真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女将と仲居 あたゝかい股間」(2001『未亡人旅館3 女将の濡れたしげみ』の2013年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:葉月螢・里見瑤子・佐々木麻由子・岡田智宏・なかみつせいじ・入江浩治・池島ゆたか)。
 毎度御馴染み「水上荘」であるものの、温泉旅館の劇中では「東雲亭」。一年前に死去した夫の遺影(かわさきひろゆきの宣材写真)に、未亡人女将の大島つむぎ(葉月)が不景気にも屈さぬ決意を報告する。そこに、庭から番頭の山崎靡彦(ヤマザキナビスコをもぢつたものか/岡田智宏)が来客を告げるタイミングでタイトル・イン。といふことは、後述する先行二作の、女中の自己紹介で幕を開けるフォーマットには従はなかつた格好。
 とりたてて一時間を貫く起承転結があるといふよりは、ほぼ均等な尺の配分で銘々が東雲亭を訪れる。いはば三本のショート・ショート・ドラマを連結したが如き構成の一作につき、順々に配役を整理すると金ならぬ黄縁のグラサンと鼻髭がコントななかみつせいじは、客不足に悩むつむぎが頼る、旅行代理店社長・帆苅末人。里見瑤子は、靡彦が先般閉めた小田原屋の主人(一切登場せず)と以前に東京で遊んだランパブ嬢・久方ひかる。ランパブが潰れたため、支配人を騙つた靡彦を頼り東雲亭に現れる。肩に引つかけたカーディガンの袖を首に巻いた、ステレオタイプなスタイルの入江浩治は、高島ダ礼子が主演する温泉ドラマのロケハン中とやらの、自称STH(これは間違ひなく新東宝の略か)テレビジョンのディレクター・萩原千尋。ひかるが軽やかに振り抜くランパブ仕込みの乱痴気宴席の、恩恵に最初に与る。池島ゆたかは十年ぶりの東雲亭に道に迷ひつつ到達する、旦那衆・青丹吉造。そして佐々木麻由子が、青丹がランパブ上がりの仲居と羽目を外す情報を何処からか聞きつけ、オッカナイ剣幕で東雲亭に乗り込んで来る青丹の二号・角川文子。
 歳末ギリギリ公開の深町章2001年最終第六作は、同趣向の作品が他にも石を投げれば当たるほどあるともいへ、二年前の第一作「未亡人旅館 したがる若女将」(1999/脚本:福俵満/主演:しのざきさとみ)、同年第一作となる第二作「未亡人旅館2 女将は寝上手」(2001/脚本:福俵満/主演:しのざきさとみ)に連なる、正式にナンバリングされた深町未亡人旅館の最終第三作。ここでわざわざ“深町”未亡人旅館と特記したのは、実は「したがる若女将」より更に二年遡る、「未亡人旅館 ~肉欲女体盛り~」(1997/脚本:北村淳=新田栄/主演:松島エミ=鈴木エリカ=麻倉エミリ)なる新田栄版が存在するからである。量産型娯楽映画の、世界は案外深い。傾きかけた温泉旅館が、気立てのよさと股の緩さが比例するストレンジャーの登場で活気を取り戻す。脚本が同じ岡輝男によるものであるのもあり、似たやうなお話は新田栄も数打つてゐるとはいへ、へべれけながらも穏やかな幸福感溢れる温泉映画に仕上げ―て来ることも稀にあ―る新田栄に対し、深町章は極めてオーソドックスなコメディに仕立てて来る辺りが、両者の対比が判り易く興味深い。事実上のポイント・ゲッターは里見瑤子で、葉月螢は本濡れ場の相手を帆苅に求めるほかなく、締めの絡みを三番手に委ねざるを得ない構成は厳密にいへば教科書的には難アリなのだが、そこは佐々木麻由子の貫禄で、黙つて観てゐる分には全く気にならない。
 明けての正月映画らしく、ひかるの過剰サービスに賑はふ東雲亭を再度訪れた帆苅と、つむぎが観客席の方を向き畏まり「お目出度う御座います」、と頭を垂れ賑々しく一篇を締め括る。

 ところで、巨大なミステリーの種がひとつ。青丹を巡るひかると元神楽坂芸者のプライドも燃やす文子の修羅場に、廊下を通りがかつたその他宿泊客要員の五十音順に岡輝男+佐藤吏+広瀬寛巳+福俵満が目を丸くする。ところまでは兎も角として、もう二人加へて女の争ひは騎馬戦に突入。問題が、終始顔を隠し気味に見え雌雄が決するや直ぐに一人だけ画面右に―因みに廊下ならば左―捌けるひかるの左脚担当が、頭頂部の具合からどうも新田栄に見えたのだが・・・・!?

 平成も通り過ぎて辿り着いた付記< 新田栄と見紛つたのは、案外背格好の似てゐなくもない津田一郎


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