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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

直腸壊死 原因は?

2023-12-19 | 急性腹症

小結腸便秘?の未経産馬は退院したあとも順調とはいかなかった。

便が出ない。ときどき疝痛する。

そして、流産し、起立難渋するようになった。

手術から4日後、担当の先生に様子を訊いて、「もうあきらめよう」

           ー

剖検。

癒着が始まっていた。腹水が増えるような汎腹膜炎ではない。

小結腸縫合閉鎖部は大丈夫。しかし、小結腸にまた便が貯まっている。

骨盤腔から小結腸末部と直腸を切り出すと、直腸はもう壊死して内容が漏れ出ていた。

直腸の一部が壊死して動かないことが全経過の本質だったのだろう。

粘膜側は幅広いリング状に浮腫を起こしていた。

なぜ直腸が壊死したかはわからない。

          ー

”突然”の腸管壊死・・・・

「駆虫してました?」と訊いたら、「やってた」とのこと。

念のため、と思って腹腔背中側の、左右の腎臓の間の前腸間膜根部動脈を開いてみた。

動脈は膨らんで、中に血栓があり、普通円虫の仔虫が見つかった。

動脈の内壁は粗造。

寄生虫性動脈栓塞だ。

回盲部を開けてみると

葉状条虫が・・・・

           ー

Equine Acute Abdomen, Equine Internal Medicine を調べてみたが、普通円虫の仔虫による腸管壊死は結腸、盲腸に多い、程度のことしか書かれていない。

前腸間膜根部動脈が寄生部位で、その血流支配域だからだ。

直腸と小結腸は、後腸間膜動脈から血流を受けている(上図)。

そこへ普通円虫仔虫が登っていくことは考えにくい。が、珍しいことも起こりうるかも。

また、血栓が流れてくるとか、凝固系亢進による影響はあるかもしれない。

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エサがスズメに食べられてしまってから餌台へ現れたヒヨドリ。

「腹減ったかい?」

追加でエサをやるのは考えものか。

野鳥だからね。

そういうとアイツもいつも腹すかせてる食いしん坊だった;笑

 

 

 

 

 


小結腸便秘?

2023-12-18 | 急性腹症

5歳の未経産馬が前日から疝痛。

次の朝には滾転したとのことで来院。

分娩予定まで4ヶ月。

血液検査所見も悪くはなく、超音波所見もはっきりした異常はないが、

直腸検査で、腕が入っていかない。小結腸に便が貯まり、捻れたような緊張も触る、とのこと。

異物による小結腸閉塞か?と思ったが、便しか触らない、とのこと。

開腹しましょう。

           ー

小結腸のトラブルなので、正中の尾側よりを開ける。

妊娠子宮の下に便が詰まった小結腸がある。

浣腸してもらうが、直腸から小結腸の全長に詰まった便はとても浣腸だけでは出せない。

切開して内容を出さなければならない。

そして、異物がないか、捻転したり、どこかにヘルニア(入り込むこと)したり、何かで絞扼されていないか探らないと。

しかし、妊娠子宮の下になるので腕も入れにくい。

妊娠子宮は引っ張り出したわけではないが、少しずつ術創の外へ押し出されてくる。

胎仔のためにも早く終わらせたいが、時間がかかりそうだ。

          ー

まず大結腸を右側へ引き出して骨盤曲切開する。

腹腔内で余裕を作りたいし、閉腹のためにも減圧しておきたい。

大結腸の内容は少なかった。さほど硬くはなかった。

右背側結腸から横結腸も空にし、小結腸へ水を送り込みたいが、そこまで空にできない。

何せ、妊娠子宮が邪魔。

          ー

小結腸のループを切開して内容を捨てる。

そこからホースを入れて、吻側と反吻側の内容も洗い出す。

簡単にはいかない。

小結腸の便は本来ボール状だが、それが詰め込まれて、水も容易には入って行かない。

小結腸は腸紐があって、引き延ばしてもまっすぐならない。

          ー

直腸まで便が詰まっている。

浣腸もしてもらって、便を軟化させる。

腹腔から出せない、目視することもできない部分なので、手触りで判断するしかないが異物はない。

狭窄したり、絞扼されたり、捻転している感触もない。

ただの便秘? 

