真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「襦袢妻の急所 寝間を覗いて!」(2002『不純な和服妻 覗かれた情事』の2010年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有馬仟世/撮影:創優和/照明:斉藤志伸/編集:フィルムクラフト/助監督:竹洞哲也/監督助手:躰中洋蔵/照明助手:里舘統康/メイク:パルティール/タイトル:道川昭/出演:星沢レナ・ゆき・中渡実果・千葉誠樹・岡田智宏・竹本泰志)。ロストしたのではなく、撮影助手のクレジットはなし。
 本店営業部長への昇進も決まつたエリート銀行マンの夫・神谷隆文(千葉)に抱かれる薫(星沢)の艶姿に、二階寝室の窓際にまで忍び込んだ不審者が熱い視線を注ぐ。薫は闖入者の存在に気付きかけるが、隆文は一笑に付す。翌朝、颯爽と出勤する夫を楚々と送り出す薫の姿に、通りがかつたくたびれ気味の会社員・立花哲夫(竹本)が目を留める。立花こそが、昨夜の出歯亀男だつた。立花は結婚も約束したオッパイが大きくて可愛い彼女も居ながら、若い女にしては珍しい、和服を色つぽく着こなす薫に心奪はれてゐた。その晩、婚約者・土屋留美(中渡)と会つた立花は、ホテルで一戦交へる。そこまではいいとして、ところが事後、実は勤務先をリストラされてしまつてゐたことを立花が告白するや、留美は脊髄反射で手の平を返し激怒、無体に一切を御破算にするともう今は元婚約者の前から姿を消す。以降、中渡実果の出番は一切全くない。気の毒なくらゐに打ちひしがれた立花は、独りホテルから出て来たところで、あらうことか女連れの隆文と擦れ違ふ。翌日、仕方なく買ひ込んだ求人情報誌に虚ろな目を落とす立花の前を、昨晩隆文とホテルに入つた女・篠原早苗(ゆき)が通り過ぎる。立花が後を尾けてゐることにも気付かず早苗は、驚くことに神谷家へと入つて行く。目下離婚して再びシングルの早苗は、薫の先輩にして親友であつたのだ。それにつけても、知らぬは本妻ばかりなりをほくそ笑みながら、人の亭主を寝取る女といふ役柄への、ゆきのジャスト・フィットぶりは尋常ではない。焼酎「いいちこ」をナポレオンに模したことに倣へば、下町のファム・ファタールといつた風情が漂ふ。早苗が帰つた後、立花は玄関に差し込んだ怪文書といふ方式にて、薫に早苗が隆文と不倫関係にあることを伝へる。傍目には人も羨む絶好調順風満帆な生活を送つてゐるやうに見えながら、それでも抱へた何か心の隙間と、ストーカーに監視されてゐるやも知れぬといふ疑惑に怯える薫は、真偽のほどは未だ定かではない告発に動揺する。
 ピンクスにとつては御馴染みの、中渡実果(ex.望月ねね)とゆき(ex.横浜ゆき)に関してはいふまでもないとして。演出の力もあつてか憂ひを帯びた表情の美しさと、決して大きくはないが形の綺麗なオッパイとが堪らなく、ピンク出演は今作限りであることが重ね重ね残念でもある、主演女優の星沢レナ。何れ菖蒲か杜若、美人若手女優を揃へた三本柱は鉄壁で、返す刀で俳優勢も千葉誠樹・岡田智宏・竹本泰志と、おまけに背も高いイケメンを三枚並べてみせた。野球に譬へるならば全員完投能力のある先発ローテーションになほかつ後ろのリリーフも磐石といふ、強力な布陣を組んだ監督の坂本太は後は脇目も振らず、グッド・ルッキングな濡れ場濡れ場を連ねることのみに全精力を傾注する。特段お話として面白いだとか特筆すべき部分は別にありはしないが、画面も、そしてそれを作り出した技術と志も共に麗しい。そこに描かれてあるものは男と女の欲望と肉の交はりのみではあるものの、一歩退いて全体を眺めてみると、女の裸しかないのではない。女の裸のほかに、一体何が必要だといふのか。さういふ逆説的にストイックな姿勢の、実に清々しいエロ映画である。唯一注文をつけるとするならば、中渡実果の美身が拝めるのが、一度きりといふのが勿体ないといふ点くらゐか。それにしても展開上は致し方なく、無理な深追ひをしなかつた賢明を、寧ろ賞賛すべきであるのかも知れない。無職の割には、立花は妙な高スペックと幾許かの資金力をも発揮。終に屋内にまで侵入した神谷家のそこかしこに盗聴カメラを仕掛けると、薫の痴態を車の中からモニタリングする。そんなこんなでオーラスは、薮からに観察者としての立花の視点を立脚点に見据ゑた薫の、“本当のアタシ発見”物語に何故か着地してしまふのは唐突感も唸りを上げるが、ここは劇映画としての落とし処を摸索したものと、好意的に捉へたい。

 配役残り岡田智宏は、後に隆文と早苗の不貞の事実を確認し一線を越えて開き直つた薫が、W不倫相手にと呼び出す学生時代の先輩・原口雅也。


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