goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

干からびていても、汚れていても、凍っていても、瞼を切り取ってはいけない

2018-01-14 | 馬眼科学

正月に上瞼を切ってしまった休養馬。

前の朝に見つけて、老齢の獣医さんにたのんだが診てもらえなかったそうだ。

乾燥して縮こまっている。

上瞼でも下瞼でも、干からびていようが、汚れていようが、凍っていようが、切除してはいけない。

瞼はただの皮膚ではなく、目の保護に重要な役割を果たしている眼器官だからだ。

瞼に欠損が起こると、風が吹いただけでも涙をこぼすようになってしまう。

角膜を涙で潤せなくなる。

切り取ってしまうと再建はかなり困難になる。

眼瞼の縫合は、ほとんどの馬で立位でできる。

鎮静と、眼の周りの神経ブロック(たいていは眼窩上孔だけで大丈夫)と、必要なら浸潤麻酔。そして鼻捻じ。

乾燥して縮こまっていた血餅をデブリドしたのが、上の画像。

瞼は血行の良い組織なので、こうなればあとは縫合すればよい。

眼瞼結膜へ糸を出さないこと、まず眼瞼縁を合わせるように一糸留めること、皮膚と内層を縫うこと、がコツだ。

縫合後の写真は・・・撮り忘れた;笑

                     ///////////////

六甲さんにめったに降らない雪が降った。

北海道から雪を連れて来たのは誰だ!?

パノラマ写真も縁をきちんと合わせるのがコツ;笑

 

 

 


眼瞼裂創

2017-10-19 | 馬眼科学

馬はときどき上瞼を切ってしまう。

何かにひっかけるのだろう。

発見するのが遅れると、垂れ下がった瞼はひからびてしまう。

しかし、絶対に切り取ってはいけない。

瞼がないと、風が吹いただけでも角膜が刺激されて涙をポロポロこぼすし、角膜が乾燥したり、傷ついたりしやすくなる。

瞼は単なる皮膚の延長ではなく、眼器官なのだ。

                       -

瞼はとても血行が良い組織で、縫合すれば癒合は良好だ。

ひからびていても、

汚れていても、

凍っていても、

瞼を切り取ってはいけない。縫合しろ!!

                       -

と教わったので、そうする。

ほとんどの馬で立位で縫える。

鎮静して、眼窩上孔で神経ブロックする。鼻捻子保定もできるし、リドカインの点眼で角膜も麻酔できる。

コツは、眼瞼縁を先に縫い合わせることだ。でないと肝心の瞼の端がずれてしまう。

二つ目は、結膜に糸を出さないことだ。角膜に擦れて傷をつけてしまう。

二層縫合が推奨されている。

私は、十字縫合が良いと思う。皮膚も、断面もしっかり合わせることができる。

                        -

眼窩上孔でのブロックは先日の講習会で教えた。十字縫合も質問されて答えた。

                        -

術後管理も大切。

眼を擦って、また同じ傷を負う馬がいる。

怪我の元になった物を見つけて取り除いておきたい。

                           ---

今日は、

競走馬の第三手根骨の骨折の関節鏡手術。ほとんど盤状骨折だった。

そして、繁殖雌馬の眼瞼裂創。

当歳馬の外傷。

午後、1歳馬の披裂軟骨炎の肉芽切除。

準急患で、競走馬の中手骨外顆骨折のスクリュー固定。

入院厩舎に小腸を7m切り取った繁殖雌馬が居る。

                        /////////////

本格的に霜が降りた。

今朝は氷点下だった。

 


9月初めの土曜日 ~角膜炎にステロイドを点眼してはいけない~

2017-09-02 | 馬眼科学

実習生が入れ替わり立代わり・・・今、何人いるのかわからなくなる;笑

そんな週末の今日。

朝、尺骨骨折の当歳馬。

尺骨頭のSalter-Harris2型の成長板損傷だったのが、手術しないで順調に治った。

しかし、反対肢が内反してしまった。

来週、肢軸異常の手術をすることにした。

2歳馬の去勢。

昼は、血液検査。

午後、1歳馬の去勢。

ついで、競走あがりの馬の角膜炎。

観ただけで角膜上皮が欠損し、感染を起こしているのがわかる。

抗生物質の眼軟膏と、ステロイドを点眼していたらしい。

角膜炎にステロイドは禁忌だ。

すっかり縮瞳している。

超音波画像診断で、硝子体も気になる。

失明しなければ良いが・・・・

                         -

夕方から、1歳馬の下顎骨折のプレート固定手術。

まったく食べられない、とのこと。

minimally invaseve でやれるか、と考えたが、切り開いた。

X線画像でわかる以外の骨折線があった。

7穴のDCPで内固定した。

                         -

その手術の最中に繁殖雌馬の疝痛の依頼。

さて・・・・・

                      ///////////////

ことしは社会人の獣医さんの研修も多い。

われわれの組織の教育機関の獣医さん。1

農水省の牧場の獣医さん。1

中央競馬の獣医さんたち。2+1

地方競馬場の開業の獣医さん。1

これから来るのは、他の地域のNOSAIの獣医さんたち。3

大学の先生。1

地方競馬の団体の獣医さん。1

                          -

大学へ教えに行っても、その中で馬の獣医師になる学生は一人居るか居ないかだ。

学生達の多くは馬に関心も興味もない。

そんな学生たちが眠くならないように、そんな学生たちにも難しすぎないように気を使いながら講義をしてくるより、

馬をもう少しまともに診療できるようになろうとしている、

あるいはもっと向上しようとしているプロを教えるほうがよほど効率が良いし、やりがいがあると思っている。

                           -

長野県、北海道上川、北海道オホーツク、北海道十勝、へは牛の骨折内固定の講習に呼んでいただいている。

獣医師になったとき、30年働いて、最後の5年は仕事のまとめと伝達をして終わりだ。と思っていた。

そういう時季、終わりのはじまりだ。

 

