真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「カマキリ女秘書」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:柳田友春/照明:内田清/編集:金子編集室/助監督:細山智明/音楽:OK企画/効果:協立音響/録音:ニューメグロスタジオ/演出助手:石崎雅幸/撮影助手:古谷巧・柏原正夫/照明助手:出雲静二/現像:東映化学/出演:三条まゆみ・杉佳代子・南條碧・久須美欽一・末次真三郎・椙山拳一郎・姿良三)。クレジットには大蔵映画株式会社配給とあるものの、オーピー映画提供としたのは白黒オーピー開巻に従つた。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川和久の変名。
 煙草を持つた左手を、口元に運んだ三条まゆみが煙を吹いてタイトル・イン。暫しマッタリ紫煙を燻らすタイトルバックは、まあまあ違ふ、何と。風呂の途中で白川玲子(杉)が電話に出ると、婿養子の貴司(久須美)は遅くなる旨一方的に言明、満足に返事も聞かずに切る。そんな貴司の傍らには、秘書兼愛人の水上光子(三条)が。三人の関係を整理すると元々は社長秘書であつた貴司が、令嬢である玲子に婿入り、東西商事社長の座に納まる。玲子の父親は既に故人、その死去と、貴司の社長就任の前後は不明。ところが貴司は病弱な玲子に不満を覚え、会話の隙間を窺ふに結婚前から続いてゐると思しき、肉感的な光子に溺れるとかいふ寸法。横着?してないしてない、してるけど。
 配役残り末次真三郎は、社長との仲を知りながら、積極的に光子を口説く今村圭志、矢張り所属は不明。南條碧は今村の彼女で東西銀行、ではなく大東銀行員の沢井マリ。杉佳代子の配偶者である椙山拳一郎は、貴司が妊娠四ヶ月の玲子を往診させる、光子に二度堕胎手術を施した産婦人科医・三田、固有名詞用意されてたんだ。こゝは明確に異なる姿良三は、玲子の自殺をまんまと真に受ける新宿警察署の刑事。もう一人刑事が背中だけ見切れるのは判る訳ないが、今村が光子と使ふ店「パピヨン」のバーテンダーは、石崎雅幸ではないゆゑもしかすると細山智明なのかも。
 あはよくばお気づき頂けたであらうか、ソクミルに見つけた和久名義の今上御大昭和59年第五作は、七年後の1991年第六作「牝獣」(脚本:池袋高介/主演:小川真実)に於いて限りなく完コピする焼き直しの親作である。牝獣に際して、池袋高介をクレジットするところのこゝろは皆目見当がつかないのと、もしも仮に万が一、更に遡る祖父作があつたとしてもそんなのもう知らん。
 初戦の光子と貴司の濡れ場を今作は完遂しない、最初に末次真三郎がパピヨンないし摩天楼でなく、東西商事社内に飛び込んで来る。といつた、先に触れた姿良三のポジション含めそこかしこ差異もなくはない―白川家物件も津田スタではない―にせよ、台詞の一言一句からカマキリ女秘書なり牝獣が概ねテイクス・オールする無体なラストまで、結構全くそのまんま。加へて、あるいは兎にも角にも。最も特筆すべきは欽也名義の1992年第六作かつ謎の最初で最後のエクセス作「ザ・変態ONANIE」(製作:新映企画株式会社/脚本:池袋高介/主演:藤崎あやか)と、1997年第一作「本気ONANIE ‐ひわいな中指‐」(脚本:後藤丈夫/主演:泉由紀子)の栗原一良。1996年第七作「人妻・愛人 連続暴行現場」(脚本:水谷一二三/主演:中島かづき)と、伊豆映画プロトゼロ「人妻・愛人 けいれん恥辱」(脚本:水谷一二三/主演:梅澤かほり)の杉本まこと=なかみつせいじに先行して、久須美欽一が二作で同じキャストに座る偉業を成し遂げてゐる。偉いのか如何なものなのかはこの際さて措き、まだ終らないんだな、話が。更に久須美欽一は平川直大を伴ひ、2000年第三作「いんらん民宿 激しすぎる夜」(脚本:清水いさお/主演:野村しおり)と、「湯けむりおつぱい注意報」(2017/脚本:水谷一二三/主演:篠田ゆう)で再び二作同じキャストに座つてゐる。掘れば掘るだけ出て来る、これで全部では、決してないにさうゐない。
 恐らく髪型がおかしい杉佳代子が妙に精彩を欠いて映る点まで込みで、俳優部の面子的には概ね五分。さうなると所詮トレースしてゐる以上、二作の優劣を論じる議論に霞ほどの重みもない。ただ一点牝獣では市村譲ばりに暗かつた玲子を殺害する件が、今回は通常の見せたいものはキチンと見える薄暗さで、現場に貴司と光子が各々ハンドルを握り二台の車で向かふ不可解も、貴司が運転してゐたのは、玲子の車である旨今回は十全に語られる。その癖、光子の車が夜の闇に消えるラスト・カットが、不用意に暗い辺りは逆の意味で隙がない。

 津田スタに話を戻すと、津田一郎は自著『ザ・ロケーション』(晩声社)で儲けた金で建てたさうで、原作とした森崎東の映画版が公開されたのが同年につき、あるいは撮影当時、未だ存在しなかつたのではなからうか。


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