立川談志さんが亡くなった。落語は初級者ゆえ垂れる薀蓄はないが、10代の頃、テレビでオンエアされた談志さんの高座の枕は鮮明に覚えている。
劣等生「おめえ、なぜそんなに勉強してるんだ」
優等生「いい学校行って、いい会社入って……」
劣等生「それで、どうする」
優等生「定年になったら寝て暮らす」
劣等生「だったら、今からゴロゴロしてる俺の勝ちだ」
当時は劣等生にシンパシーを覚えた俺だが、五十路も半ばの今、えらく勤勉に生きている。怠け続けたツケが回ってきたということか……。ともあれ、気骨ある江戸っ子名人の死を悼みたい。
TPPに巡って議論がかまびすしい。ネット、テレビ番組、新聞等で勉強したが、脳がクチクラ化したせいか、結局はスタートラインに戻ってしまう。説得力を感じるのは田中康夫、福島伸享の両衆院議員、天木直人氏ら反対派の見解だ。
TPPの賛否は、<アメリカとの距離感>によって決まるのではないか。小泉構造改革を内閣官房付で推進した福島議員(当時経産省)だが、TPPでは反対派の急先鋒で、「TPPは日米通商修好条約(1858年)に匹敵する不公平な内容」と述べている。反対派は農業、医療だけでなく、情報・通信から保険制度、製造業全般まで、あらゆる分野で日本をぶち壊すと警告している。最たるものは食の安全だ。
総論では賛成でも各論になると言葉を濁す人もいる。TPPは確実に海外からの労働力流入を促進するから、移民反対の保守派がTPPに賛成することには矛盾がある。とはいえ、反対派も各論になると整合性を欠くケースが多々あるから訳が分からない。農業や医療の分野でTPPを支持する民間人は、<出る杭は打たれる国>で軋轢を克服しジャパニーズドリームを達成した1%の成功者だ。彼らの才覚があれば恐れることはないが、99%の凡人はTPPの荒波に溺れてしまうだろう。
<アメリカとの距離感>に加え、<アメリカへの信頼度>もキーになる。アメリカ発のグローバリズムによってアフリカの農業は破壊され、恒常的な飢餓状態に陥った。ゴアは副大統領時代、製薬メジャーの意を受け、中国やブラジルの安いエイズ薬輸出にストップをかけた。その経緯こそが、アメリカが強制するルールの怪しさを物語っている。ゴアは<最も多くのアフリカ人を死に追いやった男>として悪名を轟かせただけでなく、原発業界の代理人として<二酸化炭素温暖化説>を世界中に刷り込んだ。
TPPを巡る<オバマ―野田会談>で食い違いが明らかになったが、日本側の主張はホワイトハウスに掻き消された。日本が主権国家なのか疑わしい事態に、前原誠司政調会長ら<本籍ワシントン>の連中はほくそ笑んでいる。ナショナリズムの崩壊を、41年前のこの日(11月25日)自決した三島由紀夫は、あの世で嘆いているに違いない。
右翼と左翼が相手を一括りにして罵り合う図式が、今もネット上で見受けられる。俺もある時期まで右翼をまとめて否定していたが、あれこれ学ぶうち、評価すべき正統派の存在を知る。一水会の主張にも頷ける点はあるが、代表格は三島と北一輝だ。昭和天皇の代わりに責任の取り方を示した三島と、昭和天皇を木偶として革命に利用しようとした北は、ともに右翼の中で<鬼っ子>とみなされている。
三島のように美学としての天皇制に帰依するつもりは毛頭ないし、棄民の伝統も断ち切るべきだと思う。その点に揺れはないが、土に還る時が近づくにつれ、日本が育んできた文化全般――死生観、もののあはれ、恥の意識など――に親近感を覚えるようになった。土着的左翼を自任した荒畑寒村の心情も、この年になると理解できる。
三島の死以降、日本で多くのものが失われた。反逆精神、矜持、惻隠の情、そしてナショナリズム……。<51番目の州としてアメリカのルールに従うこと>が前提になった国に、いかなる未来が待ち受けているのだろう。
