真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻・愛人 けいれん恥辱」(2008/製作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:朝川良寛/照明:大川涼風/助監督:加藤義一/編集:《有》フィルムクラフト/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:福島圭吾/照明助手:大幡暗田/スチール:津田一郎/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/音楽:OK企画/現像:東映ラボ・テック/出演:梅澤かほり・倖田李梨・山口真里・竹本泰志・姿良三・なかみつせいじ)。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、何れも小川欽也の変名。
 薮蛇にカメラを傾けた画の中、フリーカメラマンの山田隆志(竹本)は、けふも追ひ続ける標的を捉へられなかつたバッド・ラックを毒づく。同棲中のモデル・小島京子(山口)から妊娠した旨告げられた山田は結婚を決意すると同時に、京子に今は亡き妹の過去を語る。山田の妹・由紀(一切登場せず)は、テレビ局関係者と不倫関係にあつた。ところが妊娠が発覚した途端、由紀は妻との離婚を経ての結婚も約束してゐた筈の不倫相手からは、手の平を返したかのやうに捨てられる。憐れ精神の平定を乱した由紀は、交通事故で死亡する。山田がスキャンダルを狙ふTVキャスターの小林功(なかみつ)が、ロケハン旅行で伊豆に向かふ。その情報を入手した山田も、小林を追ひ伊豆に入る。といふ訳で、いふまでもなく伊豆篇に於いては、御馴染み花宴が、殆どデフォルトの如く登場。
 小林の伊豆行に同行する梅澤かほりと姿良三は、番組アシスタント、兼不倫相手の谷崎真弓と、ディレクターの杉山。最早三番手の俳優に払ふギャラも惜しんだのか、伊豆に旅行がてらカメラも一通り回して来ました、とでもいはんばかりの風情すら漂ふ。倖田李梨は、小林の妻・玲子。小林と真弓の不倫現場をカメラに収めながら、山田は小林への復讐を決行するXデーを、玲子の抱く疑惑へのカウンターとして真弓も招く、自宅での小林誕生パーティー当日に定める。
 相変らずといふか性懲りもなくといふか進歩がないといふか、動機がメリハリをまるで欠いたまゝなし崩し的に開陳される復讐譚は、小林宅に突入した山田の一暴れで、即物的あるいは表層的な頂点を、矢張り特に頂きといふほどの盛り上がりを見せる訳でも別にない。女優陣の粒は、若干弱い主演に目を瞑りさへすれば手堅く揃つてはゐるので、つらつら流れる女の裸を、うつらうつら眺めてゐる分には、オフ・ビートな眼福を満喫出来ぬではない。
 最早戦慄すら催させる恐るべき無自覚が、暴力的なニヒリズムさへ喚起しかねないのは結末。小林宅に侵入した山田は、玲子を先頭に、家に帰宅したのと訪問した順に小林と真弓も拘束する。勿論玲子と真弓は犯し、現場写真を突きつけ、小林の不倫を暴露する。不法侵入・監禁・強姦・強盗etcと、死んだ妹の復習のためとはいへ凶悪犯罪博覧会の様相を呈する。一件後、そんな山田が辿る顛末は。真弓の指から抜き取つた小林からのプレゼントの指輪を、のうのうと何食はぬ顔で京子にエンゲージリングとして手渡すと、二人は手放しにラブラブな様子で全くのハッピーエンドを迎へる。だなどといふのは、一体全体如何なる了見か。観客の心理のベクトルを、何処に持つて行きたいのだかサッパリ判らない。最も恐ろしいのは、恐ろしいものを作らうとしてゐる者の生み出すものではなくして、矢張り何も考へずにものを作る手合だといふことなのか。少なくともシークエンス単位としては判り易く大袈裟な破綻も見られない分、ツッコミ処にも欠く始末。何故だらう、一言でいふと、小川欽也に負けたやうな気がする。


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