真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「裸身の裏顔 ふしだらな愛」(2008/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実・桑原あつし/撮影:清水正二/編集:鵜飼邦彦/音楽:小泉pat一郎/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:加藤学/撮影助手:海津真也・島秀樹/照明応援:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/現場応援:小川隆史・田中康文/現像:東映ラボテック/協力:ロフトプラスワン・イメージリングス/出演:Amu・若林美保・結城リナ・神戸顕一・金村英明・名倉愛・樹カズ・千葉尚之)。出演者中、神戸顕一から名倉愛までは本篇クレジットのみ。
 劇中ではホームビデオになつてはゐるものの、撮影が実際には35㎜主砲も含む彼女・深町和子(Amu)の―いはゆるハメ撮り含む―映像を半ベソで見入りながら、吉川(芳川か良川かも)吾郎(千葉)はこの期に及んだ思ひ出に暮れる。高校時代、吾郎は幼馴染の留美(結城)に乞はれ、男子部員のゐなくなつたといふ演劇部に裏方として入る。和子は、そこでの看板女優であつた。在学中から付き合ひ始めた二人の交際は卒業後も続きつつ、二十一歳の時、和子はダンスのニューヨーク留学を志し吾郎の前から姿を消す。それから二年後の春、即ち開巻当時時制。未だウジウジ和子の存在ないし不在を引き摺る吾郎の部屋に、黒田屋のメロンパンを手土産に留美が遊びに来る。と、そこに、衝撃的なニュースが飛び込んで来る。アメリカで和子が航空機事故に遭遇し、行方不明になつたといふのだ。こゝでテレビからニュースを読む声は、吉行由実。茫然自失する吾郎に、慈しむかのやうにその身を任せる留美は、実は以前から吾郎に片方向の想ひを寄せてゐた。更に三年後の現在時制、吾郎は婚約者の真理子(若林)に誘はれ、こちらも学生時代演劇部に在籍してゐた真理子の先輩・甲田ワタル(樹)が演出する舞台「とどかぬ想ひ」を観劇にロフトプラスワンを訪れる。小室優奈名義時代の記憶―因みに「性犯罪ファイル」に於いては、佐倉萌のアテレコ―は正直全く薄い、若林美保は台詞回しには素人然としたぎこちなさも残しつつ、力強ささへ感じさせるタッパも伴つたムチムチした肢体は、強靭な迫力に溢れ画面にも抜群に映える。これは演技ではなく恐らく素に思へるが、自信の容姿に対する誇らしげな佇まひも役柄にフィットし素晴らしい。となるとお芝居の方は正直あまり多くを望めない分、エクセスの昨今の方向性にさういふ方面からはあまり期待出来ないであらう雰囲気も踏まへると、松原一郎辺りに委ねたタフなエロ映画といふ奴も観てみたい。一方樹カズは、流石にこゝに来て幾分歳を喰つた渋味も漂はせて来た。話を戻すと、客席で吾郎は驚愕する。「とどかぬ想ひ」主演女優の堀川友里(当然Amuの二役)が、和子にソックリであつたからだ。公演終了後、何処かでお会ひしたことがあるや否や云々と、正直陳腐な切り口で接触を図る吾郎に対し、友里は「貴方は私に会つたことがあるんですか?」と、豆鉄砲を喰らつた鳩のやうに頓珍漢な問ひを返す。三年前の秋、友里は記憶を失くした状態で野良猫のやうに甲田の前に現れ、以来飼ひ猫のやうに男女の仲にもあつた。
 派手なガジェットを持ち出した、その癖最終的にはストレートな悲恋物語。芝居鑑賞に小屋に向かふ最中、和子の遺体が一応未だ見つからぬ旨を説明するために、真理子がガサゴソ手鞄の中から新聞紙を取り出す不格好さと、手渡された新聞が如何にもお誂へ向きに畳んであつた割には、あまつさへ吾郎が目を落とすのはわざわざ別の面であつたりもする間抜けさは目につくが、兎にも角にもズバ抜けてストレンジなのは、電光石火の斜め上を行く真理子驚愕の調査能力。甲田と唯一の濡れ場を披露して呉れるのはそれは絶対に必要であり狂ほしく有難くもあるが、そこまで瞬時に自力で解決したならば、最早殆ど甲田を頼る要もなからう。そもそも、甲田が友里を責める件で観客に対して鍵は提出済みである以上、吾郎が繰り返される部活動時の事故の記憶から、もう一歩踏み出して辿り着くまで真相を寝かせておいても良かつたやうな印象は強い。さうかうしてみると、大掛かりな無茶をしかも二つ積み重ねた分、そこかしこちぐはぐさを感じさせる部分も残す反面、ところが最も肝心な吾郎が和子を、留美は吾郎を求める互ひに行き違ふエモーションと、そしてそれが束の間とはいへ交錯を果たす儚い奇跡とはしつかりと撃ち抜かれてもある。それゆゑ、映画全体の単純な出来不出来としていへば吉行由実に対してはもつと高いレベルを望んで然るべきであるやうにも思へる一方、同時に心に刻まれる感動は深い一作。野球選手に譬へるならば、記録は残さずとも、記憶に残る選手とでもいへようか。そこでどうして野球選手に譬へるのかは、訊かないで欲しい。
 ぎこちないのはぎこちないとしても、ストリッパーとして確かな地位を築く若林美保とはまた別種の、精一杯背伸びしてみせた風の些か痛さも混じつた硬さを初め覚えぬではなかつたAmu(=上加あむ)が、物語が進むにつれ次第に何の痛痒も感じさせずに展開を背負ひ得るやうに映るのは、それは恐らくは勘所を押さへた演出の力によるものなのであらう。若手トップ格の千葉尚之、音楽活動に専念するとかで今作で引退するといふのが全く惜しい結城リナ。必ずしも決定力を有してゐる訳ではない主演女優を、サポートする態勢も万全である。

 驚かされたのが、ロフトプラスワンの客席に神戸顕一が座つてゐた点。一瞬我が目を疑つた、東京に戻つて来てゐるのか?池島ゆたかの頑なな苦労も報はれまい。神戸顕一には、帰り際甲田に声をかける台詞も与へられる。こちらも内トラまで含めての観客組であるのやも知れないが、長身の金村英明が何処に見切れてゐたのか確認し損ねたのは口惜しい。名倉愛に関しては、手放しで手も足も出ない。友里を連れ郷里を訪ねた吾郎の脇を後ろから追ひ抜き通り過ぎる、男女二人乗りチャリンコの女子高生か?


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