真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人スチュワーデス 下着を脱がさないで」(1999『黒い下着のスチュワーデス 感じすぎる乳房』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/出演:麻生玲緒・林由美香・篠原さゆり・吉田祐健・杉本まこと・岡田謙一郎・山内健嗣・丘尚輝)。
 ニューヨークからの深夜帰国便の機中、ペガサス航空スチュワーデスの恩田智子(麻生)は、ビジネス客・及川恭太(丘)の股間に顔を埋める。どうでもいいがペガサス航空といふのは、少なくとも加藤義一第三作「スチュワーデス 腰振り逆噴射」(2002/脚本:岡輝男/主演:沢木まゆみ)にも登場するが、1989年設立の、実在する航空会社なのだが。後ろの客席に見切れる眠つてゐる乗客要員の内、年配の方は新田栄、若い方はスタッフの何れかではあらうが不明。智子は兎も角、及川以下三名はオーラスにも再登場。仕方のない安普請とはいへ、工夫に欠けるともいへる。
 帰国した智子は誇る豊富なコネクションの中から、同僚スチュワーデスの加藤聖(林)に、人気ドラマ「ショートバケーション」―短いのかよ―に主演する、聖が大ファンのトレンディ俳優・石原翔(山内)の連絡先を紹介する。早速石原のマンションを舞台とした、今作唯一の林由美香の濡れ場に際しては、戯画的に色男ぶる山内健嗣が微笑ましい。この人は二枚目二枚目といふ程には二枚目ではないのだが、二枚目ぶる男を演じさせると、それはそれで実に画になる。あれやこれの小道具を駆使し聖を蕩けさせた石原のメソッドは、実は智子が仕込んだものだつた。翌日そのことを智子から聞いた聖は目を丸くし、改めて智子に対する憧憬の念を強くする。林由美香が麻生玲緒の引き立て役に回るところを前にすると、今更ながら大人気なくも腹が少し立つ。
 夏のキャンペーンに関する打ち合はせの最中に、忘れ物を女子更衣室に取りに戻つた智子を、パイロットの速水亮一(岡田)が急襲する。ここでの、麻生玲緒V.S.岡田謙一郎戦が、傑作ならぬケッ作。挿入に合はせて離陸音を轟かせてみたり、速水は中出しした智子に自らの顔を跨いで立たせると、膣内から垂れ落ちる精液を“逆噴射”と称して歓喜、ともうやりたい放題。ピリオドの向かう側にすら突き抜けた、馬鹿馬鹿しさが解き放たれる。ただひとつ気になつた、といふか智子と速水の会話の中から腑に落ちぬのは。最も単純に考へると、日本からパリへのフライトの最中に、コックピットから朝日が見えるものなのか。基本西に向かつて飛んでゐるのでは?
 ところがここからの、起承転結でいふと転以降の展開は、実は意外とそこそこの出来。智子は在ニューヨークの恋人・犬飼信吾(杉本)から、日本に居る知人に渡して呉れと小さな箱包みを預かつてゐた。速水との会話も発端に、智子は自分が何か良からぬ運び屋に利用されてゐるのではないか、との疑惑を俄に膨らませる。指定された民家を訪れると、その家の女は姿も見せずインタフォン越しに、箱包みを玄関の郵便受けに入れ、代りに郵便受けの中に入つてゐる小封筒を持つて行けといふ。小封筒の中には、コインロッカーの鍵が入つてゐた。見るからに怪しい遣り取りに、智子はますます危疑を募らせる。翌日どうしても気になり再び届け先を訪ねてみた智子は、室内で倒錯的なプレイに興じる男女(篠原さゆりと吉田祐健)の姿を目撃する。拘束された男に女が香のやうなものを嗅がせると、男は出し抜けに喜悦した。自分が届けさせられたブツは、矢張り麻薬の類であつたのかと先走つた智子が愕然とする一方、男女は更に変態プレイの過激度を増して行つた。仕方なく智子がひとまづ小封筒から出て来た鍵でロッカーを開けてみると、そこには又別の箱包みが入れられてあつた。いよいよ頭を抱へる智子の携帯に、不意に犬飼からの連絡が入る。急に帰国して今日本に居るので、これから会はないかといふのである。果たして、智子の運命や如何に?
 最終的に仔細は要は智子の勘違ひで、物語は調子のいいハッピー・エンドに着地することは、新田栄常日頃の作風からも既に概ね明らかではあらう。その上で、その勘違ひとハッピー・エンドとの道具立てが、突出したものは無いながらに案外よく出来てゐる。少々無理も小さくはないところで、怪夫婦を演ずる篠原さゆりと吉田祐健の存在感、乃至は説得力が大きく有効に機能する。その他にも杉本まことに岡田謙一郎と、ミス・リーディングの外堀を芸達者が埋めてゐることに加へ、いよいよ真相が明らかになる段。サスペンスフル演出の後始末として、シャワーを止めにフレーム外に出る犬飼を一々押さへておくといつた、平素の仕事ぶりからすればらしからぬ、普段は隠されがちな新田栄の実直が発揮されてゐることも、勝因に数へられようか。所々で羽目を外してみたりいい加減に呆けてみたりしつつも、通して観てみると起承転結の手堅く纏まつた、水準作の中でも幾分高目の佳品である。

 m@stervision大哥がリアルタイムで既にお嘆きのやうに、主演の麻生玲緒は、実に和製ディバインの香りを濃厚に漂はせる。旧版ポスターのことは勿論今や与り知らぬが、新版公開に際して、選りにも選つてあからさまにディバインに見える写真をポスターに持つて来たエクセスの姿勢に対しては、寧ろ確信的なものすら感じられる。といふのは、オタクの考へ過ぎであらうか。


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