真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「見られて燃えた姉夫婦」(1992『露出狂姉妹』の2008年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:高島暁/企画・製作:田中岩夫/撮影:市原芳/照明:和泉洋明/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/音楽:レインボーサウンド/撮影助手:片山浩/照明助手:光照夫/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:加賀ユリ・千秋誠・月丘雪乃・石神一・吉岡市郎・神坂広志)。照明助手の、光照夫などといふのは一体誰の変名なのか。
 女子大生の美土里(加賀)は、お盛んにも昼間から窓も開け彼氏・正人(神坂)とセックスに励んでの、大声の喘ぎ声が大家の逆鱗に触れアパートを追ひ出される。仕方なく美土里は姉・真奈美(千秋)と、義兄・敏夫(石神)の新婚家庭に転がり込む。すると家を訪れた、毎朝新聞勧誘員の土橋(吉岡)を着替へ中で半裸のまゝ美土里が出迎へると、真奈美からは窘められる。土橋は、覗きで逮捕歴もある好色漢だといふのだ。入浴中の裸身に早速注がれる土橋の視線も意識しつつ、美土里はその夜、姉と義兄の夫婦生活に興味を持ちこつそり覗いてみる。ところが敏夫は妻からの求めに応じる素振りもまるで見せず、憐れ真奈美は、夫がその場にゐながら自らの指で慰めるのであつた。勿論その様子も覗き見てゐた土橋は何て夫婦だと呆れ返り、一方美土里は義兄に、インポなのではないかといふ猜疑の目を向ける。
 主人公・美土里役の加賀ユリ、遠く時代の移り変りに埋もれた主演女優を判り易く譬へてみると、少しだけ可愛くしたライオネス飛鳥。三番手を三人揃へたかのやうな布陣に特筆すべき点は別になく、これは厳しい、これでは戦へぬと、頭を抱へ途方に暮れざるを得ない。
 翌朝、敏夫の不能疑惑を検証するべく、美土里は性懲りもなく半裸で朝の食卓に着く。見せつけるほどでもないオッパイをチラつかせ、トマトを落としたと称しては、パンティを履いただけの尻を義兄に向け突き出す、真奈美も同じテーブルで朝食を摂つてゐるといふのに。狼狽しコーヒーに砂糖と間違へ胡椒を入れてしまふ敏夫のポップ性まで含め、このシークエンスの清々しい馬鹿馬鹿しさのみが、辛うじて唯一挙げられるどうでもいゝ見所か。勿論、敏夫はちやんとクシャミまでして呉れる。敏夫の勃起を確認した美土里は、それならば職場で不倫でもしてゐるのではないかと、正人をアルバイトとして勤め先に送り込む。月丘雪乃は、そんな訳で敏夫の部下、兼不倫相手の藤子。正人の調査によると敏夫は、見られてゐないと燃えない性癖の持ち主であつたのだ。
 ここまでは、舞台もあちらこちら移るのもあり、ギリギリどうにか踏み止まれなくもない。とはいへ、こゝから姉夫婦宅に留まり、娯楽映画として定番の着地点ともいへ、予想を微塵も裏切ることのない結末に向け、多少組み合はせが変化する程度で決定力にも欠く濡れ場が延々連ねられるばかりの駄展開には、正直なところ手も足も出ない。出歯亀といふ己の立場も棚に上げ、他人の夫婦に呆れてみせる土橋を狂言回しに配した、底の抜けた桃色ホーム・ドラマといふのも一興かしらん。だなどと一瞬でも勝手に期待してみたりなんかした、当サイトは己の不明を大いに恥ぢるべきだ。我ながら筆の根も乾かぬ内にとはこのことではあるが、斯様なものを新版公開して、観客を眠りの海に沈めるほかに一体如何なる意味があらうといふのか。例によつてといふかいふまでもなくといふか、今作は2002年に少なくとも既に一度、「すけべな姉VS妹」といふ新題で旧作改題されてゐる。ことこゝに至ると、切なさすら込み上げて来る。どちらかといふと、より好色なのは妹の方ではないのか、どうでもいゝけど。

 開巻の、美土里のアパート大家と同じ声(誰のものかは不明)で、真奈美の御近所が三人の嬌声に金切り声を上げて終り。といふ構成は、幕の引き方としてはスマートである、あくまでその限りに於いては。


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