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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

走行異常の大結腸の亜全摘

2023-08-26 | 急性腹症

広範な腸管の奇形があり、6月に開腹手術した3歳馬

その後は好調で、調教も始めていたが、3ヶ月あまり経ってまた疝痛を起こした。

それもひどくて鎮痛剤も鎮静剤も効かないとの連絡が朝に来た。

           ー

来院したら立っていられない。

これは様子を観ていられない。「開けましょう」

           ー

開けたら、盲腸が浮腫を起こして分厚くなっていた。色はわずかに薄紫がかって白っぽい。

大結腸を引き出したいが、素直に出てこない。

位置がおかしく、盲腸に巻付いたようになっている。

そのために盲腸が血行障害を起こして浮腫ったのだ。

(「むくんだ」と入力して変換すると「浮腫んだ」も選択の中に表示されるんだね。

読みにくいので、「浮腫った;ふしゅった」としておく。

正しい表現ではないので注意してね。

良い子は真似してはいけません、テストで書いちゃダメだよ、獣医学生さん達。)

変位としては右背側変位のようだ。

            ー

手前が腹側結腸。

盲腸結腸ヒダの付着部のすぐ遠位で蛇行している。

こうなっているので結腸変位しやすいのかもしれない。

通過もしにくいので、盲腸が長く発達したのかもしれない。

            ー

さて、どうする。

整復だけして、このまま腸管を温存したら再発するだろう。

結腸固定colopexy すれば変位や捻転は防げるが、

この奇形で通過が悪い大結腸を固定したら便秘による疝痛を起こしやすくなるだろう。

考えたあげく、結腸亜全摘することにした。

その部分で腸間膜が広く、腹側結腸動脈と背側結腸動脈を別々に結紮止血することになった。

大結腸動脈は2本ある。

解剖学的に正常な大結腸だと、それを意識したり、解剖で確かめたりしにくい。

2本そろって疎性結合組織に包まれ、周囲にはリンパ節がたくさんあり、結腸捻転例では結腸動脈周囲は一番浮腫がひどく、出血しているからだ。

吻合の手技も正常な構造の結腸とは少しちがった様子になった。

             ー

術後、馬は食欲もあり、水も飲み、順調なようだ。

生まれ持った腸管の異常を克服して競走復帰してもらいたい。

           //////////

なんだ、この暑さ。

朝からエアコンつけてる午後。

外で作業なんてとてもできない。

          -

馬もバテている。

気をつけてやってください。

 

 

 

 

 

 

 


The colic day in the midsummer

2023-08-12 | 急性腹症

朝、繁殖雌馬が来院していた。

前日も疝痛で、ひどくはないが、その朝も痛い。

何年も前に開腹手術歴がある19歳。

胃逆流が32リットル。

開腹したら空腸がどこかへ入り込んでいるように感じる。

術創を頭側へ伸ばすと、大網が空腸を絞扼していたのだった。

大網を切除すると簡単に解けた。

40cmほどは赤紫になって完全に壊死している。

そこを含めて60cmを切除し、端端吻合した。

以前の腸管手術と関係していたのだろうが、癒着はほとんどなかった。

術創ヘルニアがあったので、閉腹には注意が必要だった。

            -

終わった頃、当歳馬の疝痛の依頼。

臍ヘルニアがあった子馬が今朝は嵌頓し押し込めないし、発汗して「はらが痛い」。

急いで来て。

来院してすぐに開腹、というか臍を切り広げた。

空腸が2箇所で臍へ入り込んでいた。

変色と肥厚があったが、しばらく見ているうちに回復した。

これなら切除しないで大丈夫だろう。

            -

午後の手術の予定は時間をずらしてもらっていた。

その馬が向かっている頃、また疝痛の依頼。

昼夜放牧している繁殖雌馬11歳。

1時に放牧地で疝痛発見。

来院したが立っていられないほど痛い。

PCV47%、ひどい腹部膨満。

急いで開腹したが、結腸はひどい色。

内容を抜いて、捻転を整復したが、ほとんど回復しない。

粘膜も粘膜下織も暗黒赤色。

結腸動脈の拍動も弱い。

あきらめる。

            -

その前に当歳馬の疝痛の依頼も来ていた。

来院したらなんとなく落ち着いている。

超音波で小腸が膨満しているが、動いている。

胃拡張あり。

胃チューブを入れたら、赤褐色の液体が数リットル抜けた。

ひどい胃拡張で出血しているのだろう。

ロタ陽性だそうだ。

ロタ腸炎の初期の疝痛のようだ。

帰って様子観ましょう。胃潰瘍に気をつけて。

          -

暑い日が続いているが、特に今日はひどく暑い日だった。

馬もまいっているのだろう。

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いくらかでも涼しく過ごせるような工夫が必要かもしれない。

新鮮な冷たい水を飲めるようにしてやることも大事。

そして、食わせすぎに注意。


連敗を止めろ!

