真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪服令嬢 いたぶり淫夢」(2012/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:石田遼/照明:ガッツ/助監督:北川帯寛・江尻大/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネ・キャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/出演:万里杏樹・浅井色織・佐々木基子・牧村耕次・なかみつせいじ・荒木太郎・竹本泰志)。出演者中、荒木太郎は本篇クレジットのみ。
 竹本泰志のモノローグで開巻、恩師の未亡人である万里杏樹と、竹本泰志の絡みを軽く見せてタイトル・イン。改めて本戦、は、作家である波多伸輔(竹本)が執筆中の小説内での出来事。遺影の前で事に及ぶ、シークエンスの在り来りさに首を捻つた波多は、遺骨を用ゐた骨壷プレイを考案する。亡夫のお骨で寡婦の観音様を弄くるだなどと、大概にもほどがある筈なのに、旦々舎がするとなると何故か驚かされるでなくすんなり呑み込めてしまふのは何故なのか。とそこに、波多のファンである坪井雅美(佐々木)からの電話が。招かれた波多が据膳を喰つてゐるところに、折悪しく帰宅した雅美の夫・義男(牧村)は、後述するがひたすらにオッソロシく立ち尽くす。不倫の甘美も、発覚すれば面倒臭い粗相。頭を抱へる波多が北川帯寛がカウンターの中に入るバーで飲んでゐると、そこに万里杏樹が現れる、画面奥のカップル客は識別不能。驚く波多にしかも万里杏樹は、鳥子と作中と同じ名前を名乗つた。つらつら波多と鳥子の一戦は夢でオトす翌早朝、坪井―義男―からの黒尽くめの使者(なかみつせいじと荒木太郎)が非常識甚だしい時間に波多を訪問。挙句に有無をいはせず、波多は明後日に坪井と会ふ羽目に。いよいよ厄介なことになり再び北川帯寛のバーで酒を呷る波多は、元カノ・榊裕子(浅井)と再会する。
 浜野佐知2012年最終僅か第二作は、元々の脚本からさうなつてゐたのか余程女優部新顔に手を焼いたか、随分と毛色の変つた一作。主体的に性と自由を希求する女達が男供をケチョンケチョンに蹴散らす、平素の浜野節は本当に一欠片たりとて窺へず、代つて夢とも現とも知れぬ迷宮に翻弄される色男の小説家が辿る不可思議な運命を綴つた、ある意味シンプルな幻想譚に仕上がつてゐる。クライマックスの舞台が男―だけ―四人が集つた河川敷だなどといふのは、薔薇族でなければ浜野佐知にしては画期的に珍しいことなのでは。問題の女優部を大雑把に掻い摘むと、威勢のいい詰め込みぶりと微妙に掠るルックスとが矢藤あきを何となく想起させる主演女優は、ミステリアスな造形に無理矢理押し込まうとした気配も透けて見えぬではないものの、一枚きりの表情と、濡れ場に突入しても満足に動けぬ綺麗な大根ぶりはオーピーなのに如何せんエクセスライク、初めからの負け戦臭は否めない。他方、各パーツが顔面中央部に密集する二番手は、ビリングの頭が頭だけに劇中を生きてゐる人間としてそれなりの存在感を実質以上に発揮する相対的効果が働くとはいへ、残念ながら万里杏樹に劣るとも勝らず締りのない体型は現代ピンクに於いては通り難い。三本の矢が二本折れたとて、佐々木基子が居るではないかといふならば、義男の導火線に過ぎない元々の三番手ポジションから映画全体を背負はせるに至る、根本的な変更を加へるのは七十二時間の現場では土台無理だらう。斯くも出来の悪いこの世界でさへ、造物主は一週間を費やしたのだ。対して、平川直大は不在の男優部。一時期懸念された体重増加は回避したかに見える反面、今度は二の腕が妙に細くなつた竹本泰志は、一手に任された展開の進行に忙殺された印象が強い。案外然程でもない出番の割に、極大の鮮烈を叩き込むのが牧村耕次。的確に過剰な照明の中、大昔の怪奇映画ばりの壮絶な表情を撃ち抜くのが今作の最高潮。裸映画のピークがオッサンの面かよ、などと呆れる勿れ。2012年にこの画が撮れるといふのは、何気に映画的事件であると思ふ。没論理を巧みに操るなかみつせいじと、黙して雄弁に援護する荒木太郎、正体不明の威圧感を誇る黒服二人組も実にイイ感じ。なかみつせいじと本多菊次朗辺りで、ピンク版「ブルースブラザーズ」とか如何か。河川敷の修羅場が格好のロケーションと折角の面子なのだから、ショットとしてもう少し突き抜けて欲しいのと、下手に序盤を回収した結果、締めは些かキレを欠く。見所がなさそであるよで矢張りさうでもないやうで、モヤモヤした感触は、作中世界の追体験である。とまでの牽強付会は流石に振り回さないし、多分実際にそこまで設計されてもゐまい。


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