真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「秘密クラブ 人妻専科」(2000『買ふ妻 奥さま《秘》倶楽部』の2009年旧作改題版/製作:O・H・C、国映、新東宝映画/製作協力:《有》幻想配給社/配給:新東宝映画/監督:新里猛作/脚本:高木裕治/企画:朝倉大介/プロデューサー:松家雄二・森田三人・福俵満・友松直之/撮影監督:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:斉藤一男・飛田真也/撮影助手:岡宮裕・岡部雄二/スチール:山本千里/制作応援:大西裕・中村和樹/現像:東映化学/録音:シネキャビン/協力:《株》アクトレスワールド・《有》ファン・寺西正己・愛染恭子・石川二郎・田村孝之・菅沼悠輔《VAN MEDIA STUDIO》/出演:望月ねね・時任歩・松永えり・稲葉凌一・深澤和明・横塚明・山科薫・藤原健吉・内山一寿・久保和明・千葉尚之・松本あかね)。主演者中、稲葉凌一がポスターには隆西凌。重複して稲葉“俊一”などといふ、謎の名前も見られる。内山一寿も、ポスターでは内山“一男”に。更に藤原健吉・千葉尚之・松本あかねの三名は本篇クレジットのみ、藤原健吉といふのは、藤原健一の変名。面倒臭いといふか、やゝこしいことこの上ない。何だか、新東宝に試されてゐるかのやうな気分すらして来た。
 不安な面持で指定された待ち合はせ場所に立つ望月ねねを、絶妙に顔が抜かれることは回避した、稲葉凌一扮する運転手が回すリムジンが拾ふ。運転手は望月ねねに目隠しを施した上で、あくまで売春ではなく主婦買春クラブ「ロンリーハート」に。矢張り口元以上は決して捉へられない、稲葉凌一の二役目となるロンリーハート代表が、望月ねねを出迎へる。
 「倉田明子22歳 結婚三年目」。妻に興味を失つた夫(横塚)からはすつかり蔑ろにされる明子(望月)は、鬱屈した日々を送る。御近所(松本)からロンリーハートの噂を聞きつけた明子は、牛乳パック「奥様牛乳」のバーコードに偽装されたロンリーハートの電話番号に電話をかけてみる。中途半端な優男ぶりが堪らない深澤和明(ex.暴威)は、明子が通された「やすらぎの部屋」で、明子を抱く男。望月ねねに夫が魅力を感じない、といふ通り難い嘘を等閑視さへ出来れば、明子篇のスタート・ダッシュとしての威力は大きい。深澤和明が明子の裸身を映すために用ゐた鏡は、実はマジック・ミラーになつてゐた。深澤和明に貫かれ乱れる明子の姿に、隣室の「くつろぎの部屋」から、煙草を燻らせながら女王様ルックの時任歩が冷たい視線を注ぐ。
 「桜井美樹27歳 結婚二年目」。公園でのんびりピクニックを楽しむ美樹(時任)と齢の離れた夫(山科)との桜井夫妻を、SKKテレビ「奥さまこんにちは」内の1コーナー「イケてる夫婦を探せ!」のリポーター(稲葉凌一の三役目)が急襲する。ここで漸く、正面からの稲葉凌一の全身が初めてフレーム内に納まる。関白を気取る山科薫は妻のネンネぶりに惚気てみせるが、ロンリーハートでの美樹はといふと、若い奴隷男(内山)に最早清々しいまでに容赦ない責めを加へる、苛烈なサディストであつた。対して今度はマジック・ミラー越しに明子が見守る中、「たかぶりの部屋」では松永えりが、底も浅いが判り易く暴力的な久保和明に強姦される。
 「山田和美25歳 結婚五年目」。十上の夫・一郎(藤原)の不能をその場では優しく労りながらも、和美は如何せん拭ひきれぬ欲求の不満を抱へる。ある日ぼんやりと和美が眺める昼メロが不意に中断されると砂嵐の中、大掛かりにもロンリーハートからのメッセージが山田家のテレビに映し出される。流石にここは少々、ギミックが大き過ぎるか。千葉尚之は、一戦終へた久保和明がスレイブとして引き連れて来る、初めは豚頭のマスクを被つた白痴気味のセックス・マシーン。髷を落とした侍のやうな頭は、実際に剃り上げたのか鬘なのかまでは不明。犬のやうに飲ませようとペット用の器に入れ持つて来た牛乳に和美が逡巡すると、千葉尚之が「俺が飲む!」とガッつき久保和明が慌てるカットは何気に完成度が高い。
 ハーフ多羅尾伴内ばりの活躍を見せる稲葉凌一を狂言回しに、ロンリーハートを上手く活用してみせたり、あるいは仕方なく溺れてしまふそれぞれの妻(をんな)達の姿を描く。ロンリーハートでの体験を機に輝きを取り戻し、会社までサボッてしまふ横塚明から求められ満更でもない明子が、SKKテレビの稲葉リポーターが伝へる和美の無体な結末に触れる瞬間には、三幕のオムニバスを束ねるドラマの頂点としての強度がさりげなく漲る。先頭打者に望月ねね、二番に時任歩と来ると、どうしても苦戦が予想されなくもない松永えりではあつたが、薄幸な役柄にフィットする地味なルックスからは意外にも思へる、脱がせてみると結構大きなオッパイとのコントラストはそれなりに強力。一貫して酷い目に遭ひ続ける和美のパートには、下賤な扇情心をポップに刺激される。兎にも角にも、最終的には再び望月ねねの濡れ場で磐石に締めてみせる構成が、前述した物語としてのハイライトも踏まへると、裸映画としても、裸を差し引いた裸の劇映画としても、何れも麗しく秀逸。ラストに無理なく美樹をも噛ませられれば、更に一段も二段も高みに上つた傑作ピンクたり得てもゐたところであらうが、そこまでには至らなくとも十二分に面白い。稲葉凌一に話を戻すと仕方もない安普請を、逆に転じて劇中世界の求心力を増さしめる方向に作用させるカウンター・ストライクも素晴らしく、映画としてのしなやかさを感じさせる一作である。


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