弁理士の日々

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日本での相対的貧困率の推移-再掲

2021-10-11 22:56:27 | 歴史・社会
2009年11月8日に「相対的貧困率データが意味するものは」として記事を載せました。この記事を一昨日再掲しました。

この記事に対して、「相対的貧困率へのコメント 2021-10-10」で再掲したとおり、びいのたけしさんから連合総研のレポートを紹介して戴き、ゆうくんのパパさんから80年代、90年代の相対的貧困率についてOECDのデータを紹介していただきました。

さらに2009年11月27日、「日本での相対的貧困率推移 2009-11-27」として次の記事をアップしました。2009年10月20日に厚労省が公表した「相対的貧困率」のデータから何を読み取るのか、という問題です。
以下に、この記事を再掲します。
--再掲----------------------
私がOECDのデータに直接アクセスすればいいのでしょうが、私はこの分野の専門家というわけでもないので、そこまではやらずに済ませました。そして取り敢えずは、判明した相対的貧困率のデータを1枚のグラフにまとめてみようと思います。
2009年に厚労省が公表した1998~2007年のデータ(pdf)、連合総合生活開発研究所による「公正で健全な経済社会への道」の124ページ図表Ⅱ-2-16「年齢階層別の相対貧困率推移」の中の「年齢計」のデータ(1995~2003年)、それにゆうくんのパパさんがコメントされたOECDデータによる日本の相対的貧困率(80年代:12%、90年代:13.7%)です。連合総研のデータは、グラフから読み取ったので数値は正確でありません。



厚労省データ、連合総研データ、OECDデータそれぞれで若干の上下がありますが、「1985年から2007年にかけて、日本の相対的貧困率は徐々にではあるが確実に増大している」という傾向を読み取ることができます。

吉川徹「学歴分断社会」によると、終戦後から現在に至るまでの経済状況を、三つの時代に分けます。1945~70年が戦後社会、70~95年が総中流社会、1995~現在が格差社会です。客観的にそのような時代であったというよりも、国民の気分がどのような気分だったかで区分けしているようでした。
ところが上記相対的貧困率の推移によると、「総中流社会」と言われた期間内において相対的貧困率は上昇傾向にあり、「格差社会」に名前を変えた以降も徐々に増大し、現在でもまだ上昇傾向が続いている、ということが事実としても言えるようです。

このように、20年以上にわたって日本の相対的貧困率が上昇傾向にあるという事実は、きちんと受け止める必要があります。このデータを「日本の年齢構成が変化したことによるものであり、実質的な格差の度合いは変わっていない」と見るのかどうか、それはデータをよく解析してみないと分かりません。少なくとも詳細解析によって真の姿を解明することは必須です。

また、「OECD諸国の中で、日本の相対的貧困率はワースト4位である」という事実も受け止めるべきです。なぜそのようになったのか、解明しなければなりません。

すべては専門家による詳細な解明が待たれるのですが、取り敢えずは私が六十有余年生きて来た実感を書き留めておこうと思います。
私が小学生だった1960年頃、日本全体が貧乏でしたし、その中での格差も今以上に強烈だった印象があります。テレビドラマ「若者たち」などで描かれていました。
その後、高度経済成長が始まりました。高度経済成長が終焉し、安定成長の時代に入るのが1975年頃でしょうか。「総中流社会」と呼ばれるのが1970年以降ということは、高度経済成長の最終段階で、日本全体が豊かになるとともに格差も是正され、その後25年間にわたって「日本は格差の少ない社会だ」という実感が継続されたことになります。
そして現在が「格差社会」です。

1960年以降の50年間の実感からいうと、むしろ1970~1995年の「総中流社会」が極めて異例の時代だったのではないかとの感想が得られます。日本の2000年間の歴史の中で、あの25年間だけがユートピアのような時代だったのではないかと。それ以前の日本は貧乏でかつ格差もありました。そして現在は、全体は昔ほど貧乏ではありませんが格差が拡大しつつある時代です。

高度成長期とそれに続く総中流時代は、世界の中でも日本が有する特質を生かせる時代でした。堺屋太一氏が「高度工業化社会」と名付けた時代で、日本人の勤勉さや組織を大事にする気質がフルに生かせた時代です。しかしその時代も終わり、現在は、日本がかつて担った高度工業化の部分は、賃金レベルが低い新興国が担うようになり、高賃金の日本はそれとは別の役割で生きて行かざるを得ません。
かつての総中流時代のような幸福な時代が再度到来し得るのかどうか、見通せません。
少なくとも、「総中流時代と同じレベルに戻れて当然」との認識は捨てた方が良いだろうと思います。


ところで、「現在の日本は、相対的貧困率がなぜ徐々に増大してきたのか。OECD諸国の中でなぜ日本は低位のレベルにあるのか。」といった謎を解明するためには、データを解析する必要があります。
先日、連合総合生活開発研究所「公正で健全な経済社会への道」の124ページ図表Ⅱ-2-16に示される年齢階層別の相対貧困率推移について、各年齢別において、例えば30歳未満の相対的貧困率を算出するに際し、中位数の人の所得とは、全年齢合計における中位数の人の所得なのか、それとも30歳未満の人の集合の中での中位数の人の所得なのか、その点が不明だったので、連合総研に直接問い合わせてみました。

結論は以前報告したとおり「年齢階層別の貧困率は、全年齢データの中位数の所得値(等価所得)の半分(50%値)を相対的貧困の基準値としたものです。この基準値を各年齢階層の所得データに当てはめ、この基準値以下の人数が、その年齢階層の人数に対して何%を占めるかという比率がその年齢階層の相対的貧困率です(OECDの相対的貧困率の作業)。」というものでした。

そして連合総研から上記回答を頂いたおり、併せて以下のコメントをいただきました。
「等価所得の計算は、個票データ(世帯単位の所得額を世帯員に配分しなおすため)が必要であり、日本の場合には所得データは国民生活基礎調査が利用されておりますが、個票データの利用には許可が必要でその条件は厳しいようです。」
即ち、国民生活基礎調査のデータを持っている厚労省がなかなかデータ使用許可を出さないので、一般のシンクタンクが有益な解析を行うことが困難です。従って、厚労省自身が独自で有益なデータ解析を行って公表しない限り、われわれは実態を正確に知ることができません。厚労省には態度を変えてほしいものです。
--再掲、以上---------------------

ところで、日本の社会における「格差」は、年々進行しているのでしょうか。そして、OECD諸国の中で劣等生なのでしょうか。
「格差」を調べる上で、以上のような相対的貧困率の他に、ジニ係数が知られています。昨日のテレビのニュース番組で、「ジニ係数で見ると、日本の格差は決して進行してはいない」というグラフが出されていました。
一方では、2009年に私が作成した上記のグラフを見ても、あるいは最近公表されている公的なデータを見ても、相対的貧困率は上昇カーブを描いています。
貧困統計ホームページ
子どもの7人に1人が貧困状態 18年調査で高い水準に 2020年7月17日 朝日新聞デジタル
世界で共通して議論ができる、きちんとしたデータを提示してほしいものです。
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