何の原因もなく、小結腸や直腸でひどい便秘をすることなどほとんどないのだけど・・・・

          ー

小結腸から直腸をほとんど空にし、残っている便は軟らかく、異物がないことを確認して小結腸も縫って閉じた。

小結腸は腸間膜付着部の反対側の腸紐上を切開する。そして閉じるときは頑丈に縫わなければならない。

3時間がかりの手術になった。

          ー

術後の輸液は必要ないが、入院してもらった。

翌朝、馬は伏臥していたが疝痛ではなさそう。

直腸に手を入れると、軟らかい便があった。

通常の1/4量の塩類下剤を投与した。

軟らかい便が出ている状態を維持してもらうように指示して退院。

この馬がなぜ直腸で詰まり、小結腸便秘を起こしたのか結局わからなかった。

とても珍しいことだ。

そして・・・・・

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大掃除はふだん掃除しないところを、高いところから。

エアコンのフィルター。

暖房ファンのフィルター。

思っていたよりきれい;笑

あのホコリ発生装置が懐かしく、愛おしい。

 

 

       


盲腸重積は葉状条虫症

2023-11-09 | 急性腹症

この1週間、外傷馬が何頭か来た。

放馬して膝をぶつけた1歳とか、

集団で牧柵を破った当歳の1頭とか、

やはり放牧地で球節をめくってしまった当歳とか。

1歳馬が移動し、馬房や放牧地が空いたので当歳馬も移動し、群れが組みかえられたりするのが事故の要因になっているのだろう。

しかたないことでもある。

           -

そんな午後、疝痛の1歳馬も来院。

盲腸重積だった。

結腸へ入り込んだ盲腸を引っ張り出すのは厳しいか、と思ったが、S先生の頑張りでなんとか抜けた。

盲腸重積は葉状条虫症のひとつだと考えている。

年に1回か2回、葉状条虫に効く駆虫剤をやれば事足りる、というのは間違いだ。

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カシワ林の中のヤマモミジ

風から守られ、日当たりが悪いので葉が繁らず、そしてわずかに陽が刺せば輝く。

 

 

 


蠢く回虫

2023-09-04 | 急性腹症

関節鏡手術が終わった昼前、当歳馬の疝痛の依頼。

夜間放牧していて、朝厩舎に入れたら痛くなった。

激しくて鎮痛剤無効。

心拍54.

立てない。

胃tubeで逆流ほとんどなし。

超音波で小腸膨満。

5月生まれ。

「駆虫は?」

「してない」

じゃあ、回虫症だろう

これくらいやることやって、てきぱきと連絡をくれると準備と手配をして待てる。

           -

立てないので毛布に載せて馬運車へ運び込んだのだそうだ。

来院しても立たない。

横臥して立たない馬を立たせるには頭を飛節の方へひっぱるんだよ。

すると伏臥になって、飛節が曲がって、立ち上がる。

成馬じゃ力が要るけど、子馬ならできる。

           -

開腹したら予想どおり空腸が重積していた。

中に回虫が透けて見える。

重積も抜けた。

引き抜こうとするより、反吻側から押し出すのがコツ。

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(切った腸管、蠢く回虫の写真;見たくない人は注意。

駆虫してない馬屋さんは見といて)

飼い主さんを手術室に入れて観てもらった。

だから駆虫しなきゃだめだって言うんだよ。

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切断部からフルモキサールを吻側へ入れて、吻側へ推送した。

蠢く回虫は、吻合中に縫い目から這い出てくる

麻酔から覚めたら、今度は口から飲ませるようにフルモキサールを溶かしてシリンジに入れて渡しておいた。

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入院させずに帰ってもらう。

翌日から少しずつ哺乳させる。

他の子馬を駆虫することがだいじ。

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駆虫後、他の子馬からも回虫が排泄されたそうだ。

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朝、夕はようやっと涼しくなった。

スズメたちの食欲は・・・かわらないかな。

 


またまた結腸亜全摘 

2023-08-27 | 急性腹症

昼1時、繁殖雌馬の疝痛が来院。

朝6時から痛くなったが、ひどくはなかったらしい。

3時間前からひどくなった・・・・・

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来院したら立っていられないほど痛い。

PCVはどういうわけか41%、しかし、躊躇している時間もない。

開腹したら大結腸はひどい色、赤紫。特に腹側結腸。

骨盤曲切開部の粘膜は完全壊死。暗黒赤色。

あきらめるか、結腸亜全摘出してみるか。

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今年は結腸亜全摘する馬が多い。

もう10頭以上やっただろう。

以前はもっと素直にあきらめていたのかもしれない。

それでも結腸亜全摘して生き延びている馬もいる。

大結腸切除・吻合は、馬外科の必須の手技だ。

          ー

翌日、馬は食欲もあり、hand feeding も始め、帰って行った

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ムクゲ。灼熱の中。

涼しげじゃないけど・・・・なかったらもっと暑さが辛いかも。