真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ノーパン若妻 おもちやで失神」(2002/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢♪実/脚本:樫原辰郎/撮影:岩崎智之/照明:奥村誠/助監督:小川隆史/監督助手:竹内宗一郎/撮影助手:赤池登志貴/出演:中河原椿・葉月螢・伊藤猛・井淵俊輔)。四者クレジットされる協力を拾ひ損ねる。
 口跡が悪いのか音響の所為なのか、旦那の台詞がイマイチよく聞き取れぬ若妻・高橋五月(中河原)と夫・誠(井淵)の夫婦生活。誠にせがまれた五月が今将に夫のモノを咥へようかとしたところで、カット変ると空気感もガラリと変へ、伊藤猛が八百屋の店先で胡瓜をガブリと齧る。ここまでは、鮮やかな開巻であつたのだが。
 フリーライターである誠は、ラーメン本の取材旅行へと北海道に向かふ。御近所の佐藤尚子(葉月)を招いておきながら、主婦の矜持など何処吹く風、五月は即席ラーメンの侘しい食事を摂る。料理の苦手な五月は、誠の留守中にはジャンクな食生活を送つてゐた。そんな生活が祟つたのか、五月は尚子の眼前で倒れる。栄養が足りてゐないのだと説教され、五月は尚子が勧める有機農法野菜を扱ふ八百屋へと向かふ。一見無愛想な八百屋の主人・田中栄作(伊藤)に五月は気圧されるが、差し出された野菜ジュースは、思ひのほか旨かつた。翌日何か田中に惹かれるものを感じた五月は、再び八百屋を訪れる。八百屋はその日は閉めてゐた。田中の住居へと裏手に回つた五月は、何事か男女が激しく争ふ様子に身を固くする。中河原椿のお芝居は、始終固いといへばそれまででもあるのだが。あらうことか、室内では田中が尚子と暴力的に事に及んでゐた。驚愕しながらも、何時しか昼下がりの安アパートの通路、五月は自慰に耽り始める。窓越しの五月の視線に気付いた田中は、傍らに転がる胡瓜を尚子に捻じ込む。翌日も八百屋に向かつた五月は配達を乞ひ、家を訪れた田中と情事に至る。五月は、田中に溺れて行く。
 不思議を通り越した不気味な迫力を有した男に、地に足の着かぬ若妻が囚はれてしまふといふ一篇。「俺はただの鏡」、田中は欲求不満の尚子や五月の、自らは投影に過ぎないと語る。魔性すら漂はせた田中の魅力あるいは威力は、劇中満足に発揮されてゐないではない。二人の女を虜にする田中の姿は、虜にするだけの説得力を有して描かれる。田中は五月を問ひ詰める、「行くか?一緒に」。「え?」、「あの店も、潮時だし」。「何処へ?」、「何処か、遠くに」。と続けた後に、「決めるのはアンタだ」。「全てを捨てられるか」、「今背負つてゐるものにケリをつけられるか」。「全てはアンタ次第だ」、と田中は五月に強ひる。この畳みかけには、伊藤猛の朴訥としながらも同時に強靭な突進力が素晴らしく活きてゐる。となると、どうにも肝心要を詰めきれないのは。その、選択を迫られた五月こと、中河原椿のぎこちなきことこの上ない、全方位的な至らなさが最も痛い、伊藤猛を受けさせるのは明らかに荷が重い。田中の深みに嵌つて行く五月の、そもそも誠との生活にどういふ不満を感じてゐたのか、といふ積み上げの薄い辺りも、振り返つてみるならば穴として決して小さくはない。
 撮影の岩崎智之は、「ア・ホーマンス」ばりの前衛的、といふか奇を衒つたカメラワークに挑む。功を奏せてゐるのかどうかは別として、個人的にはある意味微笑ましくもあり、殊更に嫌ふところではない。とはいへ少なくとも実用性の意味合ひの上でのいやらしさからは、遠ざかつてしまつてゐることは恐らく間違ひなからう。そもそも、さういふ衒つた奇が芸として定着し得るには、国沢実の映画には全体的な強度なり緊張度が伴はない。錯覚を利した変則的なカメラワークは詰まらなくはないが、上滑つてしまふばかりの感は否めない。それは勿論、先に挙げた伊藤猛映画の未完成にも繋がる。ネタバレになつてしまふが<結局田中は尚子と街を捨て>、締めは北海道から戻つて来た誠と五月との濡れ場。今度は北陸へ取材旅行に向かふといふ誠に対し、五月は突かれながらも「連れてつて!」と叫ぶ。その叫びは実は田中へ発せられたものであることは観客には明らかで、さういふ構成は意図をキチンと果たせてはゐるのだが、最終的には国沢実の強度不足が、何とも生煮え感を残す一作。何時も何時も同じことばかり繰り返して恐縮でもあるが、この人には軽くてもチープでも、もつとポップでライトで可愛らしいなコメディこそが、自身の志向は別として作品の出来上がりとしては、最も適してゐるのではなからうかと見受けるところではある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 痴女・高校教... 痴漢電車 び... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。