真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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処女花嫁 初めての悦び
山﨑邦紀
/
2009年09月27日
「
処女花嫁 初めての悦び
」(2004/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/音楽:中空龍/撮影助手:佐藤治・堀部道将/助監督:田中康文・三浦麻貴/キャスティング協力:株式会社スタジオ・ビコロール/出演:北川絵美・佐々木麻由子・佐々木基子・なかみつせいじ・柳東史・平川直大)。スタジオ・ビコロールの中点は本篇クレジットママ。確か平素は、入つてゐなかつたやうに覚えるものだが。
ビデオ画像の、卑弥呼イメージ・ショットに続きタイトル・イン。純潔を守つたまま須佐慎一(平川)と結婚した火見子(北川)は、大胆にもドレスを着たまま初夜に挑んでみせるものの、憐れ慎一は、新妻に挿入する前にあへなく暴発してしまふ。その芝居は柳東史であつても勿論成立し得るのだが、平川直大持ち前の、忸怩たる情けなさが実に画になる。それから二週間、何と慎一はその間連続フライング記録を更新し続け、火見子の処女性は未だ保たれたままであつた。そんな須佐家に、妖艶なチャイナドレスの女・沈鱗(佐々木麻由子)、右目に眼帯をつけた山伏・網戸毒門(柳)、薙刀を持つた遊女・末の珠名(佐々木基子)、そしてモジャモジャの長髪で殆ど顔も隠した不気味な男(なかみつ)が次々に出没する。沈鱗が火見子の前に姿を現すのに続いて、買ひ物帰りの河原にて末の珠名・網戸毒門は、本人にも意外な戦闘術を駆使する火見子と対決する。佐々木基子がモッサリモッサリと長刀をプリ回しながらのままごとキャット・ファイトといふと、要は二年前の対
地球に落ちてきた岩下由里香
戦と、相手が違ふといふだけでやつてゐることは全く同じではある。次々と起こる怪現象に翻弄される火見子の前に現れた不気味な男は、自己紹介がてら奇想天外な事実を明かす。男は、邪馬台国の女王にして高度に発達した呪術体系・鬼道の巫女でもある卑弥呼を謀殺した卑弥呼の弟・卑弥弓呼(ひみここ)で、火見子は百五十年ごとに出現する卑弥呼(いふまでもなく北川絵美の二役)の、DNAの継承者であるとのこと。火見子は代々母系家族から受け継いで来た勾玉を持つてゐる筈だが、その勾玉は卑弥呼の遺品で、火見子が初めての性の悦びに達する時に効力を発現する。沈鱗らは、その勾玉を狙ひ各々の時代から時を超え現代にやつて来たといふのだ。これは全く偶発的で個人的な事情ではあるが、二週続けて
時空を超えて色んな人が飛び込んで来るピンク
を観るといふのも、また一興ではある。尤も、これら二作は2004年当時に於いても、二週間弱の期間を空けるのみでほぼ同時期に公開されてもゐるのだが。因みに、後に当人達により語られるところによると、沈鱗は七十年前の満洲から、末の珠名と網戸毒門とは共に室町時代から現代に現れてゐる。
藪から棒な時空伝奇ロマンとはいへるのだが、如何ともし難い安普請にそもそも抗つてみせる気すら概ね感じられない顛末と特に着地点とは、一見拍子が抜けるにも甚だしいズッコケな竜頭蛇尾にすら見えかねない。ものの、実はといふか普通に観てゐてもさしたる苦もなく辿り着けようが、今作の肝は時の流れを超越したファンタジーにも勾玉争奪戦のアクションにもあるのではなく、要は<
マクガフィンは裸ぢやないか
>といふ馬鹿馬鹿しげな清々しさを描くことにある。それは些か理に落ちる嫌ひの無きにしも非ずとはいへ、表面的な変幻怪異の奥底に通底する、冷徹且つ強靭な論理性こそが真の核であると見るところの山邦紀にあつて、シニカルであると同時に温かくもある“案外とそんなものであつたりもする歴史”、といふ奴への眼差しが感じられて大変興味深い。一件がひとまづ落着したラスト・ショットも、卑弥呼の人格を取り戻し独り超然と微笑む妻、即ち永遠の卑弥呼女王に対し、慎一が現代を生きるしかない自分は一体誰と結婚したんだと複雑な心境を吐露する姿で締め括る辺りにも、ユーモラスな皮肉はよく現れてゐる。通常のピンク映画に対するのとは若干別種の緊張感を強ひられもするといふ意味に於いては、些か敷居も高目といつていへなくもないが、山邦紀の狙ひ狙い澄ました変化球がピシャリと決まる、実に鮮やかな一作である。
慎一を押し退け火見子の処女を散らしたまではいいものの、自慢の剛チンの力任せと独り善がりぶりを沈鱗に論破された網戸毒門こと柳東史が轟沈するシークエンスといふと、
三度も続けられれば
すつかり山組にあつてのお家芸といつた感も強い。といふか、二度目はほんの前作でもあるのだが。ところで、気が付くとこの期に及んでも佐々木基子は実は濡れ場バージンだぞといふ点に立ち止まりかけた終盤、火見子だか卑弥呼は、勾玉を求めそれぞれの時代から集ひ、再び元の時代へと手ぶらで戻つて行く銘々の為に、“
ハッテン・パーティー
”―劇中用語ママ―を催す。ハッテン・パーティーとは奮つてゐる、わざわざ主演女優が宣言しなくとも、小屋の中は何時でもパーティー・タイムだ。話を戻して、詰まるところはそれは火見子が一の一対五の乱交パーティーを指し、当然末の珠名もそれに参加して北川絵美の弾ける肉体を満喫しはするのだが、よくよく冷静に観てみると、依然佐々木基子は何故だか乳も尻も見せてはゐない。となると、狭義の基準を脱いでこそといふ点に設定するならば、厳密には今作、濡れ場のある女優は北川絵美と佐々木麻由子の二人きりといふことになる。だからそれがどうしたと問はれたならば、実も蓋も、返す言葉も最早持ち合はせぬ。
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