真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「レイプの現場 女が男を…」(1990『ダブルレイプ 変態調教』の2012年旧作改題版/企画:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:沖茂/音楽:映像新音楽/美術:衣恭介/編集:竹村峻司/助監督:近藤英総/出演:林由美香・緑喬子・一の瀬まみ・碧あや・渡辺美香・牧村耕治・木下雅之・大島徹・工藤正人・ゲンゴロウ)。出演者中、渡辺美香は本篇クレジットのみ、近藤英総の号数が何故か妙に大きい。それと改めて後述するが、今作に工藤正人は登場しない
 看護婦姿の林由美香が薄暗い院内を歩くファースト・カット。ひとまづ胸元の名札を抜かうといふ―当たり前の―心がけは珠瑠美とは思へないほどに殊勝ではあるのだけれど、画が暗くて正直よく見えないのは逆の意味で流石でもある。高校卒業後東栄医科大学付属看護学院に進学、大学病院にて研修勤務中の吉岡由紀子(林)が、万年インターンの桑田順次(牧村)と杉野正夫(ゲンゴロウ/誰なんだ)に地下室に連れ込まれ輪姦レイプ―劇中用語ママ―される。重語感が清々しい、ある意味実勢を伝へてゐるともいへるのか。由紀子は処女であつたらしく、太股を派手に流れる破瓜の鮮血を押さへてタイトル・イン。明けて由紀子が当時同居する兄・真一(大島)と、妻・綾子(緑)との夫婦生活。帰宅した由紀子は居た堪れなくなり、聞こえよがしにシャワーを浴びる。ここがカットと同時に時間が幾らか飛んでゐるのだが、朝の吉岡家の食卓、真一は妹が受けた陵辱のことも知らず、大学進学も永久含め就職もせずに看護婦の道を選んだ由紀子が、看護学院を辞めてしまつたことに小言を垂れる。四年後の現在、ノンフィクションポルノ作家―後程由紀子自称ママ―として活躍する由紀子は、研究で手柄を上げた記事を目にした桑田に、事件以来初めて電話で接触する。開巻は事実上叫んでばかり―吉岡家パートでは黙したまま―ゆゑ半信半疑であつたものだが、由紀子の声は別人によるアテレコ。ピンク映画の至宝、林由美香のエンジェル・ボイスを放棄してみせるとは、血迷つたか、珠瑠美。大概、この人の映画は血迷つてゐるか。そんな―どんなだ―珠瑠美映画大定番の由紀子が結城陽子(碧)と出し抜けに咲かせる百合に、レズビアンものを書くに当たつての要は実地取材といふ方便を設ける辺りは、珠瑠美にしては画期的。由紀子が陽子との体験を基にした原稿―ペン・ネームは柚木由紀子、柚木の字は推定―を編集者の諸口勝(木下)に渡し、ついでに一戦交へる前段、由紀子は夜の街で、綾子の不倫現場(お相手は不明、真一は海外出張中)を目撃する。次なるテーマにレイプを選んだ由紀子は、四年前の脛の傷を出汁に桑田を召喚、眼前で綾子を犯させる。
 ステルシーに飛び込んで来る野沢明弘は由紀子に喰はれる、十九歳の新聞集金人、童貞。ここで、昨今作りが投げやりなエクセス母体の新日本映像公式には“新聞少年…工藤正人”とあるが、ポスター・本篇クレジット共に堂々と記載される工藤正人は、本作には全く登場しない。逆に、野沢明弘の名前は何処にも無い。一体全体何がどう転べば、斯くもアメイジングなことが起こり得るのか。ところで、哀川翔ばりにカッチョイイ野沢明弘が、“少年”といふ柄でないことなど重ねていふまでもあるまい。一の瀬まみは、諸口が在籍し由紀子が世話になる、エロ担当にデッち上げられた第二編集部に対し、表の顔のお堅い第一編集部のお茶汲みアルバイト女子大生・橋野真理子、由紀子の琴線に激しく触れる。前後して渡辺美香は、由紀子が第一編集部の真理子を見慣れないことを強調する目的で事前に見切れる、第二編集部要員。由紀子は律儀に二輪目の百合を咲かせた上で、綾子のレイプ現場を活写した新作で得た稿料二十万を手切れ金に陽子は整理。俄に執心する真理子に、諸口から個人情報を聞き出し物理接触を試みる。ところが目の前に居るのが柚木由紀子其の人とも知らず、第二編集部の低劣さに嫌悪を露にする真理子は、可愛さ余つて憎さ百倍、由紀子の逆鱗に触れる。
 自身の強姦被害は一昨日か明後日の風に吹き流し、藪から棒に度外れた淫乱女に変貌したヒロインが、周囲の女―と過去に自らを犯した男―を巻き込み大暴れを繰り広げる。女流ノンフィクションポルノ作家なる底の抜け倒した機軸に着地する、カットの狭間に一切端折られる四年間の超飛翔は如何にも珠瑠美的ではある一方、逆の意味で各作安定した珠瑠美クオリティには反し、全体的には木端微塵と頭を抱へるほど壊れてゐる訳ではない。口を開くと終始由紀子が振り回す大仰な台詞回しと長尺のフェード、濡れ場の最中不可思議に火を噴く、唐突に画調をガラッと変へる正体不明のフィルターの他は、案外比較的おとなしい。闇雲なイメージの挿入が本来他愛もない始終を徒に撹乱することがなければ、おどろおどろしい不協和音が鳴り響くこともない。何より無体な物語とはいへその限りに於いては纏まつてゐないこともなく、映画を奈落の底に突き落とす魔展開は影を潜める。正方向に特筆すべきは、劇映画的に望むべくもないことはこの期にいはずもがなとしても、輝く裸映画的な充実。正統派細身美人の緑喬子と、超絶アイドルとして既に完成された一の瀬まみ。そして表の隠し球―裏は野沢明弘―碧あやは、見覚えのある顔だと思つたら何と水鳥川彩、巨人並みの重量打線だ。寧ろ、何処からでもビリング・トップを狙へる超強力な布陣の中、この時点ではルックスは大きく未完成、加へて天使の美声まで封じられた林由美香が最も分が悪いとすらいへようか。一貫するよくいへばドライなビートは、虚無的なラストまで一直線。ビシャッとENDマークが叩き込まれると、後には何も残らない。

 因みに、絡み要員として参加した「貝如花<BEI JU HWA> 獲物」(1989/監督:カサイ雅弘/脚本:周知安/主演:貝如花《BEI JU HWA》)に続き、林由美香にとつて本作はピンク映画―アテレコなので“一応”―本格初参戦作となる。


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コメント
 
 
 
林由美香の件 (XYZ)
2012-08-05 17:33:53
多分、他の仕事が忙しくてアフレコに行けなかったのでしょう。
後、水鳥川彩出演は今知ったのでびっくりしています。
 
 
 
>林由美香の件 (ドロップアウト@管理人)
2012-08-06 07:18:13
 お早う御座います。

 個人的にはともあれ、野沢明弘登場に度肝を抜かれました。
 これまで工藤正人を誤認してたかな?なんて不安になりかけたり(笑)。
 
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