真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「レイプ/恥獄」(1989『過激本番 乱-みだれる-』の2009年旧作改題版/製作:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・鍋島淳裕・渡辺保彦/照明:秋山和夫・田中明/録音:長嶋吉宏・山崎新司/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:四宮一志・毛利安孝/車輌:高橋達也/ヘアメイク:小原ナオキ/録音スタジオ:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:栗原早記・沢村杏子・山本なつき・平賀勘一・直平誠・久須美欽一)。出演者中、直平誠は本篇クレジットのみ。今回新版ポスターには脚本が性懲りもなく山_邦紀、ええ加減どうにかせえよ。
 何処ぞの別荘地、石を手にした乾平(直平)を助手席に乗せ、浜野佐知からグラサンを借りた―嘘です―乾吉(平賀)の運転する不審なライトバンが、通りに立つ乾子(栗原)と目配せを交しつつ付近を物色するかのやうに徐行する。後に抜かれる乾子の手元は、残りの九本は黒いマニキュアで、左手薬指だけが赤い。乾平と乾吉は、自転車に乗る道原レイコ(沢村)に狙ひを定める。踏切で自転車を止めたレイコを、電車の通過に合はせたこなれないクロス・カッティングを用ゐて乾平が捕獲する一方、乾子は言葉巧みに小室ハルカ(山本)に接近する。三姉弟は原つぱの真ん中にぽつねんと建てられた、黒塗りのハウス・スタジオのやうな一軒家に二人を監禁陵辱した上、85の誕生日を迎へた祖父・川旗乾之助(久須美)の祝ひの品にレイコとハルカを供すあるいは饗する。
 劇中レイコが口汚く罵るやうにキチガ○の一家が、捕へた獲物の美肉を暴力的に貪る。端的にいふならば、強姦と殺人の違ひがあるといふだけで、要はピンク版「悪魔のいけにへ」とでもいつた一篇。女優陣のルックスは仕方なく垢抜けない反面、容赦なく過激なレイプ描写は二十年の時代を超え得る威力をひとまづ有してはゐる。今作が、頑強なフェミニストである女流監督・浜野佐知の作品である点に基くもしくは躓く巨大な疑問さへさて措けば。とはいへ一旦は脱出失敗したのち、生きるか死ぬかのこれは戦争だとレイコが敢然と腹を括つてからの女達の逃走ではなく逆襲は、浜野佐知の面目躍如もスラッシュ方面の斜め上に通り越してみせる。ピンク史上屈指であらう致死率の高さを誇る一作は、現実的にはある意味も何もトゥー・マッチでしかないといへばないのだが、勧善懲悪ならぬ完全懲悪とでもいはんばかりの勢ひで、自身の思想的立場と同時に観客のカタルシスにもキッチリ形をつけて呉れる力技は矢張り流石といへよう。一応美人の範疇には入るものの、序盤はぎこちなく硬く見えた沢村杏子のルックスが、終盤意を決するに至つて凛々しく見えて来るのは、これこそが映画の魔術に違ひあるまい。
 利尿剤入りのミルクを飲まされた、正確には舐めさせられたレイコが、兄弟に両側から抱へ上げられた体勢で失禁羞恥に咽び泣くエクストリームな濡れ場にあつては、律をも懼れぬ勇猛果敢な踏み込みを発揮。パンティ越しとはいへ実際に排尿させた沢村杏子の観音様に対するクローズ・アップは、観てゐてこちらが逆にハラハラさせられるくらゐまで見せる。順序的には前後してもうひとつ明後日な見所は、わざと逃がしたレイコとハルカを、ほくそ笑む三姉弟が森の中で待ち伏せる場面。ラスタなコーディネイトの平賀勘一が、乾吉の偏執性を表現するメソッドとして、あのアクション乃至はダンスを実際にどういふ名称で呼ぶのかは知らないが、指先まで伸ばした両手を体の前で繰り返し繰り返し横方向に交叉させながら、足はガニ股に開き体全体を左右にスイングする動作を、結構長めのカットの間延々続けてゐるのは間抜けで楽しい。それと平賀勘一は、二十年以上前の映画だといふのに、吃驚するくらゐに変らない。


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