弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

成田と羽田の空港役割分担

2009-10-19 20:35:51 | 歴史・社会
前原国交相の以下の発言を契機に、成田と羽田の空港役割分担問題が大きな話題となりました。
前原国交相:「羽田をハブ空港に」…D滑走路完成を機に
「前原誠司国土交通相は12日、羽田空港について「首都圏空港を国内線と国際線を分離する原則を取り払い、24時間(稼働する)国際空港化を徐々に目指していきたい」と述べ、第4滑走路(D滑走路)が来年10月に完成するのを契機に羽田を国際拠点空港(ハブ空港)とする考えを示した。国際線が発着する成田空港は「航空需要の増大を見据えて有効活用する」とした。大阪府泉佐野市で開幕したアジア太平洋航空局長会議の開会宣言後、報道陣に明らかにした。」
「羽田の国内・国際共用化を巡る議論は、森内閣時代に扇千景国交相が主張。その後、羽田からソウル(金浦)、上海、香港空港への定期便も就航したが、成田が開業した1978年に成立した「羽田は国内線、成田は国際線」の原則は基本的に維持されてきた。」
「国交省は昨年5月、羽田と成田の「一体的活用」によって首都圏空港の国際航空機能を高めるという形で、羽田の国際化推進を打ち出した。だが、国際線の拠点を成田とする従来の方針は変えず、羽田の昼間の発着は近距離アジア路線に限るなど成田への配慮が見られた。」(毎日)

その後、森田千葉県知事が国交相のこの発言に激怒し、「羽田ハブ空港化」について事前に鳩山首相と調整していなかったことも明らかになりました。

成田空港については、
(1) 都心から遠すぎる。
(2) 成田空港が国際線に特化して国内線が飛んでいないので、「ハブ空港」になっていない。
(3) 成田は夜間発着ができない。
という問題があるばかりでなく、
(4) B滑走路は寸詰まりでジャンボが燃料満タンでは離陸できない。
(5) 誘導路が直線ではなく曲がりくねって利用しづらい。
という問題もかかえています。

このような欠陥空港である成田がなぜ日本の表玄関であり続けて来たのか。

ひとつには、成田空港は反対闘争をくぐり抜けて出来上がった空港であり、警備する警察官と過激派の双方に犠牲者を出してきたという歴史があります。そのため、羽田の国際空港化の話が出るたびに、地元は極めて過激に反応するようです。

それ以外にも、成田開港を推し進めた自民党と官僚(当時の運輸省)の無謬性を維持するためにも、方針転換をしづらいといった事情があったでしょう。

Voice11月号で伊藤元重東大教授が『「日本航空」問題は氷山の一角』との評論を執筆しています。
その中で、成田空港の上記(1) ~(3) の問題点を挙げるとともに、日本航空と関係について「国際線で多くの路線を抱える日本航空は成田空港の発着枠を多く抱えている。羽田空港の国際線の機能を拡大し、その発着枠を他の航空会社に提供することがあれば、日本航空の経営に少なからず影響を及ぼすだろう」と述べています。
そして伊藤教授は、今回の政権交代がこれまでの構図を根本的に変えることになるのかどうか、期待しています。

今回の前原国交相の発言に端を発する一連の騒動は、今まで封印されてきた成田-羽田問題の突破口になる可能性は十分にあります。
ここでも、政権交代というものはしてみるものだ、と強く思います。

なお、今まで耳にしてきた成田-羽田問題について、ここで整理しておきます。

2007年12月、東京都が法人事業税を法人事業税約3000億円を財政力の弱い自治体に回すことで合意した際に、羽田空港の国際化について政府から約束を取り付けたという話がありました。以下の記事ですね。
都税3000億円移譲で大筋合意 首相と石原知事
2007.12.11 11:21
「福田康夫首相は11日午前、東京都の石原慎太郎知事と首相官邸で会談し、平成20年度税制改正の焦点となっている地方自治体間の税収格差是正問題で、都の法人事業税約3000億円を財政力の弱い自治体に回すことで合意した。石原氏は会談後、記者団に「泣く子と地頭と政府には勝てない」と述べ、税収移譲を税制の抜本改革を行うまでの暫定措置とすることを条件に容認する考えを表明した。
 都は今後、減収の見返りに羽田空港国際化の推進や東京外環道の整備、平成28年夏季五輪の招致活動への支援を求める。会談で首相は、こうした条件を議論する政府と都の政策協議機関を設置することを提案し、石原氏が受け入れた。」

冒頭の新聞記事において、「国交省は昨年5月、羽田と成田の「一体的活用」によって首都圏空港の国際航空機能を高めるという形で、羽田の国際化推進を打ち出した。」とあります。当時の冬柴国交相が2008年5月20日の経済財政諮問会議で「首都圏空港(羽田・成田)における国際航空機能拡充プラン」を明らかにしました。これまでチャーター便でソウルと上海にしか就航していなかった国際線を、北京や台北、香港にまで拡大し、しかも近距離アジアへのビジネス路線として「定期便」を運航する構想のようです。このプランも、東京都との上記のような裏約束が推進役になっていたのでしょうか。

今回の騒動、現在の時点では、前原国交相がだいぶトーンを下げています。このままで行ったら、従前からの国交省の方針として冒頭の記事に書かれていた「国交省は昨年5月、羽田と成田の「一体的活用」によって首都圏空港の国際航空機能を高めるという形で、羽田の国際化推進を打ち出した。だが、国際線の拠点を成田とする従来の方針は変えず、羽田の昼間の発着は近距離アジア路線に限るなど成田への配慮が見られた。」まで後退してしまうのではないか、と危惧されます。

それにしても、成田と羽田の一方のみではとても「国際ハブ空港」となる性能は有していないわけです。すると、以下のような形に落ち着くのでしょうか。
(1) 成田と羽田の双方にハブ空港機能を持たせる。
(2) そのためには、成田と羽田の双方に国内線と国際線を就航させる必要がある。
(3) 夜間発着の国際線は、全世界の地域について羽田が担う。
(4) 昼間発着の国際線については成田と羽田で役割分担する。例えば、アジアなど近距離は羽田、ヨーロッパ・アメリカなどの遠距離は成田。

そうするとこれからは飛行機を利用するに際し、成田と羽田のどちらに行けばいいのか、よほどの注意を払う必要が出てきます。今までは、「国内線なら羽田、国際線なら成田」との判断でほとんど間違えませんでしたが。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 佐藤優「自壊する帝国」 | トップ | 民主党政権・特に対アフガニ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

歴史・社会」カテゴリの最新記事