真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 ゆれ濡れる桜貝」(2011/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/監督・脚本:後藤大輔/原題:『宇治抹茶ロール桜花添へ』/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/サウンド:シネキャビン/タイミング:安斎公一/助監督:永井卓爾/演出助手:畠中威明・壁井優太朗/撮影助手:宇野寛之・島秀樹・今村圭佑《電車応援》/編集助手:鷹野朋子/現場応援:広瀬寛巳/出演:桃井早苗・中森玲子《新人》・小滝正大《新人》・野村貴浩・佐々木麻由子・日高ゆりあ・竹本泰志・池島ゆたか・倖田李梨・一魅・ヒロセ寛巳・冨田じゅん・松井理子、他多数/特別感謝:良ちやん)。出演者中、倖田李梨以降は本篇クレジットのみ。
 潤沢な面子に混み合ふ電車の車中、スカートの下を中心に乗客の股間を潜る意欲的なカメラは、さりとて最終的には然程の意味を有してゐるやうにも見えない。女優養成所の講師で映画監督の加藤伸輔(野村)から、こつ酷くダメ出しされたことを苦く想起する女優の卵の杉内晴美(桃井)の前には、どうやら痴漢されてゐるらしき佐々木麻由子と、その背後では惚けた佇まひで上方を見やる竹本泰志と小滝正大。痴漢される女の後ろに男前と冴えない小男を並べる、含意の明確な文法が清々しい。何れが犯人かは兎も角、佐々木麻由子に対する痴漢行為を晴美が確信したタイミングで、電車は急停車、弾みで小滝正大は晴美の胸を鷲掴みにしてしまふ。別に構はないが、トーストを喰はへた美少女の転校生と、曲がり角で出会ひ頭に激突するが如きシークエンスではある。さて措き、急停車したのは、元来保守的といはれるオーピーがよくぞ通したともいふべきなのか、線路上に大量の糞尿が撒かれ、電車が立ち往生したからであつた。仕方なく乗客は悪臭に悶絶しつつその場で下車、晴美は足を洗ひに小川に入ると、そのまま川の流れに身を任せる。映画的に漂ふ晴美は、スマホ片手に―糞尿電車テロに関して2chに―スレを立てるだ立てないだと一人で喧しい小滝正大と再会する、プロ級に鬱陶しい男だ。所変り、晴美が働く、大場一魅がママのガールズ・バー。・・・・大場一魅がガ、ガール!?まあいいか、黙れ俺。同僚で養成所同期の山崎千秋(中森)は、店を退けた後“個人レッスン”とかいふ方便で加藤の自宅を訪ねると、加藤と寝る。業界の中で注目度の高い、卒制(卒業制作)の主演の座を、OLを辞めた後に幾つもの養成所を巡つた千秋は狙つてゐた。加藤はその直前に偶然出くはした、ゴミ出しに店の外に出た晴美にも、個人レッスンの誘ひをかけるやうな男なのだが。要は露出系のマニアさんといふ寸法なのか、佐々木麻由子と竹本泰志がへべれけな痴漢行為に燃える空いた車中、晴美と千秋は並んで卒制「宇治抹茶ロール桜花添へ」の台本に目を通す。佐々木麻由子と竹本泰志に呆れた千秋が退避すると、今度はそこでは倖田李梨が闇雲にビッシビシ得意のダンスを踊つてゐたりなんかする。宇治抹茶ロール桜花添へのレシピを求め本屋を訪れた晴美は店員といふ形で、痴漢オタク男・越智良則(小滝)と再々会。すると非現実的に二人は意気投合、日曜日にデートすることになる。
 その他配役登場順に冨田じゅんと松井理子は、車中の綺麗処。ヒロセ寛巳は寡黙なガールズ・バー客、火を噴く円熟のTシャツ芸は、今やこの人このギミックの一点突破で十二分に戦へよう。日高ゆりあは、越智の中古車ディーラー時代、酔ひの勢ひで筆卸してあげる当時の同僚・新井洋子。池島ゆたかは、越智が童貞であつたことを、当人が聞いてゐるとも当然知らず洋子と揶揄する、二人の共通の上司・池島(仮名)課長。よくよく思ひ返してみたところ、池島ゆたかは声はすれども姿は見えぬであつたやうな気もするのだが、他多数と同様に、乗客要員として文字通りの人海戦術に一役買つてゐたのか?ガールズ・バー店内にひろぽんの他にもう一名見切れる若い男は、純然たる山勘に過ぎないが、演出部動員のやうな気がする。
 狭義のピンク映画としては五年ぶり、新東宝からオーピーに越境しての電撃復帰作「となりの人妻 熟れた匂ひ」(主演:冨田じゅん・なかみつせいじ)、五ヶ月間を置いての前作「多淫な人妻 ねつとり蜜月の夜」(主演:桃井早苗)と来て、更に三ヶ月後といふ本格的に順調なペースによる後藤大輔2011年第三作は、明けて大蔵時代からの恒例正月痴漢電車。改めて後述するが、番組上特別な正月でなくとも、ヒロインが一本の映画を背負はせるには如何せん苦しいゆゑ、相手役の越智に視点を移すと、中年のオタク男にセックスも積極的にヤラせて呉れる若い彼女が出来る。ある意味も何も客層の一部に延髄斬りを叩き込むダイレクトな夢物語は、やがて千秋―と加藤―の姿を通して入念に地ならしした上で、竹本泰志―と佐々木麻由子―の決定力で人それぞれの人生賛歌へと穏やかに着地する。賑々しい布陣が煩瑣を感じさせる面もなくはないともいへ、さういふテーマと構成自体は、目出度い正月映画に際し全く鉄板、実に素晴らしい。さうはいふものの、基本的に目つきに難があるのか、髪をアップにするといよいよ逃げ場がなくなる、桃井早苗の垢抜けない華のなさはどうにもかうにも苦しくはなからうか。大根といふほどのことはないが野暮天の主演女優に作品世界の真の醸成を阻まれた、ピンク映画であることも踏まへればなほさら致命的に惜しい一作。単なる、個人的な嗜好ないしは性癖に起因する難癖であるやも知れないが、それでどうした文句があるか。ビリング・トップにピンとは来ないまゝにそれでも捻じ伏せるだけの強靭なエモーションまでには、些か遠いやうに思へる。
 逆にといふのは文脈がおかしいが、初陣ながら二番手の中森玲子には、銀幕のサイズに一層映えるダイナマイトな肢体といひ、芝居勘の良さを感じさせるやさぐれた風情といひ、非常な好印象を抱いた。電車の中で寝落ちた際の集団痴漢は、そこにその淫夢を置くドラマ的な必然性は特にも何も一欠片も見当たらない反面、なほのこと中森玲子ここにありを轟かせる一撃必殺の度迫力に溢れた名濡れ場。

 ところで、本篇クレジットに於ける小滝正大の“(新人)”特記に、頂けないものを感じてみるのは尻の穴のミクロさを自ら露呈するに過ぎまいか。小滝正太と微妙に名義は異なれど立派な主演作も兎も角、二本のエクセス仕事のことは等閑視してみせるおつもりか。


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