2023-08-09 | 急性腹症

夜、地元の獣医さんから疝痛の依頼。

繁殖牝馬が、フルニキシン、鎮静剤、投与したけど痛い。

超音波では何もわからなかった。直腸検査はしてない。グズグズしているより早く持っていった方がいいかと・・・・

「急いできて」

と答える。

この時点で推定診断はほとんどついている。

結腸捻転。

              ー

来院して血液検査して、PCVと乳酸値が高いことを確認する。

超音波で、右で肥厚した結腸壁が見えた。

間違いない。

他の夜間当番者を二人呼び出して、若い先生に開腹してもらう。

結腸の色調は悪い。

膨満がひどく、引っ張り出すのがたいへんだ。

腹腔深い部分で捻れているのを治せない。

結腸骨盤曲を切開して内容を捨てるが、結腸の色調はなかなか回復しない。

             ー

骨盤曲を一旦閉じて、結腸を腹腔内へ戻し、捻転を整復しようとするが戻せない。

右背側結腸にまだ内容が塊状に残っている。

もう一度結腸を引っ張り出して、骨盤曲をまた開けて内容を捨てる。

それで盲腸との位置関係を直すことができた。

結腸の色調は悪い。

亜全摘することにした。

終わって、入院厩舎へ入れてほとんど朝4時。

             ー

朝7時、この馬は入院厩舎で倒れて死んでしまった。

解剖したら、腹腔内にかなりの血があった。

3重に結紮した結腸動脈から出たのかもしれないが、手術時にはきれいに止まっていた。

腹腔をかき回すような手術になったので、ちぎれた大網などから出血した可能性もある。

            ーーー

数日した朝、夜間放牧明けの繁殖牝馬の疝痛の依頼。

収牧して飼いを食べたら痛い。

来院したらPCV60%、呼吸促迫。

超音波で右で肥厚した結腸を確認。

状態はかなり悪く、もうあきらめてもよいくらいだが、やってください、とのこと。

開腹して、大結腸を引き出して、骨盤曲を切開して、内容を捨てて・・・・・

そのまま捻転を整復して・・・・

競馬場から研修に来ている先生に結腸を持ってもらって切除吻合する。

しかし、切断部でも粘膜は完全壊死。

これは厳しい。

結腸動脈を三重に結紮するが、側副枝から出血する。

それも結紮して止める。

背側結腸と腹側結腸を吻合したが、今度は結腸動脈と反対側の漿膜下で血腫ができた。

漿膜を破いて血腫を掻き出すとその奥で出血している。

おそらく、結腸を切除できない温存部でも粘膜や粘膜下織まで壊死し、静脈が閉じてしまっているために鬱血状態になり、切断した部分での出血が止まらないのだ。

なんとか繕って止血し、閉腹した。

             ー

覚醒室で、体温40.2℃。

呼吸促迫。

疝痛で暴れているうちに熱中症を併発したのだろう。

覚醒室で寝ているまま水道ホースで水をかけて体を冷やす。

浣腸もする。

体の熱は下がった。

浣腸したので直腸温はあてにならないが36度台。膣温も高くない。

コロナの流行で事務所に配布された非接触式の温度計を持ってきて体表の温度を測るが下がっている。

             ー

この馬は入院厩舎で輸液を開始したが、夜には死んでしまった。

腹腔内で出血していたそうだ。

            ーーー

数日後、繁殖牝馬の疝痛の依頼。

夜間放牧から朝収牧して、飼いを食べている最中に疝痛が始まった。

フルニキシン、鎮静剤無効。

来院してPCV53%、乳酸値3.8mmol/l。

立っていられないほど痛い。

もう超音波検査はいいよね;笑

それより急いで開腹した方が良い。結腸捻転だ。

重症結腸捻転が続いて連敗中だが、そんなことを言っても仕方がない。

            ー

開腹したら結腸の色調は悪い。

引っ張り出して、骨盤曲を切開して内容を捨てて、骨盤曲を縫合閉鎖して、腹腔内へ結腸を戻して捻転を整復して・・・・

小腸も巻き込まれたらしく、位置がおかしく、色調が悪い。

盲腸から回腸、空腸とたどって最上位に到り、腸間膜に孔が開いていないことも確認して、今度は内容を反吻側へ送る。

それを終えても結腸の色調は完全には回復しなかった。

骨盤曲を切開したとき、粘膜と粘膜下織の色調がひどくはないが、よろしくなかった。

しかし、亜全摘するほどではないだろう。

             ー

午後1時半に入院厩舎へ連れて行った。

午後3時半に水をやってみたが飲まなかった。

翌朝、PCVは38%。妙に低い。呼吸促迫。

しかし、夕方には落ちついて帰って行った。

            ーーー

家畜高度医療センターの結腸捻転・変位症例は、2016年は44頭

2021年は84頭だった。

今年、2023年は何頭になるか・・・

                                          //////////////////

昼休みに帰ったら、エンジェルスが逆転するところだった。

気分良く午後の仕事に行ったのだが、クローザーが二人とも打ち込まれてボロ負けしていたのだった。

もうプレイオフ進出は厳しいのか?エンジェルス。

がんばれ!

