真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「夫婦情話 されどはまぐり」(2022『はまぐり三景 吸つていぢつて』の、OPP+版『されどはまぐり』のDVD題/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音・整音:植田中/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/助監督:江尻大・島崎真人/制作応援:山本宗介/撮影助手:戸羽正憲・原伸也・辻菜摘/機材協力:中尾正人/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:並木塔子・岡江凛・辰巳ゆい・石川雄也・モリマサ・近藤善揮・倖田李梨)。
 モデルハウスみたいな普通の一軒家に、民泊「はまぐり」の黒板。生活感すらない厨房、女将の北川達子(倖田)が蛤を蒸しがてら、明るいうちからの酒をキメる。机上の写真に語りかけながらの、グルメ番組風に美味しさうな自分メシ。達子が手に取つた、蛤の殻にタイトル・イン。車で来れば敷地内に停められさうな気もしつつ、駅から歩いて二十分の「はまぐり」を、望(並木)と一郎(石川)の鶴見夫妻がとほとほ目指す。手前勝手にノッリノリの一郎に対し、望は微妙な距離感も滲ませる。ちやうど出て来た辰巳ゆい・近藤善揮と、交錯はせず二人は宿に到着。達子が望と一郎を部屋に通す三人のフルショットに、メニュー1「はまぐりのお吸ひ物」の副題イン。
 配役残り、芸か性懲りもなく、鶴見夫妻と入れ違ふ形で「はまぐり」に辿り着いた、岡江凛とモリマサがメニュー2「焼きはまぐり」部、加奈と明久の高尾夫妻。入院手術で休業に入る、相変らず活動が安定しない岡江凛(ex.美村伊吹/ex.緒川凛)は八戦目で流石に打ち止めか。尤も、八年前の初陣「尼寺 姦淫姉妹」(2013/監督:友松直之/脚本:百地優子・友松直之)で既に、ソリッドな美貌に勝るとも劣らない、お芝居の強さでも光芒を放つた岡江凛が目方を30kg落とした落とせた上での電撃復帰なら、遂に満を持すか機が熟しての、大逆転天下を取れても全然おかしくない気はする。一方、元年デビューのモリマサは、この人令和のかわさきひろゆきのセンで行けるのではないかしら、行けても別に行きたかなかろ。改めて辰巳ゆいと近藤善揮が、メニュー3「煮はまぐり」隊。こちらのカップルは入籍前、珠江と、式の段取りに頭を悩ませる関川元成。そ、して。「はまぐり三景」では省かれてゐる可能性も否めない、エピローグ的なメニュー4「はまぐりの酒蒸し」。現代ピンク最強の男前・山本宗介が、達子の亡夫役で「はまぐり」開業時のスナップに飛び込んで来る。時制的にはメニュー4が現在で、312の順に古いエピソードを、123の順で回想して行く構成。
 体調を派手に崩し遠征を断念、OPP+版「されどはまぐり」を更に改題した円盤を外王で借りて来て茶を濁した、竹洞哲也2022年第一作、つか90分あんのかよ。
 蛤料理を主たるモチーフに、三組の夫婦情話を綴る。脊髄で折り返した印象を、ぞんざいに吹くけれど。これをテアトル新宿―とシネ・リーブル梅田―にて一般映画でございと上映したのか!?と、霞よりなほ空ろな話といふか中身の薄さに衝撃を受けた。馬鹿の一つ覚えの砂浜を概ね主に、そこいらの往来を俳優部がホッつき回る辺りが中心なのだらうが、ピンク版を水増しするにせよ、二ヶ月先行したフェス作をベースに寧ろ削るにせよ。全篇ある意味もしくは良くなくも悪くも均質なほぼ真空ぶりにつき、二十分分の差異に目星をつけようにも忽ち途方に暮れる始末。鶴見夫妻のわだかまりは、新婚最初の献立とかいふ、はまぐりのお吸ひ物で何故か何となく氷解。高尾夫妻は接着剤で止めた焼きはまぐりが開かない開く訳がない、子供騙しのトリックで離婚に持ち込む。関川夫妻(予)に関してはわざと煮詰めすぎた煮はまぐりで煮詰まりを戒める、クソみたいな方便の壮絶な詰まらなさに度肝を抜かれ、る以前に。そもそも珠江が勝手に思ひ詰めてゐたところの所以が、初婚の元成に対し珠江は二度目ゆゑ、挙式に激しく抵抗を覚えてゐた、とかいふ他愛なさには尻子玉を抜かれた。片や、並木塔子と石川雄也の通り一辺倒な濡れ場が、可もなく不可もないのが精々関の山。岡江凛の完全に箍の外れたか底の抜けた大質量は触れる琴線を選び、ほかに連れて来る男優部はをらんのかとしかいひやうがない、素の口跡すらへべれけな近藤善揮はいざ絡みに入るや秒で息が上がり、今年の二月にも新作の撮影に参加してゐた模様の、有難く長く継戦して下さる辰巳ゆいを台無しにするばかり。所詮、坂元啓二によるプレーンな画は女の裸を官能的に煽情的にといふよりは、料理を小綺麗に撮るのには長けてゐる程度。と来ると即ち、要は地の劇映画としても、裸映画的にもスッカスカのカッスカス。前年からの不調を逆の意味で順調に継続する、竹洞哲也が四連敗も通り越した四爆散を遂げたとて別に驚くにはあたらないのかも知れないが、子飼ひの寵児が煮ても焼いても食へない体たらくで、大蔵の認識や果たして如何に。唯一、針の穴にボーリング玉を通す決死の覚悟で面白味を見出せなくもなかつたのが、浜辺で黄昏る珠江に達子が上手いこと目を留める、そもそも屋外温水シャワーで達子は何をしてゐたのよといふ、大恩師・小川欽也のスピリットを竹洞哲也が継承した、アグレッシブな頓着のなさが火を噴く無造作なロケーション。はこの際さて措き、近年沙汰の全く聞こえて来ない、今上御大の御様子が地味にでなく気懸りな件。


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