真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫獣調教 極限レイプ」(1997/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/制作・脚本・監督・出演:清水大敬/撮影:小西泰正/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/美術:清水正子/音楽:サウンド・キッズ/助監督:加藤義一/スチール:加藤翔/監督助手:古川昌史・竹洞哲也/撮影助手:佐藤剛・植松亮/照明助手:藤森玄一郎・細貝康介/制作進行:大野基/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイトル:道川昭/制作協力:翔スタジオ・《有》メイクス・哀川良二・田邊幹男/出演:斉藤容子・林由美香・中村京子・神戸顕一・水海伸一郎・相沢直樹・羽田勝博・モト大野・土門丈・牧村耕次)。出演者中、土門丈の丈の字が正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
 何とか丘病院の外景で開巻、スタッフのクレジットから入る。制作協力まで行つたところで、主演女優がTバックをペロンチョと履く。続いてガーターを身に着け、ブラの中にオッパイを押し込む。実に美しい体である、今作の最も賢明な鑑賞法は、ここで見るのを止めてしまふこと。以降は、劫火の中に栗を拾ひに行く覚悟が必要だ、既に炭になつてゐるとも知らずにな。右手を眉間に当てこちらを見るジョン・カサベテスを一拍挿んだ上で・・・・やつちまつた、清水大敬がやつちまつたよ・・・・“この作品を 今は亡き ジョン・カサベテス監督に 捧げます・・・。”スペースで改行。やつちまひやがつた清水大敬、悪いことはいはないから、巨大な世話だがカサベテス好きは見ない方がいい、映画監督で俳優の清水大敬(本名:清水昇)さんのキル害事件が起こる。タイトル・インもまだなのに、自分がカサベテスを選んで見るやうな人間ではないことにホッする、屈折した安堵しか早くも残されてはゐなかつた、どんなパンドラの函だ。改めて美しい体のあちこち舐めて、看護婦・山口裕子(斉藤)の「松浦先生、検診お願ひします」、一応朗らかな一声に合はせてここでタイトル・イン。既に致死量の猛毒だが、結果的には恐ろしいことにこれで全然序の口なんだよな。
 清々しく病院内には見えないスタジオ物件はさて措き、裕子と医師で恋人の松浦光二(モト)が、102病室の入院患者・鮫島(清水)の様子を見る。そこにハチャメチャにビザールな扮装の鮫島の妻・アケミ(中村)が、ファースト・カットではシュンと呼んでゐながら、絡みの最中ナオキに名前が変る愛人の相沢直樹を引き連れ乱入。遺言書について大事な話があると裕子と松浦を放逐すると、鮫島の前でアケミとシュンだかナオキだかは大熱戦を繰り広げる。一戦が収束するのを待ち、今度は鮫島の息子・ヨウヘイ(神戸)登場。中村京子と神戸顕一がそれぞれワーギャー喚き散らしながら飛び込んで来る、狂騒的な不安定さは実に清水大敬映画の生理。多分本人的には案外真面目なシネフィルなのに、自分で映画を撮ると何故かうなるのか。荒木太郎に劣るとも勝らない、“映画好きがいい映画を撮るとは限らない”テーゼを体現する日本代表にこの御仁を推したい、推すも引くもないやうな気しかしないが。
 ツッコミだすとキリがないので適当に端折ると、裕子の姉・京子(林)の顔見せと空室の102病室に於ける求婚込みの裕子V.S.松浦戦を経て、無断で屋上に姿を消し裕子を慌てさせた鮫島は、自分が死んだ場合、遺言書と遺骨を倉岡といふ男に渡して呉れだなどと、大概な難題を赤の他人の裕子に託す。そのことを裕子が京子に相談してゐるとタイミングよく松浦から電話がかゝつて来る、体は何処も悪くない筈の鮫島が死亡した。三日後、裕子は遺言書を懐に鮫島家に乗り込む。どうして清水大敬といふ人は徹頭徹尾不自然な映画を撮らないと気が済まないのか、裕子は一旦玄関の前まで行つたものの、何故か地下の駐車場に回り結局無断なので要は鮫島家に不法侵入する。写真を現像する暗室のやうな闇雲な照明の一室に祭壇は設けられ、そこではアケミが後述する何者かと文字通り狂つて乱れてゐた。裕子はアケミともう一人が果てた隙を突き、鮫島の遺骨を盗み出す。幾ら故人の遺志に副ふとはいへ、随分な行動力ではある。
 配役残り土門丈は、裕子・京子姉妹の父親で殺害された刑事、の遺影。羽田勝博が、ジョン・カサベテスが大好きな倉岡。牧村耕次は倉岡の子分で古文に造詣が深い―といふほどでもない―牧村で、水海伸一郎が牧村を呆れさせる無教養の子分B。山口刑事から逃走中に事故死した、暴走族の鮫島次男は不明。
 清水大敬ピンク映画第二作は、この時点でこの人は完成してゐたのかと、暗澹たる衝撃に打ちのめされる掛け値なしの問題作。鮫島とは対立してゐたにも関らず骨と遺書を渡され困惑する倉岡は、「お前映画好きか?」と薮から摩天楼に裕子に切り出すと、「ぢやあジョン・カサベテスつて知つてるか?」。面喰ふ裕子と観客を余所に、倉岡こと羽田勝博は半ば恍惚と続ける「金のない中でいい映画を撮り続けて、インディーズ映画の神様だよ」、「グロリア観たか?ジーナ・ローランズつて最高にセクシーだらう」。裕子がカサベテスを一本も観てゐないことを知るや倉岡は激昂、お前も鮫島と同じだ、ジョン・カサベテスを一本も観てねえやうな女はクソだと裕子を犯す。

 (;´Д`)

 そんなプリミティブな映画愛の叫び方見たことねえよ!清水大敬はグルッと一周してゐれば天才になれたのに、あと半歩が絶望的に遠かつた。ところが驚く勿れ―悲しむのはいい―これで今作の破壊力は、これでも頂点に達してゐないのだ、頂なのか底なのか判らない。御役御免で退場する名義の安定しないアケミ愛人を除けば、そこだけ割ると最終的には裕子以外全員が必ず誰かに殺される形で死ぬ終盤は、木に卒塔婆を接ぎ続ける魔展開に次ぐ魔展開。殺しのバリエーションには変に凝つてみせることと、ここは唯一正方向に評価すべき点として、腹を括つたが如き苛烈な孤軍奮闘が報はれない撮影部が現出する、鮫島邸地下室の魅力的なヴィジュアルの薮蛇ぶりとが、全篇隈なく炸裂し倒す不条理を光の速ささへ超えん勢ひで加速する。憚りながら小生も一本も観てないから―「グロリア」くらゐ若い頃に見てたかな?―よく知らないが、もしも仮に万が一、清水大敬の明々後日な真心が捧げられるに相当する映画監督でカサベテスがあつたならば、スピルバーグとてエド・ウッドと大差ない、関良平でも滝田洋二郎に勝てたかも知れないよ。清水大敬の僅かばかりの資質として、裸映画的な要素はそれなり以上に担保してあつたやうに思へなくもないが、見終わつた後心に残るはこれぞペンペン草一本生えぬ正しく不毛の荒野。ある意味「DMM荒野篇」の名に相応しいといふか、今はもう、この映画と小屋では出喰はさなかつた最低限以下の消極的なラックを言祝ぐ気力も失せた。ヘトヘトに徒労して力尽きるかのやうに眠るほかなく、枕を濡らす最後の余力もない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« レイプ願望 ... 痴漢ストーカ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。