真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れた愛情 ふしだらに暖めて」(2019/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督:髙原秀和/脚本:宍戸英紀・髙原秀和/撮影監督:下山天・田宮健彦/音楽:野島健太郎/録音:竹本未礼/助監督:江尻大・小関裕次郎・島崎真人/撮影助手:高嶋正人/整音:野島健太郎/編集:高原秀和/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:末永賢・国沢実・永元絵里子・村上典子・五十嵐理/出演:小倉由菜・並木塔子・那波隆史・涼南佳奈・吉田憲明・山田奈保・櫻井拓也・稲田錠・金田敬・山岡竜生・泉正太郎・山本宗介・可児正光・下元史朗)。出演者中金田敬は、本篇クレジットのみ。確かに監督がついてゐるのを確認したが、撮影監督が二人ゐるといふのも斬新なクレジットではある。
 物騒か、ある意味判り易く金属バットをカラカラ引き摺り歩く小倉由菜と、それをポカンと見やる並木塔子。今カノの芦田チカ(山田)と連れ立つミュージシャンの元カレ・富樫広夢(吉田)を、家出少女発風俗嬢経由、目下は大絶賛無職の松崎いつか(小倉)が襲撃。凶悪にも「夢をブッ壊す!」だなどと、いつかはギターを弾く富樫の指を金属バットで殴打しつつ、チカが持ち歩く、スタンガンにあつさり返り討たれる。一時的に活動の停止したいつかを、月島佐知子(並木)は間柄が不明の片桐真一(那波)と営むスナック(屋号不詳、ムーンライト?)に担ぎ込む。その日は佐知子が昼のランチ営業を見据ゑ、開発中のカレーを振舞はれ辞したいつかは、中略した後日出し抜けにスナックを再訪。ランチを始めた店でアルバイトしながら、元小学校教諭の佐知子に勉強を教はり高校卒業の資格を目指す格好になる。とこ、ろで。正直顔つきから他の女優部とは地力の違ひを感じさせる山田奈保が、那波隆史と同じ芸能事務所「ストレイドッグ」所属。直截にいふと無論、那波隆史よりも余程上手い。
 出演者残り、役作りなのか何なのか別人のやうにモサーッとした涼南佳奈は、いつかと同居する風俗嬢・倉持ひな。といふかいつかが収入がない以上、事実上の居候か。国沢実2013年第二作、「女警備員 まさぐり巡回」(脚本:内藤忠司/主演:織田真子)以来となる下元史朗は佐知子の叔父で、仮称「ムーンライト」のオーナー・春一郎。髪も薄くなりパッと見のお爺ちやん化は否み難いものの、ここぞといふキメ処での声の張りは未だ衰へず。櫻井拓也は見てるだけのいつかも交へた、教師と生徒プレイに興じるひなの客。つけられた劇中呼称がアナル先生、酷え(笑。柴原光ピンク第三作にして映画通算最終第六作「若菜瀬菜 恥ぢらひの性」(1999/監督:柴原光/脚本:沢木毅彦/主演:若菜瀬菜)、盛大か壮絶にやらかした髙原秀和前作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/主演:榎本美咲)に続く、ピンク三戦目となる稲田錠(G.D.FLICKERS/Vo.)はランチ初日、最初に来店する客・川谷建一、金田敬が二人組の連れ。。春一郎に対して、“社長”と気軽に呼びかける懇意の知人。SNSに上げる写真をテレッテレ撮影したりだとか、ロックでもなく、もとい碌でもなくどうでもいいシークエンスに茶を濁す。恐らく協力の五人は繁盛するカレー部、どう見ても、その数倍の頭数が最盛期には見切れる。山岡竜生と泉正太郎は、既に結構酔つた状態で夜のスナックに現れる佐藤と田中、強制連結要員。山本宗介と可児正光は、チカに乞はれか雇はれ自宅にいつかを急襲する、ほぼ黒尽くめのウェーイ・アキラとコウジ。端役で使ひ流される、山宗を観るたび胸が痛む。ここいらで誰か本腰入れて、決定力のある代表作を撮つて貰へないものか。
