真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「三十過ぎの人妻 午後の不倫タイム」(1997『トイレの不倫 人妻援助交際』の2009年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:坂本太/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和・佐藤文男/照明:藤塚正行/助監督:羽生研司・山崎徳幸/製作担当:真弓学/撮影助手:鏡早智/照明助手:増田靖志/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/効果:東京スクリーンサービス/ヘアメイク:大塚春江/出演:中条理佐・葉月螢・杉本まこと・山本清彦・久須美欽一・吉行由実)。
 何と五万円の超高額有料トイレ、足を踏み入れた男を、下着姿の女(多分山本清彦と葉月螢)が個室の中で待ち受ける。クレジットが先に走り、個室から飛び出す立つたまま尺八を吹く女の尻に被さるタイトル・イン。そこそこのマンションの801号室、表札には白木幸治・瞳夫妻と、これ見よがしにより大きな姫野百合子の名前。通つてゐた大学の助教授と結婚して一年、瞳(中条)と幸治(杉本)の夫婦生活。明朝が早いことと、敷金礼金は出して貰つた瞳の姉で今でいふ婚活中の居候・百合子(吉行)の存在を気にかける、幸治の腰は別の意味で重い。ところで百合子はといふと、早速妹夫婦寝室の外で一人遊びに燃える大サービスぶり。ポップに諍ふ姉妹の狭間で幸治が悲鳴を上げる白木家の朝挿んで、改めて五万円トイレ。外観はスライド戸の身障者用トイレなのだが、内部は御馴染み当時東映化学(現:ラボ・テック)のピンク・タイルの男子便所に、シーツを敷き机と椅子を並べた異様な空間、サロンに無理矢理仕立て上げた感が清々しい。会社御曹司の田辺寛(山本)と、主婦の菅原涼子(葉月)が事に及ぶ。再び白木家、百合子からは早くも女として枯れかけたことを指摘された瞳に、実は大学の先輩である涼子からランチのお誘ひが入る。瞳の目下諸々の問題を看破した涼子は、五万円トイレを舞台とした人妻援助交際に勧誘する。
 そんなこんなで底の抜けた世界に根を張るアメイジングな安定感、久須美欽一が瞳初戦のお相手・上野達郎。建設会社社長で、五万円トイレの施工主にも当たる劇中地味に重要な御仁。
 坂本太1997年第一作は、ハッピーでライトなテイストがお気楽に心地良い、案外完璧な裸映画。夫婦生活と同居する姉―とそれに付随して金銭的な問題―と随分早めな倦怠感に悩む新妻が、援助交際と称した要は主婦売春の世界に招き入れられる。俄に輝きを取り戻すヒロインに、旦那と姉は目を丸くする。返す刀で非大絶賛行き遅れ気味の百合子も救済、まさかの逆転玉の輿に瞳が頭を抱へたところで、ワン・カットの的確な伏線が着弾するありがちなオチのタイミングが実に素晴らしい。物語を抜群のスムーズさと、してやつたりの涼子まで含め三本柱の誰しもが幸せになる超絶のバランス感覚とで片付けると、後は中途半端な余韻に色気を出すこともなければ冷静に検討する余計な暇を与へることもなく、濡れ場と濡れ場と濡れ場。三花繚乱の濡れ場・ジェット・ストリーム・アタックで振り逃げるフィニッシュは完全無欠。幸治の狸寝入りともう一つ、瞳が上野と初陣を飾つた夜に関して忘れてならないのは、パック顔で手洗ひにてバイブ・オナニーに狂ふ、相変らず見合はポシャッた姉に妹が温かい言葉をかける件。他愛ない一幕に過ぎないやうな気もしつつ、何故だか普通にグッと来た。お腹一杯に女の裸を見せた上で、あれ、気が付くと磐石の大団円?とまで称するのは少々大袈裟にせよ、量産型娯楽映画のひとつの到達点たるスマートな一作。強いエモーションなり深いテーマもあるに越したことはないのかも知れないが、個人的な志向ないしは嗜好としては、ピンク映画の完成形はこの辺りに設定したい。それと断固として断言しておきたいのは、適度にムッチムチなプロポーションと、絶妙にそこら辺に居さうなルックスが琴線に触れる主演女優も決して悪くないが、巻き巻きのヘアスタイルとシャープな眼鏡、そしてそれ以前にコンディション自体の絶好調を窺はせる、吉行由実がトリに座るに相応しい今作のポイント・ゲッター、久々の勢ひで堪らんかつた。

 ところで、瞳が在学中ないしは卒業直後に幸治と結婚した、とは必ずしも明言されないともいへ、それにしても中条理佐は二十代前半にしか見えない件。エクセスの仕出かすことといへばそれまでだが、上向きにサバを読んでどうする。


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