真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女教師と教へ子 ‐罪名、婦女暴行なり‐」(2013/制作:大敬オフィス/提供:Xces Film/脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明/照明:小川満/音声:吉永健児/助監督:関谷和樹/音楽:花椿桜子/美術:劇団ザ・スラップスティック/編集:清水大敬/協力:劇団ザ・スラップスティック、大珍カンパニー/出演:香西咲・京野結衣・小滝みい菜・倖田李梨・扇まや・衣緒菜・なかみつせいじ・野村貴浩・久保田泰也・津田篤・山科薫・中村勝則・土門丈・maika・北条麻妃《特別出演》、他本当に多数)。一般映画ばりのクレジットの情報量に粉砕される。
 エクセス開巻、即タイトル・イン。鮫島一家が牛耳る町の、何処そこ高校。彼氏・山下健児(津田)の目の前で、小滝みい菜(ハーセルフ)が鮫島家の多分長男・城冶(久保田)の手下に強姦される。みい菜を助けられなかつた不甲斐なさを城冶に追ひ込まれた健児は、子細は軽やかにスッ飛ばし校舎の屋上から飛び降りスーサイド。教職員・生徒そして父兄、鮫島家に尻尾を振る学校のみならず町中を敵に回し、健児の担任・香西咲(だからハーセルフ)は城冶の責任を追及する腹を固める。そんな咲に健児に想ひを寄せてゐた京野結衣(三本柱がハーセルフ)と―教職の―山口先輩(倖田)は同調、咲の夫・武男(野村)も交へ、四人は凶悪かつ強大な敵に挑む。
 配役部分的に残り、出演者としてのクレジットは確認し損ねた清水大敬が、何処から見ても堅気には見えない―手下は乗り込んだ先で堂々とチャカを抜く―が表向きは鮫島商事(株)社長にして城冶の父親・権三。ヤクザを連れて来ないと物語を紡げない清水大敬のアナクロニズムには苦笑を禁じ得ないのと同時に、自ら出陣してのこの上ないハマリ役であることも認めざるを得ない。流石に、貫禄は俳優部の中で一枚も二枚も抜けてゐる。脱ぎはしないが十二分な色香を濃厚に漂はせる北条麻妃が城冶の母親・明美で、maikaは権三の秘書、兼最新愛人。刑事課長(山科)同席の下、健児の自殺に関する城冶の関与を証明しようとした咲が、逆に居並ぶ二十優余名の父兄から糾弾の集中砲火を浴びる。といふ、出発点で既に理解不能な正体不明の名ならぬ迷一幕。なかみつせいじと中村勝則は常識人ぽく狼狽する井野山校長と股野教頭で、扇まやと衣緒菜(ex.吉瀬リナ)がママゴン―懐かしいな、おい―要員の中に見切れる。因みに扇まやのピンク映画出演は、尻だけは辛うじて見せた矢張り清水大敬の2010年第一作「人妻教師 レイプ揉みしごく」(主演:艶堂しほり)以来。清水組には常時出てゐたやうにも思へて、案外久し振り。衣緒菜は清々しいまでの自分の台詞のタイミングの待ち具合も兎も角、より大きなツッコミ処は周りの面々よりも明らかに一世代若い、いつそ制服を着ればよかつたのに。といふのも、クレジット中実は大槻ひびきの名前もあつたのだ。大槻ひびきに対するロック・オンが甘く、気付けなかつた己の迂闊さは面目ない限りでありつつ、出てゐさうなポジションはといふと、妙にハイ・グレードなその他女生徒要員辺り以外に見当たらない。警察も鮫島の息がかゝつてゐるゆゑ、香西夫婦はマスコミに目を向ける。野村貴浩の同級生には見えないものの、中村京子とミュウを足して二で割つた風情の結構美人な山崎編集長役が不明。更には鮫島父息子の手下こと仮称シャーク戦闘員が大勢、その他男子生徒は若干名。入院した結衣の病室に軽く姿を見せるメガネの看護婦、父兄のオッサン要員と、編集部要員。更には外出した香西夫婦に、わらわらと群がり排斥するかのやうに―現にしてゐるのだが―後ろ指を指すプリミティブな演出が、殆どゾンビ映画のやうな町民の皆さん。二役以上の兼務も恐らく少なくないとはいへ、二、三十人は堅い潤沢な人数が投入される。
 クリスマスに封切られた清水大敬の2013年第三作は、「人妻禁猟区 屈辱的な月曜日」(主演:北条麻妃)に続くエクセス第二作。前回勘違ひしてゐたのは他メディアとの連携が図られたのは今作で、明けた一月に川村真一(現:川村慎一)の主戦場たるアタッカーズより、看板シリーズの一作「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」としてAV版がリリースされてゐる。今回観たピンク版の中身に話を絞ると、オーピー後期、かつての強烈な灰汁が抜け王道娯楽作家への開花も愚直ながらに感じさせた、清水大敬の近況からは前作に引き続き明確に後退する。始終はロケーションの貧しさも顧みず、女優部には恵まれ確かに見応へがなくはないレイプ・シークエンスを連ねることにのみ終始。山科薫は顔見せ程度の出演に止(とど)まる中、清水大敬のエキセントリックな演技指導を俳優部中ほぼ一手に引き受けるのが、ルックスとお芝居以前にタッパと体脂肪率すら残念な久保田泰也といふのは事この期に及んで如何なる悪い冗談か。城冶の造形は、一件の黒幕たる狂気の魔少年。劇中世界の雰囲気からすると気持ちも判らぬでないともいへ、実際のキャスティング上は、久保田泰也には到底果てしなく木端微塵に柄ではなからう。御丁寧に看護婦に化け忍び込んだ結衣の病室、挙句に凄い照明を当てられた上で、ナース・コスの久保田泰也が僕は神を超越した人間だなどととんでもない啖呵を切つてみせるのは、グルッと一周した壮絶なギャグにしか見えない。反面、予想外に適応してみせた小滝みい菜が、それなりの存在感を発揮するのは数少ない正方向の見所。そもそも、一族に支配された町にて、暴虐に曝される女教師と女生徒。だなどと、今時フランス書院くらゐでしかお目にかゝれないやうな前時代的な粗筋に加へ、適当か無造作に転がるばかりの展開は逆の意味で堪らない。ところが、諦めてビリング頭二人の女の裸に残された僅かなエモーションを傾注しかけたところで、飛び込んで来る城治とみい菜の禁じられた秘密はそこそこ以上の衝撃度。折角の大ネタを、殺風景な見せ方はもう少し何とかならなかつたのかといふ疑問を呑み込めば。結局、主人公夫妻がおめおめ敗走する無体な着地点。止めを刺すべくマキシマムな無造作さで放り込まれるバッド・エンドが余情の余地も根こそぎ刈り取る、ダイオキシン級のドライな怪作。ある意味、清水大敬らしいといへばいへるのか、早々と二作目にして、エクセス新路線の咲かせた徒花である。

