真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団鬼六 女秘書縄調教」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:伊藤秀裕/脚本:松本清治/プロデューサー:八巻晶彦/原作:団鬼六『闇の色事師』桃園書房刊/撮影:米田実/照明:木村誠作/録音:伊藤晴康/美術:中沢克己/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:堀内靖博/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作進行:櫻井潤一/出演:麻吹淳子・早川由美・高原リカ・中原潤・小池雄介・高橋明・明石勤・織田俊彦/刺青:河野光揚/緊縛指導:浦戸宏)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”、各種資料に見られる企画の奥村幸士が、例によつて本篇クレジットには見当たらず。
 オフィスビルに寄るカメラ、八階で止まつたエレベータから、サングラスをドス黒くキメた高橋明と、キマッた造形の高原リカが降り立つ。秘書の江口小夜(麻吹)を傍らに、部長の能勢(明石)が咥へ煙草で新作のデザイン画をチェックする、女性用下着メーカー「シルビア商事」商品開発部。情婦を連れたヤクザくらゐにしか見えなかつた高橋明はシルビア商事の会長・堂島修造で、姪の朱実(高原)を伴ひ商品開発部に顔を出す。うすらぼんやり仕事してゐる風でもない、同じ部の矢田夏子(早川)に嫌味のひとつも垂れつつ、小夜がタイプを打つ姿にタイトル・イン。明けて濡れ場を飛び込ませる王道、シルビア商事のライバル会社「グロリアス商会」の北山弘(中原)と秘かに交際する小夜は、北山の求めに応じ、新作デザイン画を漏洩する。といつて、勿論カラーのデザイン画の、白黒コピーをとつてゐるのが今目線にせよ地味にジワジワ来る。続けて生地見本を要求された小夜が無人の商品開発部でゴソゴソしてゐると、密告電話を受けた能勢が現れ、堂島邸に連れて行かれた小夜はそのまゝ囚はれる。痺れるやうな、ポルノな世界観。
 配役残り、織田俊彦は北山の背後で糸引く部長、上司がアイコン的に煙草を咥へてゐる時代が麗しい。小池雄介は、堂島邸に恐らく常駐する責め師・源二。何でまた屋敷に責め師が住み込んでゐるのかつて?知るか、電話帳でも読んでろ。ラスト新宿を闊歩する小夜に見惚れる、いまおかしんじ似は不明。源二に話を戻すと、朱実が“兄さん”と思慕する関係性の謎に関しては、一欠片たりとて顧みられるでなく終ぞ等閑視して済まされる。
 この年鬼六×マブジュン・ストリーム・アタックを敢行した伊藤秀裕の、昭和56年第一作。年間七本のロマポに出演、内五本で主演と大車輪の活躍を見せた麻吹淳子は、谷ナオミの跡目を継ぐ二代目SMの女王としてブレイク後二年、トータルでも四年と短い女優人生に、同年幕を閉ぢる。
 小夜が堂島の手に堕ちるところまででサクサク十五分、序盤に特段の冴えを感じさせなければ、以降も紛ふことなき純然たるフォーマット映画。一通り朱実と堂島であれやこれや小夜を責めたのちに、何故か源二が小夜を専有。適宜ブレイクを挿みながらも、延々延ッ々小夜が源二にここを彫られあそこを彫られするに終始する中盤は、意味だの展開だのといつた些末な概念は銀河の彼方に投棄。ここを彫られあそこを彫られが永遠に続くかのやうな、制止した時間の清々しさが眩く煌めく。彫物の完成した小夜が源二と情を交し、集められた一同の度肝を抜く頓珍漢なクライマックスに至る終盤は一息の電車道。藪蛇な重厚感をバクチクさせる高橋明改め堂島が、源二を「お前に出来ることなぞ何もありやしない」とさへ全否定するところの所以も、朱実の“兄さん”同様バックグラウンドを何某か匂はせるだけ匂はせておいて、矢張りスカーッと、といふかより直截にはスッカラカンと通り過ぎる。未だ存命の撮影所システムに裏打ちされ、確かに画面―だけ―は分厚いものの、反比例するかの如く物語なり中身は薄い、寧ろそれがどうした文句があるかといはんばかりの、潔さすら透けて見えなくもない裸映画。にしては、これは八十年代が悪いのだが、女優部のキッツキツにキツいメイクに、琴線を素直に奏でるのを妨げられた点も、個人的には大きい。見せるつもりであつたらうものが絶妙によく見えない、間の抜けたラスト・ショットがある意味完璧に全篇を象徴する一作である。


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