真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「好色長襦袢 若妻の悶え」(1998/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:武田浩介/企画:朝倉大介/撮影:柳田友貴/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/協力:榎本敏郎・広瀬寛巳/出演:葉月螢・篠原さゆり・相沢知美・杉本まこと・熊谷孝文)。
 昭和二十二年、御馴染み水上荘の笹島邸。手足は一応ついてゐるとはいへ自由は失ひ、言葉を話せなければ耳も聞こえない。 “生きてゐるのが不思議”と医者にいはしめる状態で戦地から帰つて来た、笹島家の当主・修治(杉本)が全身を包帯でグルグル巻きにされた上で床の中から、視覚の他、僅かに自由となる口元で銜へた鈴をけたたましく鳴らす。布団の周囲には、意思を家人に伝へる唯一の手段である、「カワヤ」(注:便所、即ち排泄のこと)・「メシ」といつた、矢張り鉛筆を口に銜へ書いたたどたどしいメモが、無惨に散乱する。そこに飛んで来た修治の妻・翠(葉月)は、芋虫のやうな主人に手を焼くこともなく、雑炊を甲斐甲斐しく食させる。一方、元々は「ミモザ」、戦中は「大東亜」、そして今は「ホテル・ハリウッド」と節操なく屋号を変へた連れ込みにて、これは後々語られる設定ではあるが、引き揚げ後無気力な生活を送る黒田直樹(熊谷)と、首尾よくオトした森崎財閥令嬢である森崎美子(篠原)の逢瀬。事後、ここは甚だ粗雑な段取りにしか見えないが、美子は風呂を浴び、黒田が一人で(ゴールデン・)バットを燻らせる部屋に、官憲(声のみの二人組が、榎本敏郎と広瀬寛巳か?)に追はれた売春婦の井口由利(相沢)が無造作に飛び込んで来る。ヒット・アンド・アウェイといはんばかりに即座に一旦捌けた、由利が落して行つた札入れの中から出て来た、笹島修治の名刺に黒田は目を留め、美子には悟られぬやう懐に忍ばせる。カット明け笹島邸を訪ねた黒田は、翠と再会する。元々翠と黒田は恋人同士であつたのが、裕福な家の笹島に奪はれたものであつた。
 壮絶な開巻で幕を開ける、本格時代劇の成立を許すバジェットは既に存在しない状況下でも、猟奇要素は作品毎にある時もあればない場合もあるが、兎も角深町章の得意とする大東亜戦争前後の近未来ならぬ近過去を舞台とした一作。ファースト・カットは随分と乱暴ではありつつ、三番手の相沢知美に単なる濡れ場要員に止まることなく、ヒロインといはくつきの元恋人を繋ぐ送りバントも打たせる構成は、地味ながら実に論理的。とはいへ、ロケーションの品数が清々しく貧弱な中、これは純然たる明後日な横道でしかないが、柳田友貴の大先生撮影が火を噴くこともなく、中盤が中弛む印象は否めない。但し、伏線も十全に噛ませた上での、衝動的に翠が陰惨な凶行に及ぶ戦慄のスラッシュは正しく衝撃的。直後の展開も、常識的には不自然極まりないのも通り越し無茶苦茶ですらあるのかも知れないが、ピンク映画的には順当に、そして頗る力強い。二つの情交を重ねることにより、ひとまづ幕を開いた筈の、新時代からは取り残された闇と空疎とを鮮烈に並置する終盤は圧巻。開巻とオーラスに流れる勇壮な男声コーラスの「ズンドコ節」が、のろまだといふ訳ではない、鈍く重いエモーションを残す。

 今回は旧題ママによる2011年二度目の新版公開で、大胆にも2002年最初の旧作改題に際しては、翌年の「鍵穴 和服妻飼育覗き」(1999/脚本:福俵満/主演:葉月螢)を追ひ越すだか追ひ越されるだかして、「鍵穴2 長襦袢欲情覗き」なる新題をつけられる。実は先に製作されてゐたシリーズ第二作といふのも愉快な話、あるいは乙な世界だ・・・・と、一旦書きかけて、ここから先は自力で辿り着いた話ではないのだが、事の正確な次第が判明した。元々、深町章同年五作前の「痴漢覗き魔 和服妻いぢり泣き」(1998/脚本:岡輝男/主演:葉月螢)が、最初の“鍵穴”「鍵穴 和服妻痴漢覗き」。そして今作が「鍵穴 長襦袢欲情覗き」と、ビデオ化に際し改題されリリース。二本のビデオのそこそこヒットを受け、初めから鍵穴ブランドを冠して製作されたのが、「和服妻飼育覗き」。即ち、ナンバリングされてゐないだけで、そもそも「和服妻飼育覗き」は“鍵穴3”といふ寸法である。以降は、「淫ら姉妹 生肌いぢり」(2000/脚本:かわさきりぼん/主演:里見瑤子)が、ビデオ化改題「蔵の中 鍵穴Ⅳ」。鍵穴ブランドではないものの、中身は概ね同趣向の「赤い長襦袢 人妻乱れ床」(2002/脚本:岡輝男/主演:若宮弥咲/ビデオ題:『蔵の中 和服妻みだら床』)と、「天井裏の痴漢 淫獣覗き魔」(2003/脚本:福俵満/主演:川瀬有希子/ビデオ題:『淫獣 天井裏の覗き魔』)を経て、「新・鍵穴 絡みあふ舌と舌」(2005/脚本:岡輝男/主演:葉月螢)に連なる、といふのがシリーズの沿革である。改めて整理してみたところ、矢張りほぼ同じ傾向による加藤義一の第四作、「いんらん夫人 覗かれた情事」(2002/主演:水沢百花)の脚本も手掛けた、岡輝男が鍵穴シリーズのメイン・ライターであつたといふ事実が何気に興味深い。


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