真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「やらせるナース 在宅濡れ治療」(1996『どすけべ付き添ひ婦 さはつていいのョ!』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:夏季忍/企画:福俵満/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:獅子プロダクション/出演:林田ちなみ・三橋里絵・青井みずき・久須美欽一・樹かず・山本清彦・頂哲夫)。ポスターには何故か岡輝男と誤記される脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。助監督が、榎本敏郎らしいのだがクレジットレス。
 東京の雑踏、ロング・ショットで宏(樹)が恋人の美緒(林田ちなみ/a.k.a.本城未織)との、一年間の別離を嘆く。東京を離れる美緒の赴任先は、三才の時に亡母に手を引かれ離れた、宏の生まれ故郷でもあつた。母親の職業は看護婦で、白衣を貸さうかといふ宏に対し、美緒がヘルパーである旨を観客には自己紹介した流れでタイトル・イン。だから看護婦ではないといふのに、主演女優の文字通り舌の根も乾かぬ内の新題のいい加減さはいはずもがなにせよ、元題のグダグダ感もことここに至ると最早清々しい。下手な鉄砲が、数打たれてゐた時代の麗しさよ。
 カット明けると、美緒は南酒々井駅に降り立つ。今回物件の固定までには至らなかつたが、ピンク映画超頻出の極々普通の二階建て一軒家ハウススタジオは、南酒々井にあるのか。よく判らないのが美緒の業態、当地に住居を確保しつつ、美緒は寝たきりのゲンさん(久須美)と、左足以外は全滅で包帯・ギブスに固められた一郎(頂)。更には夫を喪つて以来意気消沈し床に臥せる、レイコ(三橋)の世話に家々を回つてゐた。寝たきりは偽装なのか、ゲンさんが自分の土地である山を見回りがてら散歩してゐると、一台の乗用車が停められてある。また不動産屋かと山に入つてみると、後の二回戦で名前が判明する彦麻呂(山本清彦/a.k.a.やまきよ)と、終に呼称されぬゆゑ役名不詳の青井みずき(a.k.a.相沢知美)のカップルが青姦に励んでゐた。ゲンさんは家を出て行つた妻・トメの忘れ形見の看護婦服を美緒に着るやう望むと、俄然猛ハッスル、思ひのほか大らかに敷居の低い美緒と一戦交へる。それにつけても、林田ちなみの安定した美貌は改めて素晴らしい。即物的なことをいふやうだが、これでこの人のオッパイがもう少し大きければ、裸映画の歴史は結構変つてゐたのでもなからうか。美緒は日々の介護を報告する、絶妙に性的な内容の手紙を送り、宏をやきもきさせる。
 今回、八幡は前田有楽で観たプリントの上映時間は五十分。仮に津々浦々を巡る内に削られて行つたとしても、然程端折られた件の存在も見当たない。と訝しみながら帰宅後jmdbで調べてみたところ、何と元尺から五十分。深町章1996年第二作は、久須美欽一とのコンビで送られる実になだらかなルーチンワーク。逆方向に火を噴く今作のハイライトは、ゲンさんと宏の、美緒を間に挟み世間の狭さが爆裂する意外な関係を軸に据ゑた、作中最大のモチーフを欠片の頓着もなくケロッと割つてしまふ、よくいへば気前の良さ。気前が良いとか悪いとか、さういふ話でもないやうな気もするが。以降は―相変らず―他愛もない濡れ場とホームドラマを連ね、たかと思へば、出し抜けに呆気ないラストでコロッと映画を強制終了する。これで腹も立たない穏やかな仕上がりは、寧ろ不思議とすらいへるのかも知れない。良くも悪くも裏打ちし得るだけのキャリアを有した者にのみ、許されたかのやうな案外円熟した一作。文学的にいふならば無常観をも漂はせる、直截には出し抜けな終幕の振り逃げは、実は深町章が時に繰り出すいはば持ち芸のひとつでもあるのだが、今はもう、類似作を探さうといふ気力も雲散霧消した。
 備忘録< 猫の居る夕焼けの縁側、ゲンさんが再び病の床に臥せるエンド


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