。
北海道は肉用牛も56万頭と単独府県では最多とは言え、九州全体ではほとんどその倍だ。その飼養密度おそるべし。
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著者も指摘しておられるが、気になるのは飼養戸数の減少だ。
乳用牛飼養戸数も、肉用牛飼養戸数も、令和4年から令和5年だけでも5%ほど減少している。
国は大規模化、企業化させたいのかもしれないが、それは本当に日本の農業・畜産事情にあっているのだろうか?
戸数が減少し、畜産従事者が減少しても、自治体は畜産行政に力を入れ、国は政策を維持するだろうか?
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獣医師は、全国で35,855人。令和2年つまり2020年のデータだそうだ。
うち産業動物分野が4,400人、公務員農林水産分野が3,400人、公務員公衆衛生分野が6,000人(ほとんどの公務員獣医師は配置転換があるので、これはいつも入れ替わっているのだと思う)、小動物診療分野が16,200人、その他が5,800人。
その他とは、教員、民間会社、海外技術協力などに従事する者だそうだ。
そして、無職を含めた獣医事に従事しない者が4,400人。
この40年の変化がグラフで示されていて、小動物臨床獣医師が3倍に増えているのが非常に大きな変化。
そして獣医師の数そのものは約3万人から4万人へと増えてきたのだ。
大動物臨床獣医師が不足しているとか、公務員獣医師が成り手がいないとか言われて久しいが、獣医師全体が不足しているわけでも減少しているわけでもない。
「獣医事に従事しない者」が全体の10%も居る。その率は大動物臨床獣医師の占める率と同じ。
「獣医事に従事しない者」の年代別の男女構成割を見ると、「獣医事に従事しない者」の40代では女性が83%、30代では75%、20代では57%。
就職氷河期で、まだ女性参画社会ではなかった40代の女性獣医師は難しい職業人生を選択しなければならなかったのかもしれない。
そして、産休育休制度が整いつつあるとしても、結婚、出産、育児は女性獣医師にとって獣医職を離れる機会や理由になるのだろう。
(個人にとっても社会にとっても、獣医事の中でも、それが良いとか悪いとか言うつもりはない。
ただ、現状だし、考えなければならないことだろう)
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長くなったので、つづく。
獣医師会会員には毎月日本獣医師会雑誌が届く。
学術学会誌部分はオンライン化され、タイトルしか載らなくなった。
「本号でご紹介する論文はありません」
という文もしばしば見る。
ビニル袋に入ったままゴミ箱へ入れる獣医さんもいるかもしれないが・・・・
2023年11月号のこの論説はぜひ読んでいただきたい。
将来の進路を考える獣医科学生さんの参考にもなると思う。
大学でも何かの講義の中で、獣医科学生たちにも紹介してやっていただきたいと思う。
現状を知らないで突っ込んでいくのも若さの特権だけど・・・ね。
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久しぶりに夜に呼び出された。
厩舎内での1歳馬の大怪我。
馬房の扉に肢を突っ込んだらしい。
できるだけ皮膚を被せておいてハーフリムキャストを巻いた。
ひどい怪我、しかも夜。感染症でダメになったりせず、順調に回復しますように。
獣医師免許も持っていても1割は獣医師としては働いていないようです。
大動物獣医師も公務員獣医師も、成り手がいなくて困っています。もともと無”獣医”地域はあったのですが、増えつつあるようです。
知り合いに45前で(牛メイン?)獣医師を辞めた方もいて"体力がねー、犬とか猫は勉強し直すのもねー、収入や開業費用もねー"みたいな話も聞いたことはあります。
そのケガ、治るんですか?皮膚を出来るだけより、ガーゼ保護、からキャスト。抗生物質内服?ですか?
45歳前でですか?働き盛りじゃないですか。どこか傷めちゃったですかね。なかなかキツい仕事だと思います。なにごともそうなのでしょうけど。
厩舎内での事故なので泥だらけではありませんでした。しかし、何もなかったようには治らないでしょう。そして、時間がかかるでしょう。
今45歳くらいの世代って、公務員獣医師ですら要らない言われたくらい氷河期ですからね。
大動物臨床分野馬も含めて全国年間たった50人くらいしか就職できていないはずです。
バブル後社会的爆縮の煽りを喰らって失われた10年言われもはや四半世紀みたいな。
今世代も足りない言われているからこの業界バブル求人なのでしょう。
その感覚の板挟みにされて耐えられないくらい心痛めてしまったかな。
治療方針判断に重大な責任が問われるくらいの怪我ですね。
お疲れ様です。
皮膚循環を阻害しないことを目的としたキャストが求められると思いますが、骨折固定と異なる勘所があったりしますか。
公務員獣医師がこれほど居るのも驚きです。獣医師でなければならない仕事をしているか?獣医師の仕事の中身も考えていかなければならないと思います。
キャストの巻き方もですが、後の監視も重要ですね。浸出液が染み出てくると思いますが、どこまで我慢すべきか。たいていはひどい外傷のキャストを外すと、「傷って動かなければ好く治るんだ」と驚かされます。が、さて・・・
税理士は人件費が支出の50%超えるのは問題だと言う
しょーがないから運転資金・回転資金を税金払ってでも多めに貯めないとダメだから、自分の給料増やさないで12年間くらい我慢する
と、女性問題は病院的には気にならなくなるみたいですよ
馬の獣医がいない関東だと(笑)
おかげさまで、関東の大したことない病院だけど、女性とか気にしないで雇う病院だとは言われるようになりました
まだまだブラックですけど・・・
女性歓迎の雇用主の本音ですか。
長く働き実績をあげている女性獣医師も居るし、男でも長続きしないのも居るし、一概には言えないのでしょうけど・・・・
余力以前に急患どうしてたの?と訊きたくなります。
実は永年永劫必要とされない人材の巣窟だったのかも知れませんね。
それで挙句に社会が悪いんだの共闘蝙蝠なのかも知れません。
ちなみにツケは個人払いでお願いしたい。
勿論余力を組織地位向上に回したところも存じております。
それでも乙外されて喘いでいるようですが、ステータスは無くならないですね。
次の損益分岐点はそういうところでも見据えられているでしょうかね。
ウェットドレッシングの限界に挑戦ですからね。
牛の鼻鏡断裂は寄せても得てしてすぐ離れてしまいガッカリとなる訳ですが、離れたはずのものがまた寄っていって良かったじゃん、となる症例もあります。
マクロで見えないコラーゲンが引き寄せてくれるだけのハンドシェイクさせれるかどうか、なのかな?
そのタイミングや環境はもしかするとヒントになるかも知れません。
この怪我がどうなるか、経過を訊いてみます。