大谷君はもうそれ以上がんばるな。十分だ。

 

 

           


過肥馬の疝痛・開腹

2023-07-26 | 急性腹症

繁殖牝馬が夜間放牧中から疝痛を起こしていた、とのこと。14歳。

鎮痛剤に反応せず、鎮静剤を投与しても痛い。

PCV49%

超音波で、右腹部は・・・

この馬は肝臓右葉が平べったく広がってるのか?と思った。

右腹部、もう少し尾側では膨満した小腸が見えた。

その辺りでも、腹壁のむこうに、左側だったら脾臓と見間違えるような”組織”があった。

胃チューブを入れたが、固形物ばかりのようで回収できない。

           ー

手術室が空いたらすぐに開腹する。

腹水は赤く、濁っていた。

空腸の纏絡だったようだ。

すぐに解けてしまい、どう絡んでいたのかわからない。

しかし、一部は完全に壊死しており、その上位も長く損傷していた。

6m切除して空腸空腸で端端吻合した。

           ー

閉腹するのだが、腹膜下脂肪が異常に厚い。

腹部超音波で見えていた腹壁奥の平坦で厚い”臓器”はこの脂肪層だったのだ。

私はいつもは腹壁を縫合閉鎖するときに腹膜の白線を縫合糸でひっかけるようにしている。

そのことで腹膜が欠損した腹壁にならない。

しかし、この馬は腹膜下脂肪が厚すぎて、それはあきらめた。

厚さ10cm以上あっただろう。

それを拾えば縫合糸が遠回りしすぎる。

腹腔の中へ手を入れると、腹膜下脂肪にはくびれができて段になっていた。

もうそれ以上厚くなれず、モコモコと・・・・腹腔内三段腹。

           ー

空胎だったのが、受胎している繁殖牝馬だった。

それにしても太りすぎで、餌は減らしているところだった、とのこと。

飼主は馬の肥満に気付くのが遅れがち

生産地のサラブレッドも、もう太りすぎの馬がかなり居る。

病的肥満は、

蹄葉炎をはじめとする蹄の問題を引き起こすし、

運動器全般にも負担になるし、

子馬の生産にとっても望ましくない。

過大仔、子馬の腱拘縮、難産、の要因になることも疑われている。

誰かしっかりした調査をしてくれないだろうか。

           ー

この馬は手術後数時間から疝痛を示した。

胃拡張があったようで、胃内容を洗い出し、リドカインの点滴を始めていくらか落ちついたが、まだ胃逆流があった。

経過から判断すると、吻合部の通過障害とか、術後イレウスPOI というより、「食い過ぎ胃拡張」のようだった。

徐々に落ちつき、水を飲めるようになり、わずかずつ食べられるようになり退院していった。

          /////////////

運動しながら少しずつ採食する

それが自然な健康な生活

わかっちゃいるけど難しいのは知っている

 

 

 


イベルメクチン駆虫後の疝痛は血塞疝だったのか?

2023-07-23 | 急性腹症

10歳の繁殖雌馬が、朝イベルメクチンで駆虫したあと、午後から疝痛を示すようになった。

激しい痛みではないが、前掻きし、横臥したそうだ。

治まらないので夕方来院した。

立っていられるが、前掻きする。

超音波検査で肥厚した内容のある小腸が見えるが、膨満してはいない。しかし、収縮運動はない。

PCV39%、乳酸値2.8mmol/l。

直腸検査では、腹圧は高くなく、明確な異常なし。

鎮静したら落ち着いていたので、入院厩舎へ入れて様子を観ることにした。

               -

鎮静が醒めたら、やはり痛い。滾転する。

開腹したら膨満部はない。

空腸の色調が悪く、粘膜が斑状に紫になっているのも見える。

円虫による栓塞で血行障害を起こしているのか?

イベルメクチンで動脈の中で死んだ仔虫がその先の動脈を閉塞させたのかもしれない。

前腸間膜動脈を触ってみる。

塊状になっているように感じる。しかし、しっかり拍動はある。

腸間膜の細めの動脈も拍動している。

盲腸、大結腸、小結腸もそれぞれ引き出すが、色調も正常、肥厚もない。

            -

手術後、入院厩舎でヘパリンを入れた持続点滴をすることにした。

翌日、馬の状態は良好で、疝痛もなく、退院していった。

            -

この馬が寄生虫性動脈栓塞による疝痛だったのかどうかわからない。

血塞疝はひどいと助けようがなく死亡する

秋から冬の当歳馬に多い気がするが・・・・・

繁殖雌馬でも起こる

開腹手術して助かった記憶はほとんどない。

外科侵襲は血液凝固系を刺激し、血栓を悪化させるのではないだろうか。

もともと腸管壊死が始まっているので、進行したら希望はない。

イベルメクチンで駆虫後に疝痛を示す馬はときどきいるようだ。

今回の症例を含めて、それらが血塞疝なのかどうか、わからないし、調べる方法も難しい。

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動物の多くは、ヒトの眼と比べると色弱だ。

ヒトの眼がどうして色調判別に優れているかは諸説あるようで、

果物や木の実の熟成を判断できることが生存に有利だったからとか、

他の固体の顔色を判断できることが生存に有利だったからとか、も考えられているらしい。

獣医師として生き残るのにも、色調の判断に優れていることが有利、なのはまちがいない;笑