真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「牝熟女 馬乗り愛撫」(1998『いやらしい熟女 すけべ汁びしよ濡れ』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:加藤義一/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:大橋陽一郎/効果:中村半次郎/出演:島森千里、しのざき・さとみ、林由美香、久須美欽一、藤澤英樹、大橋寛征、望月薫、梅たか子、丘尚輝)。出演者中、望月薫以降はポスター記載なし。しのざきさとみが本篇クレジットに於いて、苗字と下の名前との間に何故か中点が入つてゐた、初めて観たやうな気がする。
 結婚六年、吉田弥生(島森)は夫・詠一(久須美)の味気ないセックスに失望し、欲求不満を持て余してゐた。愚痴を零しに茶道教室を開く姉・妹尾五月(しのざき)を訪ねるが、生徒・朝香俊平(藤澤)が現れたところでその日は退席する。帰宅途中財布を姉の家に置き忘れたことに気付き、取りに戻つた弥生は目を丸くする。五月と朝香が、茶の稽古は何処吹く風に睦み合つてゐたからだ。観客に息をつかせる間も与へずほどなく、後日弥生に姉から電話がかゝつて来る。どうしても外せない所用があるので、同じく茶道の嗜みのある弥生に、朝香の稽古を代つては貰へぬかといふのである。二つ返事で快諾した弥生は、勿論のこと朝香の若い肉体を頂戴する。登場人物のイントロダクションがてら、流れるやうに濡れ場濡れ場が連ねられる、単に物語が右から一昨日へと流れてゐるだけともいへるのだが。
 仕事中の詠一に、元部下の高野恵里(林)から電話が入る。結婚退職したものの離婚してしまつた恵里は、今は生活の為にカルチャーセンターで書道講座を開講してゐた。とはいへ人が集まらず困つてゐるといふので、顔の広い詠一に誰か受講生の紹介を乞ふ。それならばと詠一は、自らが立候補する。弥生は弥生で街で、高校時代交際してゐた桑原隆之(大橋)とバッタリ再会する。弥生に声をかける桑原の、まるで不審者のやうな挙動が笑かせる、素人かよ。同窓会の打ち合はせと称して、詠一との夜の営みに不満を覚える弥生は昼下がりの自宅に堂々と桑原を連れ込むや、憚らぬ情事に興じる。
 のんべんだらりとし放しの映画が、偶さか最高潮の暴発を見せるのは詠一が、恵里の書道講座を受講する件。教壇に立つかつての部下の姿に俄かに掻き立てられた詠一のイマジンの中では、恵里の全裸授業、更にはM字開脚で教壇に腰を下ろした上、自ら観音様に墨を塗りたくつてのいはゆる“マン拓”取りが繰り広げられる。清々しいまでの下らなさが心地良い、あまりにもポップな妄想展開に、寧ろ腹を立てたり呆れてみせる方が無粋なのではないかとすら思へる。何でもいいから心に浮かんだ言葉を書いてみよと促された詠一が、邪念にうつつを抜かしたまま書いてしまつたのは“恵里”の二文字。それを見た恵里が、微笑を浮かべながら添削用の朱墨で“アトデ”と書き添へるのは、林由美香の字がまるで汚いことに目を瞑れば心に染み入る名シーン。
 といふ訳で、ラブホを舞台にしての詠一と恵里の一戦。全てが女の裸に奉仕するだけに見えた漫然とした物語が、ここで思はぬ挽回を果たす。執拗な口唇性行に、何時もこんなことして貰ふ奥さんは幸せね、と恵里から水を向けられた詠一はハッと我に帰り、何処かに置き忘れて来た夫婦生活上の大切な配慮に思ひ至る。何気ない恵里の一言から改心した詠一が壊れかけた夫婦仲を修復する、といふここからラストに向けての流れは為にする力技といつてしまへばそれまでなのかも知れないが、娯楽映画の展開としてはこの上なく順当で、敢ていふが秀逸。わざわざ絡みの最中に、我に帰つた久須美欽一の表情を殊更にシッカリ押さへておく辺りにも、演出意図は明らかであらう。肝心要のシークエンスに林由美香と久須美欽一とを配した的確も光る秀作、などといつてしまつては勢ひに任せ筆を滑らせ過ぎとの謗りも免れ得ないであらうか。開巻の淡白な夫婦生活と、詠一が心を入れ替へた上での締めの入念な夫婦生活との対比も矢張り麗しく手堅い。

 出演者中、本篇クレジットにのみ名前の見られる望月薫・梅たか子・丘尚輝は、詠一を含めても四人しか居ない恵里の書道講座の受講生。丘尚輝は、恵里から詠一にかゝつて来た電話を取る、資料整理課―大絶賛閑職ではないか―の部下も兼務。望月薫と梅たか子に関しては、望月薫が女性受講生の内若くない方で、梅たか子が若い方。詠一以外の受講生は、基本的に後姿しか抜かれない。


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