真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態エロ性癖 恥汁責め」(2004/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督・脚本:国沢@実/撮影:岩崎智之・橋本彩子・原伸也/照明:奥村誠/助監督:海野敦・小川隆史/効果:梅沢身知子/協力:喫茶ミロン・本田唯一・城定秀夫/出演:片桐さなえ・橘瑠璃・川瀬有希子・世志男・山名和俊・野上正義・ベトコン国沢・富永伸一郎)。出演者中、ベトコン国沢と富永伸一郎は本篇クレジットのみ。
 開巻、股を開いた女の秘裂を、パンティ越しになぞる男の指。頭に“ハプニング”が付く訳でもない普通の、しかも昼間の喫茶店のボックス席にて、何憚ることなくイチャつく非常識なカップル・梓(橘)と菊池(山名)に憤慨したウェイターの翔一(世志男)は、アイスコーヒーの注文を無視してトマトジュースを持つて行く。ものの情けないダメ人間に過ぎぬ翔一は、まんまと柄の悪い菊池の返り討ちに遭ふ。頭からトマトジュースを浴びせかけられた翔一は、何故か恍惚の表情を浮かべる。トボトボと帰途に着く翔一の後を、梓と菊池に絡まれてゐた際にも助け舟を出して呉れた、同僚の愛美(片桐)が追ふ。当惑する翔一を余所に、家にまで勝手に上がり込んだ愛美は、翔一に跨る。戯れに童貞狩りに勤しむ習慣のある愛美は、翔一の未経験を見抜いてゐた。一方的に押されるままの翔一ではあつたが、机上の小型冷蔵庫からデルモンタ社製のトマトケチャップを取り出した瞬間、ホウレン草を得たポパイよろしく豹変。翔一はトマトケチャップ・トマトジュースと、それを女体に塗りたくることを偏愛する変態性癖の持ち主であつたのだ。何はともあれ、真価を発揮した翔一の勢ひに嬉々と身を任せる愛美ではあつたが、トマト愛と同時に翔一のマザコンが発覚した途端、鮮やかに翻意し翔一を拒絶する。愛美に突き飛ばされ気を失つた翔一は、デルモンタ株式会社社長・北見徳三(野上)の部下・平林(ベトコン国沢)からの電話で目を覚ます。翔一は実は、一代でデルモンタ社を築き上げた徳三の息子であつた。但し息子の不甲斐なさを嘆いた徳三からは、勘当されてゐた。平林が伝へた急な一報とは、徳三が急死したといふのだ。デルモンタ二代目社長の座に就き、俄かに富と権力とを手に入れた翔一は、愛美と、梓・菊池への逆襲に歪んだ情熱を滾らせる。
 特殊な性癖を持つ社会不適応者の手に、棚から権勢が転がり込んで来る一種の変身譚、とでもいふべき趣向なのであらうか。面目ない次第ではあるが、“あらうか”だなどと覚束ぬ物言ひになつてしまはざるを得ないのは、今作、話が中途でブツ切りされたまま終つてしまふ以前に、軸足もまるで定まらないのである。起承転結でいふと転部での夢オチはまだ許されるとしても、その後の展開が頂けない。翔一二度目の対愛美戦での、コロッと手の平を返すが如く、翔一に感化されたトマト属性は兎も角、「私が貴方のママになつてあげる」とマザコンまで許容して呉れてしまふ愛美の態度が意味不明。自慰イマジンをそのまま具現化してしまつたかのやうな怠惰なファンタジーも、それはそれとしての覚悟で撃ち抜かれた場合は、あるいは最早堂々とした開き直りでのうのうと垂れ流されてしまつた際には、時に成立し得もしよう。とはいへそれにしては、ステレオタイプな俗物ぶりが齟齬を感じさせる余地もある翔一の新社長ver.は不要で、全篇を通してのテーマは“正夢”です、だとかいふ訳でもなからうにといふ結末は蛇足ではないか。童貞男が鴨葱な淫蕩女に言ひ寄られ、一度は翻意されながら二度目は条件は何ら変化してゐないにも関らず、何故だか百パーセントの形で受け容れられる。駄目な物語は駄目な物語でも構はないが、駄目は駄目なりに徹してゐて欲しい。駄目な物語の駄目さ加減が更に中途半端では、いよいよ以て全く形になりはしない、さういふ意味で駄目に徹せられても困る。せめてもの救ひは、パツンパツンなスクール水着が狂ほしく素晴らしい、梓と菊池の濡れ場となるところであつたのだが。ここでも国沢実は、余計な色気を出してしまふ。超絶の決戦兵器たるべき橘瑠璃を、純粋に邪魔なばかりの山名和俊のMCが阻害する。よしんば面白いものが作れなくとも、百歩譲つてせめていやらしいものは作つて呉れまいか。

 黒縁メガネがエクストリームな川瀬有希子は、徳三の秘書・麗子。梓は最早諦め麗子の一点突破で、今作を切り抜けるといふ途も僅かに残されてゐないではない。富永伸一郎は、翔一と愛美が勤める喫茶「ミロン」のマスター。他に、ぶつかつた翔一に凄む男は、泣けて来るプロジェク太画質の所為でまるで自信は持てないが、城定秀夫か?


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )