弁理士の日々

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文藝春秋の高橋洋一論文

2008-01-10 20:13:31 | 歴史・社会
霞が関の埋蔵金騒動以来、財務省の高橋洋一氏がにわかに注目されています。このブログでも報告したとおり、まずは「諸君!」12月号にインタビュー記事が載り、週刊ポストで紹介されました。次いで、文藝春秋1月号に高橋氏の論文が掲載されました。今回はその論文がテーマです。さらに「現代」2月号でも高橋氏が取り上げられているようです。さすがにそこまでは私も手が出ていません。

現在のところ、はぐれ外務省の佐藤優氏と並び、高橋洋一氏ははぐれ財務省として論壇の寵児になっている感があります。この機会に、ぜひ財政の専門知識を生かして真相を解明して欲しいものです。

そこで文藝春秋1月号「大増税キャンペーンに騙されるな~財務省が最も恐れる男が増税論の詐術を論破」高橋洋一(内閣参事官)です。

まず、現在の日本における増税論議を、自民党内の「上げ潮派」と「財政タカ派」の対立として描きます。
「上げ潮派」(竹中平蔵氏、中川秀直氏)まず経済成長率を上げることによって税収を増やし、あわせて歳出カットによって財政再建を目指す。国家の財政といえども日本経済の中の一部分なのだから、まず経済全体が成長すればよいと考える。
「財政タカ派」(与謝野馨氏、谷垣禎一氏)財政再建のためには、なによりも「増税」が必要とする。まず先に財政均衡ありきで、極端に言えば、財政さえ立ち直れば国民経済が多少がたついても構わないという「財政原理主義」である。

自民党の財政改革研究会(与謝野馨会長)は、11月21日、増税を強硬に主張しました。その動きと呼応し、10月17日、「経済財政諮問会議」が示した増税試算があります。
試算の期間は2025年までの18年間。2011年に14兆円の歳出削減ができることを前提に、複数のケースを示しています。
このうち最も悲観的なシナリオは、名目成長率を2.1%に設定し、国の営業収支が大赤字になるとし、29兆円の増税が必要であり、消費税アップで対応すると消費税17%に達するというのです。
楽観的なシナリオを選んでも8兆円の増税が必要と計算しています。

高橋氏は、この試算には4つのトリックがあると言います。

第1に、計算の期間が長すぎる。
2025年までの18年間を対象にしていますが、20年近くあれば消費行動や投資行動が変わるので、かならずモデル自体に構造変化があります。従って、マクロ計量モデルで計算できるのは中短期、せいぜい5年ぐらいです。しかし、「財政タカ派」には何が何でも2025年までの長期間で計算する必要がありました。

第2点として、歳出の増え方がおかしい。
試算では、人件費は賃金上昇率で増加し、公共投資も名目成長率で増加させるといいます。しかし高橋氏の試算でも、社会保障費は伸ばしつつ、他の歳出を減らして全体の歳出を抑えることは可能といいます。実際、小泉政権の5年間で公共投資は3割以上も少なくなりました。つまり「財政タカ派」の試算には、お金の無駄遣いをやめるという前提がすっぽり抜けています。

第3点は、名目成長率が低く設定されていることです。
昨年は3~4%を前提としていたのが、今回は今回の試算では2~3%といつの間にか1%下がっていました。名目成長率が1%低いだけで、GDPは20年間に2割減、税収も20兆円くらい少なくなります。つまり、かなり税収を少なく見積もっているのです。

第4点の最後のトリックは金利の設定です。
そもそも国家にとって財政再建とは、「公債残高のGDP比率を減らす」ことだと高橋氏はいいます。そのためには、「基礎的財政収支を黒字にする」という基本的な条件に加えて、「できるだけ成長率が金利より高くなるようにする」という2つめの条件が必要とします。「成長はしているけれども、金利が低い」という状態になれば、財政再建のために最適です。
これにたいし今回の諮問会議は「金利のほうが必ず成長率より高い」という仮定を置いています。「財政タカ派」は「過去の金利と成長率の関係から、堅実な前提とした」と説明していますが、実は、経済理論では、国債金利と成長率の大小関係は断定できないとされます。今回試算の前提は、日本の金融政策が失敗することを前提としているとも言えます。
ここに、今回試算が期間を2025年までの長期にした理由があります。現在の成長率と金利がイコールである以上、短期間だと金利を高めに設定することができないのです。初めから増税ありきでその結論を導くため、2025年という長期での計算方法を考え出し、増税に都合のよい条件ばかりを引っ張ってきたと、高橋氏は見ます。


「上げ潮派」の中川氏らの説く経済成長路線に対して、「財政タカ派」である与謝野氏は「名目成長率に頼るのは悪魔的」としてきました。しかし、「上げ潮派」のいう4~5%の名目成長率は先進国では当たり前ですから、これで「悪魔的」なら世界中が悪魔だらけということになります。

以上、財務省と与謝野氏らが目論む「増税」路線に対し、高橋氏がした解析をまとめました。日本銀行の愚かなプライドについては次回に譲ります。
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