真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟女調教 発情の目覚め」(1996『まん性発情不倫妻』の2009年旧作改題版/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実・関根和美/撮影:小西泰正/照明:隅田浩行/助監督:加藤義一/音楽:加藤キーチ/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/監督助手:池原健/撮影助手:有賀久雄/〃:岩瀬正道/照明助手:耶雲哉治/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/協力:野上正義・旦々舎・細谷隆広・鈴木アヤ・吉橋透・杉山洋介/出演:小川美那子・吉行由実・泉由紀子・伊藤猛・坂田雅彦/友情出演:葉月螢・荒木太郎・五代暁子)。
 製作の関根プロダクションに続いて、「吉行由実 第一回監督作品」のクレジット。フラッシュ・バック風の短いカット割を駆使しつつ、吉行由実がヒステリックにシャワーを浴びる。佐伯由理(吉行)は風呂上りに、新しい家族である恵子(小川)と笑顔で挨拶を交す。由理の兄・慎吾(伊藤)は、職場の先輩である恵子と結婚した。高校生の時に亡くした母―父親の処遇は一切語られない―の面影を感じさせる恵子に、由理は複雑な心境を秘かに抱く。母親の亡骸(小川美那子の二役)の乳房に唇を寄せたまゝ泣き疲れて眠る妹の姿を、実は兄は目撃してゐた。在職当時、恵子は慎吾と共通の上司である課長の土田(坂田)と、六年間に及ぶ泥沼の不倫関係にあつた。土田からの電話に涙する兄嫁の姿を、今度は妹が窓越しに目にする。泉由紀子は、度々外泊はするものの彼氏がゐる訳ではない、百合もとい由理の恋人・ミユキ。エンド・クレジットでは何故か“ユ”の字が少し小さく、まるで“ミュキ”に見える。
 亡き母を想はせる兄の結婚相手に対する、妹の道ならぬ恋情。ヒロインの、あくまで父親ではなくマザー・コンプレックスがテーマといふのは新味を感じさせるが、吉行由実のデビュー作を一言で言ひ表すならば、どうにも際立つのはぎこちなさ。表情に乏しくたどたどしい小川美那子と吉行由実、与へられた中途半端な距離感の中で所在なく立ち尽くし気味な泉由紀子。家族の前での闊達なキャラクター造形が、持ち前の朴訥さとはものの見事に親和せず清々しい仕出かした感を振り撒く伊藤猛。主要キャストの中では嫌味な好色漢をそれでもその限りに於いて好演する坂田雅彦以外は、全員沈む俳優部の惨敗ぶりが、ひとまづ顕著に挙げられよう。シフォンケーキを作る恵子の指先を取つた由理が熱つぽく漏らす、「温めてあげる・・・」の口火から、風にそよぐカーテンの画を挿むと唐突に二人とも全裸の恵子の腹に、由理が安らかに頭を預けてゐたりする感動的に頓珍漢なカットの繋ぎが、最終的な火に油を注ぐ。当事者は眠る間に期せずして秘密に触れた慎吾が黙して語らずといふ状況を、二度繰り返してのけるのも芸がなく、フィックスのカメラの前で、動きを欠いた二つの体がゴロゴロ漫然と転がるのが悪い意味で特徴的な、抑揚を欠いた濡れ場も明確な減点材料であらう。それでゐて、元不倫相手である土田が悪意を込めてかけた電話に触発され、かつての愛欲に溺れた荒んだ日々を想起しつつ、恵子が何時しか自慰をオッ始めてみたりするシークエンスには、決して我意のみに固執してしまふことなきやう、従来風のピンク映画的な展開に対する心配りが垣間見えもする。ぎこちないのと同時に、そこかしこでちぐはぐな一作でもある。それまでのハウス・スタジオではなく浜野佐知の自宅庭で撮影された、慎吾と恵子が佐伯家の庭に水をやるところに、遅れて由理が起きて来るラスト。戯れに慎吾がホースを向けたものだから、「キャアッ!」と半分裏返つた悲鳴をわざとらしく上げる小川美那子を、しかもスローモーションで押さへてみせる画期的な蛮勇は、処女作のみにギリッギリ許された正しく若気の至りとでもしか評しやうがない。劇中由理やミユキの衣装、即ち吉行由実なり泉由紀子の私服の野暮つたさと同様、温かい目で見るならば微笑ましい一作ではある。それにしても一回り以上昔の吉行由実が、現在よりも幾分老けてオッパイも小さく見えるのは、一体如何なる超常現象か。

 友情出演勢は、同じカットながら登場順に荒木太郎が慎吾の右隣に座る同僚で、葉月螢が慎吾から受け取つた扶養手当願ひに土田の認印を貰ひに行く、経理か総務担当の女子社員。二人とも台詞がある一方、五代暁子に関しては完全に見落とした。ほかに残された可能性が見当たるのは、矢張り慎吾勤務先社内くらゐしか見当たらないのだが。


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