真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「どスケベ女医 催眠SEX」(2001『女医・川奈まり子 熟女タブーSEX』の2009年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:佐々木乃武良/撮影:佐藤文男/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/撮影助手:佐藤琢也/照明助手:平岡エリ・長田はるか/助監督:奥渉/タイトル:道川昭/協力:坂本礼・鈴木敦子、他三名/出演:川奈まり子・佐々木麻由子・里見瑤子・久須美欽一・吉田祐健・岡田謙一郎・千葉誠樹)。監督助手をロストする。
 個人医院の石原医院、診察を受ける大膳五郎(久須美)が院長の石原美枝子(川奈)の体に手を伸ばすが、美枝子は怒り出すでもなく、五郎に触られるがままに任せてゐる。美枝子はアカデミズムと世間からは絶賛黙殺されつつ、患者の性的欲求に応へることにより治療効果を上げる、癒しの治療を身上としてゐた。一方手術室では看護婦の河野真紀(里見)が、馬場良雄(岡田)の血圧を測らうとする。巨根自慢の馬場が怒張を真紀に誇示するや、本格的な濡れ場に川の水が流れるか如く移行。呼びかけに応じない真紀を探して美枝子が手術室のドアを開けたところ、真紀は乱れた白衣を手で押さへながら、馬場の血圧ならぬチン圧を測定中。カフの中で圧力に屈した馬場がついつい発射してしまふと、美枝子は「真紀ちやんちよつと勘違ひしてるのよねえ」。美枝子が呆れたタイミングで、カット開けると一転沈痛な面持で歩道橋の上に逡巡する佐々木麻由子。勤務する大学病院をトラブルを起こし辞めて来たばかりの美枝子の同期女医・橘由香里(佐々木)は、衝動的に自殺を図るも思ひ留まる。ここまで、潤沢に女の裸を盛り込みつつ、場面場面のコントラストも綺麗に効かせた開巻の強度は完璧。金持ちのエロ患者ばかりを宛がはれたことに憤慨し後先考へずに辞表を叩きつけた由香里は、美枝子の理念自体に対しては冷笑しながらも、とりあへず石原医院に身を置く―正確には置かせて貰ふ―ことにする。真紀が強面の由香里の登場に、容易に想起される騒動の予感に楽しげに慄くカットのキュートさも百点満点。的確な配役と精度の高い演出とに支へられ、順調に走る映画は抜群に小気味よい。町内検診で採取した尿検査のサンプルを、検査機関として持ち込んだ大病院にて美枝子は元カレである竹沢和也(千葉)と驚きの再会を果たし、五郎は幼馴染で同じく石原医院の患者である筈の、権藤助六(吉田)が美枝子の医療レベルに見切りをつけその病院に検査入院してゐることに胸を痛める。
 真紀と馬場は一貫して呑気な傍観者に、医者と女としてのプライドを巡る美枝子と由香里。美枝子を間に挟んで、義理と人情とに揺れる五郎と助六。五郎を秘かな目撃者に、焼けぼつくひに火を点けかける美枝子と竹沢。諸々の思惑が絡み合ひながら順当な着地点としてのハッピー・エンドを目指す物語は、そこはかとなくもスマートな娯楽映画として何気なく完成度は高い。どうでもいい頂点としては、由香里の石原医院での初仕事。肛門に指を挿し入れ検診しようとする由香里に対し、馬場は空気も読まずに何時もの調子で自慢のラブ・ガンを御開陳。瞬間沸騰で激昂した由香里が、凶悪にも直腸内を捻り上げ馬場が悶絶するバイオレントで馬鹿馬鹿しいシークエンスには、手放しで愉快に笑かされた。美枝子の論理自体は決して磐石な説得力を有してゐる訳では必ずしもないのだが、雰囲気下町ヒューマン・ドラマを久須美欽一に頑丈に牽引させる戦略はベタベタでもそれなりに有効で、最終的には威力絶大の川奈まり子の裸で有無を言はさず捻じ伏せてみせる。桃色サスペンスの傑作「口説き屋麗子 火傷する快感」(2000/主演:沢木まゆみ)には一段至らないものの、矢張り佐々木乃武良のピンクを語る上で逸品ではなくとも欠かすことの出来ない一品ではなからうかと、それとなく推したい一作である。
 女癖の悪い竹沢が美枝子とヨリを戻さうと口ではいひながらも、ぬけぬけと美枝子の居ぬところでは口説いてゐる看護婦役には、当てはまりさうな名前がクレジット中には鈴木敦子しか見当たらないのだが、決して満足には抜かれない上で、それでも鈴木敦子には絶妙に見えなかつた。それもそれとして、今作中には新題にある“催眠”といふ要素なんぞ、半欠片も出て来はしないのだが。一体エクセスの仕事は、何処まで自由奔放なのか。

 ここから先は純然たる私事ではあるが実は今エントリーで、2000年の「川奈まり子・現役熟女妻 奥まであたる・・・」(監督:坂本太)から2003年の「政界レズビアン 女戒」(監督:愛染恭子)まで全六作となる川奈まり子のピンク出演作(内『政界レズビアン』以外の五作に主演)を、ひとまづ網羅出来たことになる。決して多い数字ではなからうが、少なくともこの人は遺作「川奈まり子 桜貝の甘い水」(2002)に於いて、主演女優として小林悟を看取つたといふ功績はピンク映画史的に特筆されるべきであらう。


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