劣等生「おめえ、なぜそんなに勉強してるんだ」
優等生「いい学校行って、いい会社入って……」
劣等生「それで、どうする」
優等生「定年になったら寝て暮らす」
劣等生「だったら、今からゴロゴロしてる俺の勝ちだ」
当時は劣等生にシンパシーを覚えた俺だが、五十路も半ばの今、えらく勤勉に生きている。怠け続けたツケが回ってきたということか……。ともあれ、気骨ある江戸っ子名人の死を悼みたい。
TPPに巡って議論がかまびすしい。ネット、テレビ番組、新聞等で勉強したが、脳がクチクラ化したせいか、結局はスタートラインに戻ってしまう。説得力を感じるのは田中康夫、福島伸享の両衆院議員、天木直人氏ら反対派の見解だ。
TPPの賛否は、<アメリカとの距離感>によって決まるのではないか。小泉構造改革を内閣官房付で推進した福島議員(当時経産省)だが、TPPでは反対派の急先鋒で、「TPPは日米通商修好条約(1858年)に匹敵する不公平な内容」と述べている。反対派は農業、医療だけでなく、情報・通信から保険制度、製造業全般まで、あらゆる分野で日本をぶち壊すと警告している。最たるものは食の安全だ。
総論では賛成でも各論になると言葉を濁す人もいる。TPPは確実に海外からの労働力流入を促進するから、移民反対の保守派がTPPに賛成することには矛盾がある。とはいえ、反対派も各論になると整合性を欠くケースが多々あるから訳が分からない。農業や医療の分野でTPPを支持する民間人は、<出る杭は打たれる国>で軋轢を克服しジャパニーズドリームを達成した1%の成功者だ。彼らの才覚があれば恐れることはないが、99%の凡人はTPPの荒波に溺れてしまうだろう。
<アメリカとの距離感>に加え、<アメリカへの信頼度>もキーになる。アメリカ発のグローバリズムによってアフリカの農業は破壊され、恒常的な飢餓状態に陥った。ゴアは副大統領時代、製薬メジャーの意を受け、中国やブラジルの安いエイズ薬輸出にストップをかけた。その経緯こそが、アメリカが強制するルールの怪しさを物語っている。ゴアは<最も多くのアフリカ人を死に追いやった男>として悪名を轟かせただけでなく、原発業界の代理人として<二酸化炭素温暖化説>を世界中に刷り込んだ。
TPPを巡る<オバマ―野田会談>で食い違いが明らかになったが、日本側の主張はホワイトハウスに掻き消された。日本が主権国家なのか疑わしい事態に、前原誠司政調会長ら<本籍ワシントン>の連中はほくそ笑んでいる。ナショナリズムの崩壊を、41年前のこの日(11月25日)自決した三島由紀夫は、あの世で嘆いているに違いない。
右翼と左翼が相手を一括りにして罵り合う図式が、今もネット上で見受けられる。俺もある時期まで右翼をまとめて否定していたが、あれこれ学ぶうち、評価すべき正統派の存在を知る。一水会の主張にも頷ける点はあるが、代表格は三島と北一輝だ。昭和天皇の代わりに責任の取り方を示した三島と、昭和天皇を木偶として革命に利用しようとした北は、ともに右翼の中で<鬼っ子>とみなされている。
三島のように美学としての天皇制に帰依するつもりは毛頭ないし、棄民の伝統も断ち切るべきだと思う。その点に揺れはないが、土に還る時が近づくにつれ、日本が育んできた文化全般――死生観、もののあはれ、恥の意識など――に親近感を覚えるようになった。土着的左翼を自任した荒畑寒村の心情も、この年になると理解できる。
三島の死以降、日本で多くのものが失われた。反逆精神、矜持、惻隠の情、そしてナショナリズム……。<51番目の州としてアメリカのルールに従うこと>が前提になった国に、いかなる未来が待ち受けているのだろう。