真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪服の女 熟れ肌のめまひ」(2008/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:竹田賢弘/撮影助手:堂前徹之/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/下着協賛:ウィズコレクション/出演:真田ゆかり・藍山みなみ・江端英久・吉岡睦雄・小山てるみ)。
 舌なめずりで開巻、アパレルメーカーに勤務する中里慎也(江端)が、倉庫にて部下の森川葉月(藍山)と事に及ばうとしてゐる。今回いはゆる前髪パッツンの藍山みなみは、適性体重を保つてゐるやうで胸を撫で下ろす。倉庫に入つて来た他の従業員(スタッフの何れかか)の気配に怯えながらも、二人が最後まで致した事後葉月の口から、中里が妻に先立たれてゐた旨が語られる。ひとまづのドラマは設けられながらも、藍山みなみの出番は徹頭徹尾この濡れ場のみといふ勇猛な起用法に、最終的には驚かされる。亡妻・真帆(小山)の墓参りに訪れた中里は、喪服姿の見知らぬ女(真田)から会釈を受け戸惑ふ。墓地で見た女・黒木理恵が、再び中里の前に現れる。交通事故で夫(遺影すら登場せず)を亡くし自身も失明したといふ理恵は、真帆が提供した角膜の移植を受け光を取り戻したとのこと。ドナーの情報は、移植を受けた患者の側には知らされないのではと不審がる中里に、理恵は信じ難い事実を告げる。真帆から貰ひ受けた角膜を通して、遺された真帆生前の記憶を共有してゐるといふのだ。以降、真帆と理恵との人格をスイッチしながら付き纏ふ理恵の、最短距離で直截にいふならばストーキングに消耗した中里は同級生で、真帆が診察を受けてもゐた精神科医の下平隆文(吉岡)を頼る。中里から相談を受けるものの、徹底した合理主義者である下平は一笑に付す。ところが後日、眼前で失神してしまつた理恵を中里が医療機関である下平のクリニックに運び込んでみたところ、理恵は、中里も知らない筈の真帆と下平の不倫を知つてゐた。下平も驚愕する、理恵は本当に、角膜越しに真帆の記憶を有してゐるのか・・・・?
 移植により視力を得た、あるいは回復した主人公がドナーの記憶を共有する。といふ筋立てのピンク映画といふと、深町章の「痴漢レイプ魔 淫らな訪問者」(2002/脚本:岡輝男/主演:河村栞・山咲小春・岡田智宏)が、2006年に旧作改題されてもをり容易に想起される。臓器の被提供者がドナーの記憶を得るといふ現象に際して、そのこと自体の是非ないし有無については半ば以上に丸呑みしたまゝ犯人捜しのサスペンス―といつて、詰まるところは犯人の方からのこのこ姿を現して呉れるのだが―を展開した「オフィスラブ すけべな OL」、もとい―然しつくづく箆棒な新題だ―「痴漢レイプ魔~」に対し、理恵が真帆の記憶を受け継いだといふところにから猜疑の目を向ける点に、今作の特色はある。黒い時のナベは箍の外れた破天荒を仕出かすのもあり、同じく真田ゆかり主演で「後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007)といふ、サイコ・サスペンスといふか殆どスリラーな領域に突入した怪作も記憶に新しい。そのため事前には最低限の心構へもしておいたものだが、不可解な現象に対して徹底して論理的に挑むアプローチは、硬質で充実してゐる。最初は半信すらしてゐなかつた下平が、理恵が自らと真帆の関係を知つてゐたことに愕然とする件が第一の頂点。客層も鑑みてか、冗長とまではいはぬが入念過ぎなくもない謎解きを経て、中里が実は最初から判つてゐたことを下平に明らかにする場面が第二の、そして江端英久の地力が強力に発揮される今作の最高潮。ここでの漲る映画的強度が抜群に素晴らしかつただけに、以降の最終幕にはもう一手間、一踏み込み足りなかつたやうな気持ちも残しつつ、真田ゆかりの時に冷たさも漂はせる美しさはプロットにも映え、頑丈な脚本に支へられた見応へある一作である。

 ところで。ザッと探してみたところ公式なアナウンスは見当たらないが、真帆役の小山てるみは、久々に観たex.美波輝海である。元々バタ臭さが実年齢よりもオバサンじみて見えもする女優さんではあつたが、当時よりも、今の方が演技面も含めていいやうに映つた。

 付記<   これまで素通りしてゐたゆゑ知らずにゐたものだが、美波輝海は今作に遡り、渡邊元嗣四作前の「特命シスター ねつとりエロ仕置き」(2007/主演:らいむ)に於いて既に、大貫あずさ名義での五年ぶりの銀幕帰還を果たしてゐる。


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