真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「暴走レイプ魔」(昭和61/製作:N・T・P/配給:大蔵映画/監督:西川卓/脚本:北町一平/音楽:ド・ビンボ/編集:鈴木健一/照明:桜井正行/編集:酒井正次/助監督:佐藤俊㐂・勝山茂雄/撮影助手:福島佳紀/照明助手:上野雄一/現像:東映化工/録音:銀座サウンド/スチール:石塚和保/車輌:西川憲/出演:野口優子・炎上寺由羅・井上真愉見・水野さおり・酒入正三・矢田栄一郎・勝田雄・久須美欽一)。撮影の筈の鈴木健一が、酒井正次のみならず編集になつてゐるのは本篇クレジットまゝ。クレから豪快なのかよ、徹底するにもほどがある。チーフ助監督の佐藤俊㐂は、㐂の字が略字の佐藤俊喜、即ちサトウトシキ。
 パイオニアのカーステから、謎のバンド(日)の案外カッコいい曲が鳴る。謎バンドでは流石にあんまりなのでもう少し説明を加へると、総体としては古典的なハードロックで、ヴォーカルはダグ・フィーガー似。閑話休題クレジットが先行、フロントガラスに、ハンドルを避ける形で斜めに入る斬新なタイトル・イン、公開題そのものは随分なんだが。男女二尻の単車が、セダンを抜く。セダンを運転するのは久須美欽一で、助手席に酒入正三。何処かで見たやうな名前の酒入正三が、要はa.k.a.坂入正三。nfajとjmdbを照合してみると、今作に先行する坂入正三名義での出演作も存在する―小林悟同年第六作「露天風呂 探りさぐられ」―点から、必ずしも単純にex.酒入正三で坂入正三となる訳ではないのかも知れないが、何れにしても最初期の活動にさうゐない。尤も久須りんにせよサカショーにせよ実に三十五年前の時点で既に顔が出来上がつてゐるため、そんな二人が久須りんはバンダナにグラサンを合はせてタンクトップ。サカショーに至つてはヘアバンドで銀ラメのアイシャドウを入れ、素肌にデニムベスト。挙句首には、“超獣”ブルーザ・ブロディがブン回す太さの鎖。昭和末期の素頓狂さを歴史的補正で差し引いてなほ、存分にカッ飛んだ扮装でヒャッハーしてゐる―清々しく似合はない―風情には最早微笑ましさしかない。女に目をつけた二人は画に描いたやうな煽り運転で単車を停めると、男(多分矢田栄一郎)はシメて水野さおりを拉致る。
 物語といふほどの物語もない一作につき配役残り、井上真愉見は駐車場で地図を見る、一人でツーリング中のマユミ、単車乗るんだ。交錯した久須りんのセダンが、脊髄で折り返すUターンで追走。幅寄せして停めさせるロングを、省力化に傾注するピンクは下手にカットなんて割らないゆゑ、普通に久須美欽一と井上真愉見にそのまゝ運転させてゐるのに軽くビビる。炎上寺由羅は暴走レイプ魔の三人目の被害者となる女で、二人目の女ライダー・ナオミ。消去法で恐らく勝田雄が、ナオミの彼氏でこの人も単車乗りのトシヤ。意外にも、二人がOLとホワイトカラーの職場カップル。そしてナオミが放置された場に通りがかり、観音様をコーラで洗つてあげる―神の水を勿体ない、飲めよ―野口優子が、三人目の女ライダー・マキ、ゼロ番目の被害者。ナオミとミーツした経緯は当然判るが何時の間にかマユミとも面識があり、三人で“ピンクレディースツーリングクラブ”を結成する。河島英五の次の次の次くらゐにダセえ、河島英五はダサさの基準なのか。
 ソクミルに西川卓が転がつてゐるのを見つけて、早速飛びついた昭和61年第四作。残念ながら、五十音順に市村譲や矢竹正知の、ex.DMMを出し抜く未見作は見当たらない模様。いや、正気は保つてゐる、つもりではあるのだけれど。
 琴線に触れる女を発見するや、追ひ駆け捕まへて犯す。無機質なドライブと上手く馴染む乾いた画調と、全篇を通して数曲使用される、そこそこサマになる謎バンド劇伴とに上手いこと加速され、寧ろストーリーなりテーマを不用意に構築しようとはしなかつたのが怪我の功名的に作用してか、久須りん×サカショーの対水野さおりからナオミまで、動物的な展開の蒸し返しもとい繰り返しが、西川卓的には思ひのほかつゝがなく見させる。反面、ナオミがマキと出会つて以降暫し一切のエンジンが止まつてゐる間、途端にマッタリしてしまふのは御愛嬌。更に壮絶なのが、車の中でサカショーに犯され、ハコ乗り的な要領で窓から車外に仰け反つたナオミに、久須りんがいはゆる二穴責めで咥へさせようとしたのが、よもやまさかサカショーの口に捻じ込む出鱈目な誤爆。の、しかもオチを全く回収しない破滅的なぞんざいさには、幾ら敵が西川卓とはいへ度肝を抜かれた。同じやつゝけはやつゝけでも、並のやつゝけでは斯くも心のこもつてゐないシークエンスはさうさう撮れまい。良くなくも悪くも、一昨日なベクトルの絶対値が図抜けてゐる。抜けてゐるのは、あるいは底か。ともあれ、女と男と車に、拳銃をも用意したといふのにまるで映画を成立させられなかつた大西裕と比べれば、単車と四つ輪と女の裸で、サクッと見られる量産型裸映画をひとまづ仕上げてみせた、西川卓の方が千兆倍マシ。比較の対象が低すぎる、地を穿つて対蹠点まで貫くぞ。登場順がビリングを綺麗に逆流する女優部が、水野さおりと井上真愉見はほぼ五分―オッパイ勝負なら水野さおりの爆勝―としても、実は一直線に先細つてゐるやうに映らなくもない、倒錯した用兵に関してはこの期に及んで気にするな。


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