真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫婦義母 エマニエル夫人」(2006/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:関根和美・水上晃太/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/制作:坂井茂樹/助監督:佃謙介/監督助手:高田宝重/協力:報映産業、東映ラボ・テック/出演:サンドラ・ジュリア、キサ・カーディ、モリブ・パルマ、マーク・ジョニショ、牧村耕次)。若干名のフィリピン現地スタッフを纏めて取り零す。見慣れない名前の坂井茂樹と佃謙介は、Vシネ畑からの越境。フィリピン・ロケに、慣れてゐるとでもいふことなのか?
 ポスターには、“エクセス!久々の海外ロケ敢行!”といふ惹句が晴れ晴れしく躍る。確かに舞台はフィリピン、ミサトも裸足で逃げ出す本格的に豪奢な洋館に暮らす在比貿易会社支店長の宮田一郎(牧村)は、元秘書のエマニエル(サンドラ・ジュリア/声:持田さつき)と再婚する。因みに紛らはしいが、主演のサンドラ・ジュリア、往年のポルノ女優サンドラ・ジュリアンとは全くの別人。あはよくば、混同でも狙つたか?話を戻して、日本文化への距離と妻としての至らなさに悩むエマニエルに、宮田の前妻との息子、即ちエマニエルからは義理の息子に当たる大樹(マーク・ジョニショ/声:千葉尚之)は道ならぬ熱い視線を注ぐ。といふ訳で、当然の如くピンクに字幕など入れよう訳がなく、恐らく間違ひなく現地調達した外人部隊のお芝居に、後からシネキャビンで日本勢が声を吹き込んでゐる。
 モリブ・パルマ(声:佐々木麻由子)は、エマニエルに対しては露骨な反目を隠さうともしない、宮田邸の家政婦・ティナ。特にどうといふこともなく、当たり前のやうに親子丼を完成させる。キサ・カーディ(声:佐々木基子)は、エマニエルの親友、兼宮田現秘書のクリスティーナ。他に宮田邸のガードマンが、ワン・カット見切れる。
 宮田がクリスティーナと関係を持つてゐることに衝撃を受けた心の隙間に乗じて、大樹はまんまと義母をモノにする。といふ以外には、展開の始終はいはば設定程度に止(とど)まり、幾許かのストーリーもへつたくれもあつたものではない。何時まで経つても日本文化を理解しないエマニエルに業を煮やした宮田が、日本の心を教へてやるだの何だの憤慨するとエマニエルの女体に刺身を盛り、当然当惑気味のサンドラ・ジュリアを余所に悦に入る。などといふ、最早ツッコミを入れる意欲も雲散霧消してしまふ史上最大級の頓珍漢の他には、サンドラ・ジュリアが若い頃のスティーブン・セガールに、何処かで見たやうな気にさせられるモリブ・パルマはよくよく見てみると久保新二に似てゐる点くらゐしか、個人的には外人女属性を持ち合はせないこともあり、特に何がどうといふこともない。ひとまづ現地の空気が捉へられたショットも勿論なくはないものの、わざわざフィリピンにまで出張つて撮るほどのことはないなどといへば、正しくそこで議論は尽き、元々有るかないきかの実も蓋も完全に消滅してしまはざるを得ない。ひとまづは、あんな企画もかつてはあつたよね、といふ形で話の種には辛うじてならう一作ではある。あるいは、後日サンドラ・ジュリアが、「日本のポルノ映画に出演したら体に生魚を盛られたのよ、あいつら本当にアブノーマルね」、なんて愚痴る様子でも想像してみたり。日本人女優相手でも滅多に見ないのに、何で又わざわざ外国人に盛りたがるのか。

 徒手空拳で観てゐても大体判りさうな気もするが、外人部隊のアフレコを誰がアテてゐるのかは本篇クレジットでは素通りされるものの、ポスターには各自その旨記載される。


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