真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「したがる兄嫁2 淫らな戯れ」(1999/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:上野俊哉/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/撮影:小西泰正/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/音楽:山田勳生/助監督:鎌田義孝/監督助手:城定秀夫・大石健太郎・塚本敬・小林誠/撮影補:水野泰樹/撮影助手:畠山徹/録音:シネキャビン/撮影協力:岩田治樹/ネガ編集:門司康子/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/協力:橋口卓明・榎本敏郎・村井章人・勝山茂雄・坂本礼・アウトキャストプロデュース/ロケ協力:山椒・和銅鉱泉旅館・スーパースター21/出演:本多菊雄・葉月螢・佐々木ユメカ・里見瑶子・のぎすみこ・向井新悟・伊藤猛・渡部司・江端英久)。現在目線で見るとなほさら、何か裏方もエラい豪華な布陣だ。
 威勢のいい大書タイトル開巻、後述する前作ラストで死にかけ一旦持ち直した母親(全く登場せず)は、結局ほどなく死ぬ。無印第一作とナンバリング第二作のブリッジに使はれる、母の扱ひ。家業の竹籠職人を継いだ兄・良助(本多)と、田舎を捨て上京した癖に、女にフラれたとか情けない理由で出戻つて来た弟・健司(江端)の、一葬儀終へた喪服兄弟ロング、多分苗字はカワイ。第一作では都会帰りのセンシティブな相も見せてゐた気がするのに、健司がグッと馬鹿の純度を増した遣り取りを経て、没母が入院してゐた病院の外景から、佐々木ユメカの乳を揉む、伊藤猛が飛び込んで来る。二人は良助の浮気相手で、健司とも寝たことから騒動となる看護婦の井上美智子(佐々木)と、医師で院長の倅・木村(伊藤)。ここでこの期にユリイカしたのが、うんたらかんたら“なんです”。宇能鴻一郎調モノローグ、略してウノローグ風のダイアローグを、男優部に書いてみせるのが小林政広脚本のワン・ノブ・特色であるとハタと気づいた。迸る今更臭なんて、風に流してしまへ。
 兄弟に愛想を尽かし出奔した良助の妻・春代(葉月)が、仲居として働く温泉旅館で十年前高校時代の元カレ・クラタ新平(渡部)と再会する一方、味噌汁とお隣から貰つた野沢菜のおかずだけで、五合―引く良助分―の米を平らげた健司は、挙句女を買ひに行く金を良助に無心する。実は今作、さりげなく重大な破綻を孕んでゐる。後々春代が新平クンに話して曰く、兄弟の母親が亡くなつたのが、春代は如何にしてその旨知り得たのか当日のこと。となると、開巻は通夜帰りとしても次の日本葬ぢやね?といふツッコミ処は強ひて呑み込むにしても、そもそも、未だ日も沈まぬ内に、通夜から帰つて来れるオープニング・シークエンスからあちこちちぐはぐさは否めない。もう一点些末、カワイ家のロケーションは御馴染水上荘(塩山温泉/山梨県)ながら、設定上は野沢菜が名物の長野である。
 配役残り里見瑶子は、先に半殺しにされた健司を懐かしのスターレットで拾ふ、この人も木村病院(仮称)の看護婦で、肛門科の久美子。ドア・ツー・ドアだからと、白衣のまゝハンドルを握る飛び道具的な合理性を発揮する。のぎすみこと、jmdb鵜呑みでデビュー作の向井新悟は、健司を追ふ格好で軽トラを飛ばし町に下りた良助が向かふ、外人部隊は帰国したショークラブ「スーパースター21」の巨漢女と、静かな凶暴性を滾らせるボーイ。
  前作「白衣と人妻 したがる兄嫁」(1998/脚本:小林政広/ビリング頭は江端英久)に続く、「バカ兄弟」シリーズ第二作。上野俊哉はこの間年一作ペースの次作がシリーズのいはゆるエピソード0で、次々作がリブート。何といふか、捕まつてゐる感を、今となつては覚えなくもない。もしかして、既に病魔に侵されてゐたのなら申し訳ない。
 確かに身勝手な帰郷にせよ、良助の健司に対する粗野かつ粘着質の苛めやうが兎にも角にも鬱陶しくて鬱陶しくて、一月に小屋で再見した「白衣と兄嫁」は何がそんなに面白いのか改めててんでピンと来なかつた。コクエーとベルの音鳴れば、脊髄で折り返し受けてゐた時代に悪態をつく、当サイトも当サイトで脊髄で折り返しぶりがさして大差ない、ところが。「淫らな戯れ」は正方向に笑へるオフビートなコメディに化けてゐたりする辺りが、映画は矢張り見るなり観てみないと判らない。健司が無造作に振り回す下心に、伊藤猛と佐々木ユメカの顔色が鮮やかに変る居酒屋。喜び勇んで敷居を跨いだものの、客―と出稼ぎ勢―は無人でのぎすみこが一人ずるずるラーメンを食つてゐる、「スーパースター21」店内に良助は唖然として「何これ」。受けて穏やかにキレる向井新悟が、「何か御不満スか?」。バカ兄弟の馬鹿さ加減と、馬鹿さ加減が巻き起こす渦の巻き起こり具合が激しく可笑しい中盤は、頗る快調に転がる。勝因はズバリ、弟に伊藤猛兄貴には向井新悟。バカ兄弟の銘々に、何気な狂気を内包したエッジ系俳優部をぶつける、内角を抉るキャスティングにあるものと見た。反面、春代はといふと昔の男と適当に焼けぼつくひに火を点ける程度。終盤火を噴く魔展開の合間合間に挿み込まれる、新平クンと大浴場をクロールでチャプチャプ泳ぐ間抜けなショットはいい塩梅のシュールさが琴線にも触れつつ、肝心の兄嫁は、御都合に帰つて来てラストの体裁を整へるに止(とど)まる。土台がのぎすみこを除けば濡れ場は何れも中途で、決して疎かにしてゐる訳でもなく、当時的にクリーンナップ級の三本柱を擁してゐながら、裸映画的な訴求力は然程高くない。

 恐らく、要は如何に落とし込んだものか窮したのでもあらうが、その後の物語が終に作られなかつた点は、地味にでなく惜しまれる。


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