弁理士の日々

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陸山会捜査報告書虚偽記載事件

2012-07-18 21:40:00 | 歴史・社会
日本とアジア・太平洋に甚大な被害をもたらした太平洋戦争に突入したのは1941年でした。あの太平洋戦争を回避することはできなかったのか。いろいろと考えるのですが、1941年時点では誰にも止めることはできなかっただろうと推測します。それでは、いったいどの事件以降、最終的な太平洋戦争突入が回避不能となって、坂を転げ落ち始めたのか。
遡っていくと、
1941 太平洋戦争突入
1940 日独伊三国軍事同盟
1937 日華事変勃発
1936 二・二六事件
1931 満州事変

満州事変は、中国に駐在していた日本の関東軍が、軍中央の統制に服さず、勝手に柳条湖事件をでっち上げ、即座に満州に軍隊を進出させて満州国を樹立してしまった事件です。
柳条湖事件は、関東軍高級参謀板垣征四郎大佐と関東軍作戦参謀石原中佐が首謀しておこなわれたとされています。
この一連の事件は、日本政府、日本国天皇、日本陸軍中央の意に反して行われた軍事行動ですから、当然に軍律違反、そして統帥権干犯に該当しますから、事件の首謀者は厳正に処罰されるべきでした。ところが、満州事変の進展とともにかられ事変首謀者はマスコミに賞賛され、日本国民はかれらを英雄としてしまいました。結局、日本政府も日本軍中央も、かれらの行為を何ら処罰することなく終わってしまったのです。

私は、あのときに日本政府と日本軍が満州事変首謀者を処罰していれば、その後に日本が奈落の底に突き落とされることはなかったのではないか、と残念に思っているものです。

さて、何でこんな話になったか。
陸山会事件で、石川知裕氏の取調べ内容に関して東京地検特捜部の田代検事が作成し、検察審査会に提出した捜査報告書に事実に反する記載があった問題です。この問題についての最高検察庁の捜査及び調査の結果をとりまとめた報告書「最高検報告書」が、6月27日に公表されました。
最高検は田代検事を不起訴処分としましたが、あまりにも身内に甘い処分であるとして激しい非難が巻き起こっています。

語るに落ちた最高検:報告書の説明がイタすぎますが」八木啓代のひとりごと

郷原信郎が斬る
「社会的孤立」を深める検察~最高検報告書は完全に破綻している~』投稿日: 2012年7月2日
『陸山会事件に関する東京地検特捜部の捜査の過程で、石川知裕氏の取調べ内容に関して田代検事が作成し、検察審査会に提出した捜査報告書に事実に反する記載があった問題等についての最高検察庁の捜査及び調査の結果をとりまとめた報告書が、6月27日に公表された(以下、「最高検報告書」)。告発されていた虚偽有印公文書作成等の事件の刑事処分は、田代検事は嫌疑不十分で不起訴、その他の検察官は「嫌疑なし」で不起訴。田代検事は、減給の懲戒処分を受けて即日辞職。当時の特捜部長と主任検事は戒告の懲戒処分を受けた。
最高検報告書の内容は、今回の問題に対する真相解明にはほど遠く、この問題に関する疑惑の説明にも全くなっていない。そして報告書の中で述べられている考え方や物の見方の多くは、内部だけで全てを決められる閉鎖的な組織の中だけにしか通用しない「身内の理屈」であり、社会の常識から理解できず、到底受け入れられるものではない。このようなことを続けていれば、検察はますます社会からの孤立を深めていくことになるであろう。』

「正義」を失った検察の今後』投稿日: 2012年7月15日
『4 月26日に言い渡された小沢一郎氏に対する東京地裁の一審判決が「事実に反する捜査報告書の作成や検察審査会への送付によって検察審査会の判断を誤らせることは決して許されない」と述べているように、今回の問題というのは、虚偽の捜査報告書によって検察審査会の判断を誤らせようとした行為であり、検察が組織として行った「不起訴」という決定を、検察審査会という外部の機関の力を使って覆し、「公訴権」という「社会的な武器」を私物化しようとした疑いがある、というところが問題の核心である。
検察という、社会が捜査権限と公訴権という強大な武器を与えている検察内部で、組織内の一部の反乱分子が、虚偽の捜査文書を作成するという不当な捜査権限の行使まで行って、組織の決定を覆そうとする「組織に対する反逆行為」が疑われた。
それは、まさに「組織の統制」自体が働かなかったという問題なのであり、そのような疑いに対して、徹底した真相究明が行われ、解明した事実に基づいて「組織の統制」を回復する措置が講じられるのが、組織の健全性を取り戻す唯一の道なのである。しかし、最高検報告書で示された、今回の検察の対応は、組織の統制を取り戻す措置とは全く言えないものだった。』

この問題については、以下の3点セットをきちんと検証しない限り、本当のところを自分で理解することはできないでしょう。
① 最高検報告書
② 被告人石川知裕氏に対する取調べ録音データの反訳書
③ 田代元検事作成の捜査報告書

しかし、郷原弁護士らが論評する限りでは、最高検の論理は破綻しており、とてもではないが容認できるような処分ではなさそうです。
そして、郷原氏が7月15日付け論評で述べているように、今回の問題は、『検察が組織として行った「不起訴」という決定を、検察審査会という外部の機関の力を使って覆し、「公訴権」という「社会的な武器」を私物化しようとした疑いがある』という問題です。検察内部で、組織内の一部の反乱分子が、虚偽の捜査文書を作成するという不当な捜査権限の行使まで行って、組織の決定を覆そうとする「組織に対する反逆行為」が疑われたのです。

そう、これこそ、満州事変と同根の問題を内在しているのです。
満州事変では、関東軍の参謀である板垣・石原両名が中心となって、日本国としての方針に反し、満洲で事変を起こしていまいました。そしてそれら首謀者を厳正に処罰すべきところを放任してしまったのです。
その後に発生した日華事変においては、もはや現地軍は日本政府の方針などどこ吹く風、どころか、満州事変の英雄であった石原が不拡大方針であったにもかかわらず、その石原を無視して作戦を実行してしまったのです。
組織内での反逆を一度許してしまうと、組織のたがが外れてしまう実例です。

今回の陸山会捜査報告書事件については、徹底的に問題を追及すべきです。
われわれは、上記①~③の資料を正当に入手することができませんし、反訳書などは5時間分もあるらしいですからなかなか全体を把握する時間もとれません。
しかし、その全体が入手できるらしいことは明らかなのですから、マスコミは、全体の資料を閲覧して実態を明確にすることが可能な状況にあります。ぜひジャーナリズムの力でもって、全体を明らかにして欲しいものです。
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