真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「激入 主人よりずつといゝ」(2002『赤い長襦袢 人妻乱れ床』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:星座/出演:若宮弥咲・相沢知美・水原香菜恵・岡田智宏・なかみつせいじ)。
 昭和二十二年、ロケ的には山梨県甲州市は塩山の、毎度御馴染み「水上荘」でありつつ、物語上は東京都文京区音羽の遊佐家。暇を貰ふ挨拶に現れた女中の速水るい(相沢)が、屋敷に一人残される女主人の遊佐田鶴子(若宮)に、今しがた届いた一通の封書を手渡す。鵜飼幸也といふ、全く知らない男からのものであつた。手紙の主いはく、田鶴子は自分を知らないであらうが、自分は田鶴子に関して何でも知つてゐる。与謝野晶子の愛読者であることと、煙草嫌ひであること。そして、稀代の完全犯罪者であることを。日本橋の扇子老舗「鵜飼」の次男坊・鵜飼幸也(岡田)は肺を患ひ、日陰の生活を送る。日がな一日蔵の中で過ごす幸也はある日遠眼鏡を発見、小日向の高台に立する蔵の窓から、音羽一帯を窺ふ愉しみに開眼する。やがて心を奪はれた田鶴子の日常を、心得のある読唇術の力も借り定点観測するやうに。出征した田鶴子の夫・静馬(なかみつせいじのゼロ役目)は戦火は潜り抜けたものの、復員船が沈没したとの報が入る。即座に遊佐家に乗り込んで来る水原香菜恵は、静馬の妹・神尾敦子。遺言を持ち出し、静馬が死亡した場合田鶴子でなく、家督を自身の夫が継ぐ旨を主張する。こゝが、色々ある中今作最大のツッコミ処。家督とは即ち家長権、どうしたら神尾家の人間である敦子の夫が、遊佐家の家督を継げるのか。実はるいが敦子と結託してゐたりもする一方、追ひ詰められた田鶴子の前に、異母弟にしては静馬と瓜二つの若林吾郎(なかみつ)が、当座の生活費の無心に訪れる。
 旧題・ビデオ題とも正式に冠されてゐないとはいへ、広義の“鍵穴5”ともいふべき深町章2002年第四作。前回深町章戦に引き続き、例によつてリアルタイムでm@stervision大哥が完結されたところに後追ひを挑むのも負け戦にすら値しないが、泣き言は垂れても逃げは許されない。何はともあれ、ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続けるのを唯一のポリシーとしてゐる次第。無為の言ひ訳の与太は兎も角、基本設定が自動的に有する立体性を、一切活用するでなく済ましてみせる清々しく平板な展開と、全般的な貧しさを禁じ得ない主演女優は確かに苦しい反面、見所も案外なくはない。限られた頭数の中で、水原香菜恵の濡れ場を相沢知美と咲かせる百合で二人纏めて消化する戦略は、素面の劇映画としては大概な力技でしかないのかも知れないが、裸映画的には結構秀逸。一方的な幸也の邪推ながら、不能もしくは男色疑惑を、性急な凶行に際しての二者択一に繋げる論理性も渋い。そしてラストの、今でいふと童貞ストーカー・ニートの幸也が自ら望む形で辿り着く、ときめきに死す恍惚が、岡田智宏から現在に於いても依然抜けきらぬ青さにいゝ具合に彩られ、案外形になる。満更でもないといふか、一歩間違へば秀作となつてゐた可能性を残す、ともいへるのではなからうか。

 そして、これは今作自体の手柄とは関りない十年後のファイン・プレー。一見ぞんざいに思はせ、巧みに内容に即した今回新題―2006年最初の新版公開時には「情痴妻 脱がされた長襦袢」、こちらは何の変哲もない―が地味に素晴らしい。


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