真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「くノ一淫法! おつぴろげ桜貝」(2004/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/撮影:岩崎智之/照明:小中健生/助監督:城定秀夫/協力:菊野台映演劇場/音楽:因幡智明/効果:梅沢身知子/特機応援:間宮結/出演:美咲江梨・橘瑠璃・山口玲子・銀治・世志男・間宮結・本田唯一、他二名/ベトコン)。出演者中、本田唯一以下は本篇クレジットのみで、ベトコン(=国沢実)は全篇を通して出番も台詞も潤沢にある割には、ポスター本篇クレジット何れにも名前はなし。城定タイトル―多分―は風情はあるのだが、如何せん少々追ひ辛い。
 森の中で戦ふ、女忍者の陽炎(山口)と宿敵の梅毒(世志男)。果敢に挑むものの梅毒に捕らへられた陽炎は、手篭めにされる。といふのは、無職童貞彼女居ない暦=年齢といふ誠麗しきダメ人間・猿股健一(銀治)がエッサカホイサカお盛んに見るAVの一幕。フィルムによる映像から、それがアダルトビデオの劇中であることを説明するために、キネコへと移行するタイミングは完璧。いよいよこんな夜に発射しようとしたところ、額縁の後ろから不意に飛んで来た巻物が頭に当たり、健一は興を殺がれる。正体を量りかねた健一から巻物を見せられた、市井の老古学者・林与一(ベトコン)は目を丸くする。健一の先祖は、戦国時代山田何某(失念)とやらに仕へた山田十勇士の一員にして紅曼党―まあ、さういふ風にお読み下さい―頭目・猿股佐ノ助(勿論銀治の二役/『影の軍団』風味)で、巻物は、紅曼党が駆使した忍法ならぬ淫法の秘伝書であるといふのだ。出し抜けな話をまるで真に受けない健一に対し、林は巻物の中から試しに呪文のひとつを唱へてみせる。さうしたところ驚くことに、健一の一物は常識外れの巨大さで勃起した。酷にもそのまゝの状態で帰された健一は、堪らないので何とか鎮められないものかと別の呪文を適当に唱へてみる。さうしたところ、忍冬唐草模様の法被を着た若い女が出現する。女は、実は佐ノ助に想ひも寄せる紅曼党のくノ一・楓(美咲)であつた。棚から牡丹餅といふか時空の狭間からくノ一といふか、兎にも角にも健一が唱へた呪文が、遠く時を隔てた戦国時代から楓を呼び寄せたのだ。
 その夜、楓相手に目出度く筆卸も済ませた健一は、翌日楓を伴ひ街に出る。間宮結は、下らなくも淫法を用ゐスカートを捲らされる女、小学生の発想か。するとキャットファイターとしても名を馳せる間宮結は激昂するや戦闘スタイルに華麗にフォーム・チェンジ。アトミック・ドロップからコブラツイストのコンビネーションで健一を痛めつけると、路上でのSTFも敢行する。更に翌日は文字通り明後日で、今度は健一は楓を演者に仕立てた大道芸を思ひ立つ。出演者クレジットは本田唯一以下三名分しかない一方、実際には男四人女三人の計七名が、観衆として見切れる。橘瑠璃は、林が呼び寄せてしまふ同じく紅曼党のくノ一・修羅。修羅も山田十勇士の一員ではあつたが、度を越した淫乱を理由に、佐ノ助に封印されてゐた。何が何だか紅曼党の淫法は妙にオーバー・スペックなのだが、それで山田はどうして天下を取れなかつたのか。修羅は手始めに林の素人童貞を奪ふと、憎き佐ノ助の子孫である健一を襲撃、楓と対決する。
 自分と同じ顔の御先祖様に予めホの字の女忍者が、時空を超えて降つて湧いての上へ下への大騒ぎ、といふ物語自体には無論異論はない。忍法ならぬ淫法といふ方便で濡れ場の種には事欠かず、幻の技「乳固め卍くづし」まで繰り出しての楓V.S.修羅のメインイベントも、展開の流れとしては全く順当といへよう。一旦ジュブナイル風の別離を見せる終盤に関しては好みも別れようが、個人的にはその在り来りなセンチメンタリズムは、適宜なメリハリのひとつとして大いに買へる。ところでは、あつたのだが。一にも二にも、足をも捥ぎ取られんばかりの勢ひで躓かざるを得ないのが、主演女優の美咲江梨。決して不細工といふことはないとはいへ、転ばうが豆腐の角に頭をしこたま打ちつけようが、まかり間違つても美人ではない。そこら辺のコンビニの店員にでも、幾らでももつと綺麗な娘は居さうな美咲江梨は重ねて、全体的にムチムチした感じは必ずしも悪くはないのだが、如何せんオッパイも貧しい。一体全体どうして、怒涛の爆乳を誇る山口玲子と、超絶の美しさを輝かせる橘瑠璃とを脇に従へ、選りにも選つて何処から連れて来たのかよく判らない美咲江梨がビリングのトップに立つのかが、地獄が凍りついたとてどうしても解せないのである。美咲江梨には悪いが、どれだけ好意的に見ようとも、精々地味な濡れ場要員といふ辺りが妥当な落し処といはざるを得ない。話としては判るものの、それを形にするに当たつて画期的に仕損じてしまつた、失敗とまでいふのは流石に憚られるが非常に残念な一作である。といふかよくよく考へてみると、楓には橘瑠璃、対する修羅には間宮結といふ配役で、別に何の問題もなく成立し得てゐたのではないかとしか思へない。

 冒頭の陽炎対梅毒戦に於いての「破れ傘刀舟悪人狩り」に続いて、修羅初登場時の啖呵には「桃太郎侍」、そして万事が目出度く解決した段になると、2004年当時大絶賛放送中でもあつた「特捜戦隊デカレンジャー」の、各名台詞が堂々とそのままの形で引用される。これも、とかく形成不全の今作にあつては、そこかしこの小ネタとして機能するといふよりは、仕方のない矮小さを逆噴射で加速する方向に働いてしまつてゐる風に感じられる。もうひとつ気になつたのは、本来脳がピーカンなコメディの割には、屋内シーンの照明が総じて暗い点。
 ところでオーラス、健一と林がロング・ショットで捉へられると、吃驚させられるほどの身長差が画面に映える。


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