 所々小屋では聞こえ辛かつた台詞、大槻ひびきの登場場面と、膨大なクレジットの情報量。そして、ピンク映画版とは異なるエンディング。諸々詰めておきたい事柄も多い以上、ここはエクセスとアタッカーズの商売に素直に乗り、「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」も近々見る予定。その際最も注目してゐるのは、濡れ場の最中に目立つ妙にジャンプ気味のカット。それは果たして、AV基準の画を回避した結果であるのや否やといふ点を、節穴をヒン剥いて確認するつもりでゐる。
 最後にもうひとつ気になるのは、2014年もぼちぼち半分終るタイミングで、清水大敬の名前がとんと聞こえて来ない御無沙汰。良くも悪くも、パワーはある人だと思ふんだけどな、大電撃で新東宝に飛び込んで来たりなんかした日には激越に興奮する。
 備忘録< 衝撃の真相は、城治とみい菜は異母兄妹の近親相姦


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コメント
 
 
 
清水大敬監督の近況 (XYZ)
2014-06-23 13:10:54
清水監督が座長をされている劇団ザ・スラップスティックの公演が今年の6/5~6/8に行われたので、その準備及び「府中・演劇教室」の講師をされているようです。
後、Maikaさんが客演されていました。
 
 
 
>清水大敬監督の近況 (ドロップアウト@休日の昼寝明け)
2014-06-23 15:56:32
 有難う御座います、それにしても。
 監督作から受けるイメージだけでイマジンすると、
 カルセンで講師に清水大敬が出て来るてのも、
 それだけでコメディ映画の1シーンみたいな気が・・・(笑

 アタッカーズ版を購入したので、ぼちぼち楽しみに見ます。
 何ぞこれ、黒服の香西咲が拳銃!?
 
 
 
東京のデジタル事情 (XYZ)
2014-06-24 12:51:06
東京でも7月にシネロマン池袋がデジタル対応の為の改装をするので、そのうち観ることができると思います。
 
 
 
>東京のデジタル事情 (ドロップアウト@管理人)
2014-06-24 22:39:17
 杮落としは工藤雅典と大胆予想します   >デジロマン
 
 
 
あれ? (ドロップアウト@管理人)
2014-06-24 22:40:53
 何でこけらが化けるんだ、ただの柿だろ?
 
 
 
こけらおとし (XYZ)
2014-06-25 03:05:39
正解です。
 
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