 


成馬の白内障

2015-07-04 | 馬眼科学

8歳の競走馬の白内障。

去年から右眼に白内障があったが、ここへ来て左眼も見えていないようだ、とのこと。

右眼。

左眼。

先天性ではない。

単なる加齢性でもない。

馬の白内障の原因はほかには、遺伝性、外傷性、栄養性、炎症誘起性、があるとされている。

両眼がこうなるというのは、外傷性とは考えにくい。

コンディションの良い現役競走馬なので栄養性でもないだろう。

馬回帰性ブドウ膜炎から白内障を起こすことが知られているが、この馬はブドウ膜炎の経過もないようだ。

                       -

水晶体と呼ばれるレンズが壊れていくメカニズムは、水晶体の可溶性蛋白の減少、水晶体上皮細胞のナトリウムポンプの障害、水晶体内のグルタチオン減少、水晶体線維の腫脹、および線維膜の破裂、である。

右眼の水晶体はすっかり形状を失い、虹彩と癒着し、そのために散瞳しない。

水晶体が濁っているだけではないのだ。

                       -

両眼ともほとんど見えていないので、視力を回復させるためには水晶体を取ってしまう手術をすることだ。

馬でも水晶体の超音波乳化吸引術が行われている。

しかし、いくつか難しい問題がある。

・水晶体だけでなく、網膜や角膜にも疾患がないか?

・眼瞼、角膜、結膜、ブドウ膜に炎症がないか?

 とくにブドウ膜炎があると新生血管が形成されていて、これが出血につながり重度の前房出血となる。

                        -

「馬医者のための眼科学」全国公営競馬獣医師協会版を参照。

感謝。

 

 


視力 馬とイヌと人の 3

2012-07-22 | 馬眼科学

不思議なことに獣医学書にはあまり動物の視力についての記載がない。

解剖学の本もそうだし、

獣医眼科学の本もそうだ。

Photo セベリンの獣医眼科学は良い本だし、

日本語で読めるのはたいへんありがたいが、

各動物の視力についての記載はない。

眼の検査法に始まって、いきなり治療法になっている。

これは考えてみればおかしな話だが、

動物の視力についてよくわかっていなかったのと、

動物が、「見えにくい」とか、「見え方がヘンだ」と訴えるわけではないので、

獣医眼科とは、動物の眼が人にヘンに見える。とか、

動物の眼が明らかに見えていない。とかいう問題をなんとかするものなのかもしれない。

                           -

よく言われるのは、肉食獣(捕食者)は眼が顔の前に付いていて、両眼視野が広いので遠近感をつかみやすく、

草食獣は眼が顔の両側に付いていて、広い範囲を見ることができる(視野が広い)が、ほとんどが片眼視野なので遠近感がつかめておらず、

遠くから肉食獣を見つけられるように遠視だ。とされている。

が、

はたしてそれが正しいかどうか。

                           -

Drbrooks_book

さすが、Brooks先生、ちゃんと「馬は何を視ているのか?」 

馬の視力について書いておられる。

(翻訳書に感謝!)

その記載も含めて、馬の視力について正しいと思われるのは、

            -

馬は両眼では明らかに立体視できる。

そして、馬は片眼でも距離感をつかむことができている

馬は細部を視る力は人の0.6倍、イヌの1.5倍。

つまり人が10m離れていてもなんとか読めるものを読もうとすると、6mまで近寄らないと読めない。

馬の毛様体は貧弱で、水晶体(レンズ)を調節する能力が弱い。だから、ピントを合わせにくい

馬の網膜にも錐体と桿体があるが、比率は1:9であり、すなわち暗いところでも見えるが、細かくは見えず、色もあまりわからない

馬に識別できるのは黄色だと考えられている。

馬の眼球は完全な球状ではない。それで、遠くを視るときは上目遣いで、近くを視るときは見下ろすようにすると、ピントが合いやすいと思われる。

(だけど、馬が遠くを見るとき上目遣いになったり、近くを見るときかえって顎を上げるのを見たことがありますか?)

Brooks先生も馬の視野が約350度とされているが、本当は3度欠けるだけなので、

357度ということになる。見えないのは自分の尻尾の付け根くらいのもので、ほとんど全周見えるわけだ。

(なんとなく、馬の後躯を触るとき見えていないように思ってしまうのは大きな間違いで、馬には見えているし、当然飛んでくる蹴りは正確だ!!)

                           -

馬は遠視だから遠くは良く見える。とか、

馬は遠近感がつかめないから、何かに驚きやすい。とか、

赤い布に驚いた。とか、

馬の視力についてよく言われることは、間違いだ。

                         ////////

今日は、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

繁殖雌馬の鼻出血の検査。

子牛の中手骨骨折のキャスト管理。

                          -

P7222586 今日は暑かったね~

オラは肉球にしか汗をかかないので、

ハア~ハア~舌が出るヨ。

汗をかける馬がうらやましいヨ。

暑い日には水風呂に限るナ。