真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「牝獣」(1991/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:大道行男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/撮影助手:外園邦雄/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・水鳥川彩・織本かおり・太田和幸・吉岡市郎・熊谷一佳・鳥羽英子・久須美欽一)。
 美術モデルが如く、性的といふよりも静的なポージングを取る小川真実の裸にタイトル開巻。左右前後に画角を変へた末、最後はボインのアップに小川和久(現:欽也)の名前が入る、タイトルバックが案外完璧。風呂の途中で白川玲子(水鳥川)が電話に出ると、婿養子の貴司(久須美)は遅くなる旨一方的に言明、満足に返事も聞かずに切る。そんな貴司の傍らには、秘書兼愛人の水上光子(小川)が。小川真実と久須美欽一といふと全く以て磐石なペアリングながら、甚だ残念なことに、アフレコ当日ニューメグロに向かへないか声が出せない何某かの事情でも発生したのか、口跡が激しくチャーミングな訳ではないにも関らず、小川真実がアテレコ、主演女優なのに。没個性的であるのと時期的な障壁とに阻まれ、主には辿り着けず。閑話休題、関係を整理すると元々は社長秘書であつた貴司が、令嬢である玲子に婿入り、東西商事社長の座に納まる。玲子の父親は既に故人、その死去と、貴司の社長就任の前後は不明。ところが貴司は病弱な玲子に不満を覚え、会話の隙間を窺ふに結婚前から続いてゐると思しき、肉感的な光子に溺れるとかいふ寸法。オドレは水鳥川彩の何処に文句があるのかといふ最大にして決して超えられない、現に超え損ね初端から展開以前の設定に説得力を有し得ない躓き処に隠れ、地味に奇異も否めないのが社長の邸宅にしては、白川家が御存知御馴染津田スタ。
 配役残り太田和幸は、最早判で捺したかのやうな摩天楼で光子を口説く、矢張り東西商事社員の今村、部署とか知らん。織本かおる(a.k.a.川上雅代)とは似て非なる織本かおりは、今村の彼女で東西銀行員、親会社かよ。もう少し、劇中組織の名称に頓着したらどうなのかといふだけの話である。吉岡市郎は妊娠した玲子を往診する、光子の息のかゝつた医師。既に夫婦仲の完全に壊れた貴司が連れて来た人間に、玲子がしかも身重の体をおいそれと診せるとも思へず、そもそも―吉岡市郎が―絡みひとつ与るでもない点を踏まへればなほさら、木に接いだ竹際立つ役ではある。問題が熊谷一佳と、美子でなく英子といふ辺りから怪しい鳥羽英子。それらしからうとなからうとほかに登場人物は存在せず、背景に見切れなくもない程度の、摩天楼要員しか見当たらないのだが。
 面白いか詰まらないのかと問ふならば、答へは酷い小川和久1991年第六作。実も蓋もない、あるいは、一言で終つてしまつてゐる。牝獣改め要は毒婦が、好き勝手に姦計を巡らせ一人の男―と女ももう一人―を破滅させ胎児ごと母親の命を奪つた上で、大金せしめてランナウェイ。光子―と一億―は失ひつつも、貴司に関しては白川の全てを手に入れた分寧ろそこそこ以上の勝利にせよ、なほさら一欠片の救ひも報ひも、一湿りの潤ひさへ絶無。斯くもへべれけなピカレスクには、本義たる女の裸は決して忘れてはゐない、最低限の職業倫理以外の縁(よすが)は俄かにも何も千年熟考したとて、見つけ難いにさうゐない。映画本体からはこの際目を背けて、もとい逸らすとして、側面的ないしは表面的な特徴が、馬鹿に暗い画面。最初の―声の変な―オガマミと久須りんの濡れ場から既に不用意に暗く、毎度毎度の摩天楼も、あの毎度毎度の摩天楼が摩天楼なのか否か二三歩逡巡するほど暗い。極めつけが、自殺に偽装して眠剤で眠らせた玲子を、何処ぞ山ん中の湖に放り込む件。まあ暗い、ホンットに暗い。部屋を消灯、且つ全画面表示にしてみても全く見えない。運転者が乗り込んだ車が、動きだしたのかどうかも判らないまでに途轍もなく暗い。銀幕を無作為に塗り潰した漆黒の魔導士・市村譲に劣るとも勝らない藪蛇な闇は、全体今上御大はこの時、何がしたかつたのか途方に暮れさせられるくらゐ暗い。


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