真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ねつちり女将の乱れ帯」(1999/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:三河琇介/撮影:飯岡聖英/照明:ICE&T/編集:酒井正次/助監督:竹洞哲也/スチール:佐藤初太郎/監督助手:森角威之/撮影助手:鏡早智/タイトル:ハセガワタイトル/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/出演:里見瑤子・春日奈々美・南けい子・坂入正三・田嶋謙一・港雄一)。
 林中の道路脇に停めたロードバイク搭載の四駆が、車中でヤラかしてゐると思しき揺れを見せる。致してゐるのは水上荘を継いだ元競輪選手、とかいふ素頓狂な設定の欣一(坂入)と、一年の交際を経て結婚を約したヒカル(春日奈々美/多分佐々木基子のアテレコ)。事後車外で放尿するヒカルを、欣一は義妹を迎へに行くところなのだからと急かす。そもそもヤッておいてといふ至極全うなツッコミは、開巻の速攻で二番手の裸を見せる方便に免じてさて措くべきだ、車が走りだしてタイトル・イン。クレジット時の画面は、助手席の車載カメラ。先に俳優部を片付けてスタッフに突入した途端、何故か軽く傾くクレジットが正体不明の御愛嬌、ハセガワ何してる。フランスでのワイン留学から三年ぶりに帰国した鮎美(里見)を伴ひ、欣一は水上荘に帰還。ここで竹洞哲也、ではなく森角威之が二人を出迎へる欣一競輪選手時代の後輩で、現在は水上荘従業員の三太郎。一方ヒカルは車からも降りずに、複雑な表情を浮かべる。没母の着物を着てみた鮎美が水上荘を継ぐことを申し出、現役復帰を摸索する欣一は、渡りに船とばかり快諾する。翌日兄妹は、山菜採りの最中の事故で、二人の母親が命を落とした滝を訪れる。といつて、実は欣一と鮎美はそれぞれ別の夫の連れ子で、没母と兄妹は血が全く繋がつてゐなかつた。それゆゑ三年前の母死去時、周囲の親戚が二人の仲を危ぶみ、鮎美をフランスにやつたものだつた、各々実父の去就に関しては完スルー。
 配役残り田嶋謙一は、居酒屋―店舗は内外ともリズ―を営むヒカルの、常連客を通り越した情夫・小川。星座のユニフォームで来店するので草野球でもして来たのかと思へば、単なる猫党。家でテレビ見るのに、全然関係ないチームのユニを着る意味が判らない。兎も角、営林署勤務の小川が欣一が相続した山にバイパスが通るインサイドな情報を入手したのが、ヒカルが欣一に接近した発端。何気に華麗なる女優部三冠を達成する―うち和姦は対ヒカルのみ―港雄一は先代からの水上荘の上客で、建設会社社長の村松。そしてラスト二十分に突入して漸く初めて遺影が抜かれる南けい子が、水上荘の先代女将にして鮎美・欣一の継母。m@stervision大哥がリアルタイムで仰せの通り、寧ろサカショーと南けい子が兄妹にしか見えない。
 豪快なキャスティングはこの際さて措き、デフォルトで禁忌に触れかねない兄妹の周囲で欲深き魑魅魍魎が蠢く、小林悟1999年第五作。打算の道筋に最低限筋が通つてゐなくもないヒカル・小川に対し、息を吐くやうに女を犯す村松の造形は、幾ら“犯し屋”の異名を誇つた港雄一を擁したとはいへ、流石に底が抜けてゐる。二代続けて村松に手篭めにされた鮎美は、結局南けい子が命を落としたのは事故死だつたのかそれとも自死なのか終に明示しないまゝ、件の滝に入水。その場に欣一が間一髪駆けつけヒシと抱き合ふまではいいとして、残念ながら尺が殆ど残らない。微塵の躊躇も葛藤も窺はせずに兄妹がオッ始め、一応ロケーションだけは悪くない軽く引いたロングに“完”が叩き込まれるラストは、そもそも火種が何ひとつ解消されてゐないのに濡れ場でヤリ逃げる貫禄の大御大仕事、全ッ然完結してねえ。そんな中でも琴線に触れたのは、田嶋謙一が里見瑤子を犯し始めるやハードロック調の劇伴がドカドカ鳴り始め、片や港雄一が里見瑤子を犯し始めるやハイキーな照明が迸るプリミティブかつポップな演出、ではなく。山菜を採りに山に入つた鮎美を、ヒカルからその旨聞きつけた小川が追ふ。その件、小川は都合四度「山菜、採れますか?」と声をかけつつ鮎美を神出鬼没に追ひ詰めるのだが、計四回の「山菜、採れますか?」を、田嶋謙一が何れも巧みに声色を変へてのけるのは数少ない正方向の見所聞き処。


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