真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不毛な制服 恥づかしい半熟」(1990『制服本番 おしへて!』の2008年旧作改題版/制作:シネマアイランド/提供:Xces Film/監督:常本琢招/脚本:石川欣・常本琢招/プロデューサー:鶴英次・鎮西尚一/撮影:福沢正典/照明:本橋義一/編集:菊池純一/助監督:光石冨士朗/色彩計測:青木克弘/主題歌:『みなしごキッチン』作詞:稲川方人、作曲:クマガイコウキ、歌:山下麻衣/メイク:神林久美子/美術:鵜飼容子/出演:山下麻衣・桂木美雪・叶順子・田辺広太・江藤保徳・古田信行・伊藤裕作・佐和たかし・天津比呂志・原摂子・杉浦みなみ・尾形可耶子・内藤忠司・大工原正樹・神林久美子)。照明助手を初め、色々拾ひ損ねる。因みに女優部中、脱ぐのは順当に三本柱のみ。
 カトリック系の厳格な女子高、修道服を着た教師(尾形)に、涼子(桂木)が校則違反のブレスレットを没収される。そこに入れ替りで、優等生のまり(山下)が教師から借りてゐた本を返しに現れる。自分に対するのとは手の平を返したかのやうに教師がベタ褒めするまりが、涼子は攻撃的に気に喰はない。階段の踊り場に教師の立ち居地を一段高く置いた、配置の妙がさりげない。放課後、腰巾着のせつこ(原)・くみこ(杉浦)とともに、涼子はまりを尾行する。恐ろしく覚束ない材料に基いた推定でしかないが、二人の内、アラレちやんメガネがせつこで、ショート・カットの方がくみこか。涼子以下三人が、コントのやうに人の行く手を遮る公園の掃除夫(内藤)に邪魔されてゐる隙に、ヒラリと軽やかに内藤忠司をクリアしたまりは、公衆便所に消える。間もなく再び姿を見せたのは、まるで別人のやうに化粧は華やかで、服装も派手な女だつた。真夜中まで待つでなく、まりには放課後に別の顔があつた。男をハントしてはホテルに誘ひ、薬で眠らせると金品を盗むのだ。ホテルマネージャーになるといふ夢も何処吹く風、今は半ば無目的なラブホテルのフロント係・浩(田辺)は、部屋部屋に設置されたビデオカメラの映像からまりに興味を抱く。一方、せつこ・くみこ、そして運転手、兼実は掟破りでもある情夫のあきら(江藤)を引き連れ、女子高生買春グループのリーダーであつたりもする大胆な設定の涼子は、一仕事終へホテルから出て来たまりに接触する。秘密を握りすつかり優位に立つたつもりの涼子に対し、まりは不意を突く接吻一閃で黙らせる。ここでの、涼子が唇を奪はれた刹那凄い勢ひで背中越しにまりに寄るズーム・インと、カット変へて再び気持ちのいい威勢のよさで今度は涼子の背中から離れて行くズーム・アウトは、少なくとも今となつては微笑ましいばかりではあるが、志向したセンセーションを、見事に振りきつてみせた気概は素晴らしい。足を勇ませてしまふのを些かも恐れぬ、勇気は時に必要であらう。それがたとへ、野蛮なものであつたとしても。古田信行と伊藤裕作は、中島と田中。この件に登場するユニオンジャック柄の点かないライターの持ち主と、後にもう一人別に登場するまりのカモではあるが、どちらがどちらかなのか特定不能。点かないライターで燻つた心模様を表し、後(のち)に絶好の場面で唯一着火を果たす、小道具の使ひ方も手堅い。
 続けて残りの配役を一息に片付けると、叶順子は、弦楽器を嗜む浩の恋人・ひさこ。二人は贅沢にも主に浩の側から倦怠期にあり、終盤浩の部屋で一夜を明かしたまりを前に、ひさこは大人の余裕でおとなしく身を引く、都合のいい話といへばそれまでだが。天津比呂志は、ラブホテルの支配人・三浦。佐和たかしは、浩が飛び込んだことにより未遂に終る、劇中三人目となるまりの獲物。大工原正樹と神林久美子は、ほぼ背中のみフロントに見切れるだけの、ラブホテルのカップル客。
 一年余りの短い実働期間を、文字通り駆け抜けた感のある山下麻衣はオッパイは少々小さいが、美しい瞳に溢れるエモーションが兎にも角にも素晴らしい。浩と涼子らを堂々と向かうに回し、劇中世界を独り強靭に掌握する決定力は、正しく主演女優の名に相応しい。反面同時に、ロマンスの相手方たるべき田辺広太や、好敵手ポジションの筈の桂木美雪の、華のなさや心許なさは山下麻衣が突出してゐる分、却つて目につきもする。山下麻衣の魅力に頼りきりで、そもそものまりの動機等、そこかしこに描ききれてゐない部分も残る。最終的な完成度はひとまづさて措き、主演女優による主題歌を設けた辺りに形式的にも明白な、アイドル映画といふコンセプト。予算超過の因となつたであらうと憶測に難くはない、雑踏の中、見詰め合ふまりと浩の周囲を360度グルグル回るカメラ。常本琢招が狙つたところのものを、何はともあれ渾身の力で撃ち抜いた様は看て取れる。その限りに於いては百点満点の、デビュー作らしい瑞々しさと清々しさとに満ちた一作である。
 繰り返しになり、加へて話が今作からほぼ外れてしまふのは恐縮ではあるが、改題新版公開に際してエクセスの、かういふ思ひ切つた遡りぶりは深い感興を以て、強く支持したい。新東宝に関しても少々駄作率が高いのは難点ではあれ、概ね同じことがいへよう。といふ訳でここはオーピーにも、旧大蔵映画時代の大胆なルネサンスを、是非とも期待するものである。とりあへず、友松直之の「コギャル喰ひ 大阪テレクラ篇」(1997)辺りや、小林悟や関根和美の凄い旧作とか観てみたいんだけどなあ。

 浩の部屋を荒らした後のまりが、くすねた金を撒きながら戯れるやうにサビだけ口遊むカットと、奪つたあきらの車で二人逃げる件との都合二度使用される、主題歌の「みなしごキッチン」。歌詞にもメロディにも、エモーションの萌芽が確かに感じられはするものの、如何せん録音状態が厳しく宜しくない。音響が殊更に悪い小屋で観てゐる訳でもないのに、ヴォーカルもオケも、殆ど満足に聴こえない点は残念である。


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