酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「鍵泥棒のメソッド」~鮮やかなラストに心が温む

2012-09-29 23:15:55 | 映画、ドラマ
 人は大抵、矛盾のモザイク模様だ。俺などその最たるもので、反米っぽいことを書き散らかしつつ、アメリカを体現するNFLやWWEに親しんでいる。その他、自分の中の矛盾を挙げていってもきりがない。

 個人レベルならともかく、矛盾は政治家にとって致命傷になる。橋下徹大阪市長は「竹島共同管理発言」で支持率を下げた。友愛を掲げる鳩山由紀夫元首相なら、「竹島も尖閣も共同管理にして、友好の徴にしよう」と言い出しても不思議はないが、二元論的な橋下氏にはそぐわない。

 27日付朝日朝刊で、安倍自民党新総裁への注文が特集されていた。興味深かったのは鈴木邦男氏(一水会)の発言で、<中国や韓国への厳しい対応を望む声に乗せられず、熱狂を敵に回しても、国益とアジアの平和を重視すべき>(趣旨)と述べていた。一水会は三島由紀夫の衣鉢を継ぐ団体で、鈴木氏は〝本籍ワシントン〟の輩と一線を画す筋金入りのナショナリストだ。だからこそ排外主義を否定し、左派やリベラルと反原発集会を主催している。

 さて、本題。有楽町で先日、「鍵泥棒のメソッド」(12年、内田けんじ監督)を見た。売れない役者の桜井(堺雅人)、裏稼業で名を馳せるコンドウ(香川照之)、カタログ誌編集長の香苗(広末涼子)が織り成す後口の爽やかなコメディーだった。日中に亀裂が入る前、上海映画祭で脚本賞を受賞し、トロント映画祭で上映された際には笑いが絶えなかったという。日本人が当然のように受け入れるシーンや台詞が、海外では〝くすぐり〟になるケースもあるのだろう。

 3人が均等の主人公で、堺、香川、広末の魅力が引き出されていた。曖昧な笑みで心情を表現する堺に桜井はハマリ役である。公共料金も払えず、女性に愛想を尽かされた桜井は人生にピリオドを打とうとする。身を清めるために行った銭湯で、思わぬ事態に遭遇した。洗い場で転倒して記憶を失ったコンドウの鍵を盗み、入れ替わったのだ。

 感情の起伏が少なく、〝恋愛処女〟風の香苗が職場で結婚を宣言する。交配相手を捜すブリーダーのように男性を物色する香苗は、今の日本において特殊ではない。俺にとっての理想形、即ち<平凡に思えた身近な異性がある瞬間、光を帯び、眩しい存在になる>は時代遅れで、恋愛もまた、演出と数量化が過剰なゲームになっている。

 本作のキーワードは「努力と勤勉」だ。突然リッチになった桜井と、どん底に突き落されたコンドウだが、人生への取り組みの差で再逆転の様相を呈していく。象徴的なのは、桜井の部屋のビフォア&アフターだ。コンドウと香苗のミスマッチに思える接近も、相手の中に自分の美点(努力と勤勉)を見いだしたからである。

 とりわけ光っていたのは香川で、記憶を必死に取り戻そうとする桜井と、怜悧なコンドウを演じ分けていた。絡まった糸が化学反応を生み、内に秘めていた矛盾と謎を発見した3人は、新しい人生の旅に滑り出していく。荒川良々、森口瑤子らが脇を固め、吉井和哉の主題歌「点描のしくみ」も作品にマッチしていた。スローテンポの嫌いもあるが、その分、ラストの鮮やかなドンデン返しに心が和んだ。

 最後に、スプリンターズSの予想を。尖閣問題を重ねて香港馬の取捨を考えるのも一興だし、台風の影響で馬場悪化も考えられる。「鍵泥棒のメソッド」みたいにうまく嵌ればいいけど、鍵が多すぎて途方に暮れる難解なレースだ。的中は諦め、1分超のドラマを楽しむことにする。◎⑦リトルブリッジ、○④サンカルロを軸に、内枠の人気薄を絡めて買うつもりだ。


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