 猫を被つた電撃上陸作「フェチづくし 痴情の虜」(2018/原作:坂井希久子/主演:榎本美咲・涼南佳奈)、稲田錠のフィルモグラフィーに関して触れた「トーキョー情歌」を経ての、髙原秀和大蔵第三作。髙原秀和が2019年ピンクは今作きりに止(とど)まる一方、キング・レコードの今後存続するのかは謎なR15+レーベル「Erotica Queen」には二本喰ひ込み、今年も依然オーピーに継戦する模様。
 拠り所のない若い娘が、妙にカインドな飲食店に転がり込む。さう聞くと如何にも「スナックあけみ」的な人情譚かと思ひきや、どうしても読めなかつた並木塔子の配役が、妊娠してゐた息子のダイスケを交通事故で喪つたのち、片桐と八年ぶりに復縁した元嫁といふ設定に度肝を抜かれた「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004/主演:蒼井そら)驚愕の続篇。春一郎は当然月島家が総スカンで反対する中、佐知子唯一の味方といふポジション。そんな昔の映画知らんがなといふ方に向け簡単に掻い摘んでおくと、当時高校教諭の片桐が出産を控へた妻―全く登場せず―が実家に帰つてゐる隙に同僚と不倫した挙句、関係を持つた女生徒を自身が運転する車から不慮の事故で死なせておいて、そのまゝ放置するのが「先生あたしを抱いて」のどうしやうもないラスト。
 「スナックあけみ」スーパーライトに関しては、前回の大概なマイナスがゼロに復旧する程度には、腹も立てずに観てゐられる。別に、面白いとは一言もいつてゐない。ところが後半、発熱といふ形で佐知子が一旦退場。片桐が前面に躍り出て来るや、途端に十年どころか十五年一日の自堕落さが爆裂してのけるのには、最早逆の意味での髙原秀和と那波隆史の鋼鉄よりも硬い相性に最早観念するか匙を投げるほかない。徒に内向し、猥らに堂々巡り、力なく燻る。髙原秀和の大蔵三作全てに参加してゐるゆゑ近しく映るのは似た者同士なのか、国沢実に劣るとも勝らず酷い。ついでにさうなると余計に際立つのが、ライブハウスから連れて来た飛び道具が仲野茂から稲田錠へと激しくスケールを落としてゐる分、ただでさへな映画総体の絶望感に、明後日か一昨日な見所をも欠いた、粒の小ささが火に油を注ぐ。濡れ場よりも素の表情の方が魅力的な主演女優を擁し、裸映画的な訴求力も然程ですらなく高くはない。何某か言ひ分なり企図するところも―下手に―あるのであらうが、カットを煩雑に割つてみたり不用意に暗く撮つてみたり、かと思へば今度は思ひきりオーソドックスに攻めてもみたり。絡みの演出自体、逐一安定しない。せめて潔くか鮮やかにでも、死ねばいいのに出奔した片桐が土方として生きさらばへるのは百歩譲つて兎も角、改めて片桐の子を宿した佐知子が、またしても片桐を寝取られたいつかと、カレーを振舞ひ勉強する、相変らずな日常を仲良く送るのが完全に意味不明。そもそも、片桐の如き全方位的に一欠片の魅力も感じられないクソ以下のゴミ男が、何故に斯くもモテるのかが全く以て判らない、ファンタジーならばそれらしく描け。わざわざ紀伊国屋の紙カバーもつけたまゝ、いつかが何度も愛読―その割には卸したての如く綺麗―するのがこの期に『星の王子さま』といふのも、全体何がいひたいのよ。結局十五年髙原秀和が一ミリも進歩しなかつた着地点が、「先生あたしを抱いて」から後生大事に引つ張つて来た“あるもんしかない”。“あるもんしかない”といふよりも、“ねえもんはねえよ”といふ印象がより強い、貧しい映画である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )