真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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奴隷市
あ行
/
2013年09月09日
「
奴隷市
」(2012/製作:オールインエンタテインメント・新東宝映画/配給:新東宝映画/監督:愛染恭子/脚本:福原彰・破野生治/原作:団鬼六『旅路の果て ~倒錯一代女』《小説新潮掲載》/製作:木山雅仁・後藤功一/企画:西健二郎・衣川仲人/プロデューサー:森角威之/ラインプロデューサー:泉知良/撮影:田宮健彦/音楽:與語一平/照明:坂元啓二/録音:古橋和浩/緊縛指導:椿珠陽/緊縛画:堂昌一《春日章》/ヘアメイク:板垣美和/着付け:宮川幸代/ロケーションコーディネーター:田中尚仁/助監督:佐高美智代/編集:石倉慎二/音響効果・整音:高島良太/スチール:中居挙子/アートディレクター:前田朗/撮影助手:原伸也/演出応援:内田直之/制作応援:貝原クリス亮/メイク助手:松本智菜美/メイキング:阿部卓也/撮影協力:ファン/ロケ協力:民宿やまと/協力:アークエンタテインメント・渡辺光/制作協力:ワールド工房/制作:Sunset Village/出演:麻美ゆま・新納敏正・川瀬陽太・ほたる・高橋みほ)。もう少しクレジットの情報量に屈する。
愛染恭子の名入りで、前年に没したSM小説の大家・団鬼六に捧げる旨を謳つて開巻。SM雑誌『妖奇クラブ』発行人・鬼頭源一(新納)が主催する、「妖奇サロン」特別会員限定イベントの模様。奴隷女を、男達(若干名、全員不明)が月々支払ふ金額で競るその名も正しく奴隷市。高橋みほが、ここで競られるロリムチ奴隷。月五十万で山下に競り落とされた高橋みほの体に落札者以外が手を伸ばすのを、下手な男勝りにガタイのいい女緊縛士(椿珠陽)が鞭で蹴散らすのが何となくユーモラス。『妖奇クラブ』に責め絵を投稿した縁で鬼頭と知り合つた、奴隷市に会場を提供する温泉旅館の支配人でもある伊藤(川瀬)が、オークションには参加せずスケッチの筆を走らせる。鬼頭に市への参加を促された伊藤がノーマルを嘯(うそぶ)いた流れで、責め絵に乗せてタイトル・イン。
タイトル明け漸く主演女優登場、伊藤と妻・敏江(麻美)のオーソドックスな夜の営みと、仲居頭の靖子(ほたる/ex.葉月螢)も交へた旅館の風景噛ませて、宿を立ち去り際鬼頭は敏江に、敏江が女子大生時代、大学教授の生島五郎か吾郎か悟郎とか(話に上るだけで一切登場せず)に調教されかけた過去を突きつける。そのことに心を騒がされた敏江は翌日、靖子に席を外すとだけ言ひ残し名刺を渡された鬼頭の事務所を訪ねる。特段抵抗するでも葛藤するでもなく鬼頭に責められるがまま、連絡も入れずに敏江は家を空ける。
「
新釈 四畳半襖の下張り
」(2010)と「
阿部定 ~最後の七日間~
」(2011/共に脚本は福原彰=福俵満)に続く、監督:愛染恭子×主演:麻美ゆまのタッグによる第三戦。兎にも角にも顕著な特徴は、余程バジェットを絞られたのか、明らかに少ない俳優部の頭数からも何となく予想される、展開の手数の稀薄さ。反面、麻美ゆまの超絶美身を責めるシークエンスは質量とも充実し、三日間の無断外泊の末に敏江が伊藤に電話で別れを告げる件に際しては、電話を切つた直後に敏江が浮かべる複雑な笑みに、口跡は相変らず御愛嬌にせよ、女優・麻美ゆまの輝きなり開眼を、「
セイレーンX
」のことまで思ひ出すと四度目の正直で初めて感じた。一旦敏江を手に入れたかに見えた鬼頭に対し、敏江が次の奴隷市に自身を出品することを自ら願ふに至つて、映画は本格的に走り始め、たかに思へたのだが。男達の思惑を超え、被虐の悦楽に完全に開花したヒロインが、被支配の状況に置かれることを通して逆説的に劇中世界を支配する。責められる女の側に軸を据ゑたサドマゾもののひとつの定番に、折角綺麗に乗りかけたものを。敏江が家を空ける間、積極的あるいは能動的には何をする出来るでもなく、鬼頭には偽り、現に敏江との夫婦生活はノーマルな癖に、何時の間にか調教済みの靖子を誇示する伊藤を、鬼頭が賞賛する辺りで雲行きはみるみる怪しくなる。個人的な思ひ込みに過ぎないが、そこは本丸たる敏江には手も足も出せずに、使用人で茶を濁す伊藤の児戯性を木端微塵に粉砕してみせるのが、凄腕のサディストであるならば鬼頭の役割ではなかつたらうか。結局わざわざ奴隷市を通して敏江と伊藤がヨリを戻す、矢鱈と面倒臭い以前に辛気臭い夫婦物語に着地するのは、「新釈襖の下張り」を改めて想起すれば案外顕著な、
塾長
の志向ないしは作家性なのかも知れない。何れにせよ、裸映画としては素晴らしく充実してゐるだけに、詰めを誤つた感に激しく水を差される一作ではある。
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